WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス 5月26日、今季限りでの現役引退を発表した宮里藍(31歳)のニュースは、米ゴルフ界にも瞬時に伝わってきた。 米女子ツアー(LPGA)で通算9勝を挙げて、世界ランキング1位の座にも…
WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス
5月26日、今季限りでの現役引退を発表した宮里藍(31歳)のニュースは、米ゴルフ界にも瞬時に伝わってきた。
米女子ツアー(LPGA)で通算9勝を挙げて、世界ランキング1位の座にも就いた宮里藍の存在は、男子ゴルフ界でもよく知られている。31歳という若さでの引退発表は衝撃的なもので、米ゴルフメディアでも大きく取り上げられた。
今季限りでの現役引退を発表した宮里藍 宮里藍がアメリカに来てから12年。その間、男子のPGAツアーの試合を観戦したことが何度かある。
米ツアー本格参戦2年目を迎える2007年のオフには、年明けから長男の聖志、次男の優作と3兄弟そろってハワイでオフのトレーニングを実施。確か、ハワイ大学のキャンパスで過ごしていたと記憶している。当時の宮里藍は、日本ではタイガー・ウッズ並みのスーパースター。もちろん今でも大人気ではあるけれども、その頃の注目度は尋常ではなかった。彼女の一挙手一投足を逃すまいと、行く先々でメディアやファンが殺到していた。
そんな彼女がトレーニング拠点のすぐ近く、ワイアラエCCで開催されていたソニー・オープン・イン・ハワイを観戦。コースに足を運んだのは、同大会に出場していた兄・優作の応援のため、だったように思う。
時のゴルフ記者たちは、試合そっちのけで宮里藍の姿を追いかけた。PGAツアー観戦の感想をひと言、彼女から聞きたかったからだ。そして、記者たちは囲み取材を依頼した。
すると、彼女はマネジャーと相談して、こう返答した。
「せっかくなので、試合でプレーしている選手のことを記事にしてほしい。だから、私のコメントは差し控えたい」
当時の彼女は21歳。自身を取り巻く報道の過熱ぶりに、やや苦慮していた姿は今でも鮮明に記憶している。それでも、常に彼女は自分なりに精一杯メディアに対応してきた。このときも、単に「(コメント)できません」ではなく、きちんと理由を説明して回答してくれた。その姿勢は、とても宮里藍らしいと、今さらながらに思い出される。
翌2008年には、今度は男子メジャーのマスターズの観戦に訪れた。
宮里藍はその週の試合を休んでオフウィークを過ごしていたが、翌週の試合がフロリダ州で行なわれるので、その移動を利用して3日目に立ち寄ったのだった。ちなみに、マスターズは観戦チケットの入手が非常に困難だが、米LPGAツアーの選手はツアーバッヂを見せれば入場することができる。
このときの宮里藍のお目当ては、その当時、世界の王者として君臨していたタイガー・ウッズをじっくりと見ることだった。この日はあいにくの雨。途中、雷による中断もあったが、宮里藍は大観衆に交じってウッズのプレーを必死に追いかけていた。
彼女が特に関心を持っていたのは、「試合に入る前の練習の仕方や、ショットを打つ前のルーティン」だった。「それらをじっくり見たい」と語っていた。
実際、宮里藍は早々に練習場に到着すると、一番前の席に陣取っていた。ウッズが練習場入りするや、その姿に釘づけとなって一挙一動に見入っていた。
さらにラウンドが始まると、今度はコースに出て1番から最終ホールまでウッズについて回った。ウッズの組はパトロンが最も集まって、観戦するのは本当に大変なのだが、宮里藍は小さな隙間を見つけてはウッズのプレーを注視。ひとつ、ひとつのプレーを、まさに食い入るように見つめていた。
その年のマスターズでは、ウッズは「パッティングの不調」で勝てなかった(2位)。そんな苦悩するウッズの姿を、宮里藍も目の当たりにしていた。そして彼女は、世界最強のウッズでも「パットが入らないと、ここでは勝てないのだな」ということを痛感した。
のちに彼女は、このときのことをこうも語っている。
「タイガーは、パットのフィーリングが悪そうだった。でも、そのときにどうやって気持ちを切り替えているのか、プレーの合間にはどんなことをしているのかを、よく見てきました」
その翌年、宮里藍は米女子ツアーでついに初優勝を遂げた。さらに2010年には年間5勝を挙げて、自身が世界ランキング1位の座に就くことになった。マスターズでウッズの所作を目の当たりにしたことが、彼女に少なからず影響を与えたことは間違いないだろう。
「モチベーションの維持が難しくなった」と、31歳で引退を決めた宮里藍。しかし、「メジャーで勝ちたい、という気持ちは変わっていない」という。その辺りは、どこかウッズに似ているような気がする。
今季、女子メジャーはまだ4試合残されている。最後だと思って、彼女はきっとがんばるはずだ。
何かミラクルが起こるのではないか――そんな予感がするのは、私だけではないかもしれない。