ソフトバンクがドラフト1位指名を公言、誉(愛知)の将来有望の遊撃手 2年半で急成長を遂げ、ソフトバンクがドラフト1位指名を公言するまでの選手になった。愛知・誉のイヒネ・イツア内野手は高校入学時に66キロだった体重を82キロまで増やした。持ち…

ソフトバンクがドラフト1位指名を公言、誉(愛知)の将来有望の遊撃手

 2年半で急成長を遂げ、ソフトバンクがドラフト1位指名を公言するまでの選手になった。愛知・誉のイヒネ・イツア内野手は高校入学時に66キロだった体重を82キロまで増やした。持ち前のスピードにパワーが加わり、スイングスピードは40キロアップ。全国200校ほどの野球部員が参加する体力テストでは、メディシンボール投げと立ち三段跳びでトップ3に入った身体能力を誇る。一体どれほどの選手になるのか。可能性を秘めたドラフト1位候補が指名を待つ。

 身長188センチ、体重82キロ。長い手足が目を引き、ユニホームの上からでも胸板の厚さや下半身の筋肉が分かる。しかし、2年半前に誉高に入学した時のイヒネの体重は66キロ。モデルのような体型だったという。

 中学時代は決して有名な選手ではない。「目標はプロ野球選手」。周囲に公言しても、チームメートは半信半疑だった。身体能力は高くても、パワー不足は明らかだった。

 イヒネ自身も課題を認識していた。憧れのソフトバンク・柳田悠岐外野手のように、とにかく強くバットを振り、スイング力を強化した。そして、強いスイングに必要な体づくりを進めた。まずは、食事から。体重を増やすために、1食で1.2キロの白米を食べた。筋力トレーニングを日課にし、打撃練習では砂が入った重い球を打ってパワーアップを図った。

「強いスイングをして、強い打球を飛ばせなければプロには行けないと考えていました」

「難しさが新鮮」サッカー少年から野球の道へ バスケと“二刀流”の時期も

 フィジカルを重視する矢幡真也監督の指導方針もあって、イヒネの体は変わっていった。モデル体型から野球選手の体へ。体重は82キロと16キロも増えた。打球の鋭さも増していった。入学当初110キロだったスイングスピードは150キロまで上昇。飛距離も伸び、本塁打が出るようになった。

「いつも監督にはプロに行きたいなら、言葉だけではなく行動で示すように言われていました。高校1年からレギュラーだったわけではないので、他の選手よりプラスで練習する意識を持っていました」

 運動能力は子どもの頃から、ずば抜けていた。ただ、運命の歯車が少しずれていたら、別の競技で高校トップクラスの選手になっていたかもしれない。野球チームに入ったのは小学3年生の時。友達に誘われて練習体験に参加した。それまでバットやグラブを扱ったことはなかった。両親はサッカーが盛んなナイジェリア出身。物心がついた時には、イヒネはサッカーボールを蹴っていたという。野球を初体験した当時、探していたのはサッカーチームだった。

 野球チームの練習体験では上手くバットにボールが当たらず、ゴロの捕球もできなかった。だが、それが楽しかった。

「難しさが新鮮でした。野球をやろうと決めました」

 小学校高学年になるとバスケットボールのチームに勧誘され、二足のわらじを履いた時期もあった。バスケットの試合に出場すると、おもしろいようにシュートが決まり、リバウンドでも存在感は抜群だった。イヒネは「土曜はバスケットの試合に出て、日曜は野球に出場した時もありました。バスケットは自分がいないとチームは苦戦しているようでした」と振り返る。

矢幡監督が驚くイヒネの身体能力 体力テストで全国トップ3

 体育の授業などでバレーボールやハンドボールをしても、未経験とは思えない動きを見せた。「どのように動いたらいいかイメージしています」。頭で描いた姿を体現したり、上手い選手のまねをしたりする能力に長けているのは、イヒネの特長であり、野球の上達にも生きている。子どもの頃に複数のスポーツを経験し、自然と動きのバリエーションを身に付けたのかもしれない。

 持ち前のスピードやバネといった身体能力の高さに、高校ではパワーが加わった。矢幡監督が課したフィジカルトレーニングのメニューは、どんどんハードになっていった。入学当初66キロの細身で非力だったイヒネは、急速に成長していく。指揮官は「他の選手の2倍、3倍のスピードで伸びていきました。こんな成長曲線見たことないです」と評する。

 矢幡監督が特に驚くのが、自分の体を思い通りに動かす操作能力と自分の筋力を発揮する筋出力。それを証明する数字もある。重さ5キロのメディシンボールを後ろ向きに投げるテストでは21メートルを記録。全国約200校の選手が参加したテストで2位に入った。

 助走せずに、その場から三段跳びするテストは8.5メートル。最高評価Sの基準となる7.5メートルを軽々と超え、全国3位だった。矢幡監督は「野球はスピード×パワーだと思っています。元々スピードがあったイツアは高校でパワーを強化して、プロのスカウトにも注目される選手になりました。ただ、体はまだでき上がっていません。プロで本格的に鍛えたら、とんでもない選手になると思っています」と期待する。

 ドラフト会議まで、あと2日。すでにソフトバンクが1位指名を明らかにしている。「高い評価に感謝していますし、信じられない気持ちです。チームメートやファンが望むところで結果を出せる打者になりたいです」。イヒネの成長や可能性は、まだまだ終着点が見えない。プロの世界へと続く。(間淳 / Jun Aida)