ケンドーコバヤシ令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(7)後編(前編:前田日明がキレた理由が「ホンマにわからない」。リングスでのディック・フライ踏みつけ事件>>) リングス時代の前田日明が試合後に突然キレた、1994年7月14日のディック・フラ…

ケンドーコバヤシ
令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(7)後編

(前編:前田日明がキレた理由が「ホンマにわからない」。リングスでのディック・フライ踏みつけ事件>>)

 リングス時代の前田日明が試合後に突然キレた、1994年7月14日のディック・フライ戦。キレた理由を探るために、ケンドーコバヤシさんが試合内容とともに「検証が必要」と語った場面とは。リングスが日本の格闘技界に残した功績と併せて語った。



前田日明(右)が旗揚げしたリングスには、佐竹雅昭(左)などのちにK-1で活躍する選手も多く参戦した

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――前田vsフライ戦で、本当に検証したい部分は何ですか?

「それは前田さんがリングを去ったあとのことなんです。放送席も慌てていて、実況の高柳謙一アナウンサーも解説者も前田さんがキレた理由について『何かあったんですかね?』と混乱していた。そして『前田選手の大会総括があるんでそれを待ちましょう』と、控室のインタビュー映像に切り替わったんです」

――WOWOWのリングス中継では毎回、試合後に前田さんの控室インタビューを放送していましたね。

「ただこの時は、前田さんがイスに座ったあとも、リングでキレた姿を目撃したばかりの記者たちがなかなか質問できなくて。ヘタなことを聞いて、怒りを買うのが怖かったんでしょう。しばしの沈黙を経て、前田さんがようやく口を開くんですけど......何を言っているのかマジでわからないんですよ(笑)。

俺はVHSビデオで試合を見たから音声が不明瞭になったのかもしれませんけど、文字にすると『〇※◎△%×』みたいな感じ。沖縄の控室で、アントニオ猪木さんに反旗を翻した藤波(辰爾)さんの"飛竜革命"での発言も聞き取れないことで有名ですけど、この時の前田さんはその比じゃないです」

――そこまで聞き取れなかったんですか?

「いや、ホンマですよ。だから、デジタルリマスターの技術で修復してほしいんです。現代のすごい技術を使えば聞き取れるようになるんちゃうかと。聖徳太子の声を再現したり、『紅白歌合戦』では美空ひばりさんの歌声をAIでよみがえらせたくらいですから。NHKさんに前田さんの控室映像を持ち込んで、言語学者とかに声紋を解析してほしいんですよ。それくらいしないといけないレベルなんです(笑)」

――それはぜひ、実現してほしいです!

「ただ、インタビューの後半になると、少しは聞き取れるようになってくるんです。『10年分、キレたな。あぁちきしょう』とか。だんだん前田さんのトーンが下がってきて、記者にフライへのペナルティについて問われると、『いや、今回俺のほうが悪いから。帰って謝ります』と断言した。それで生中継は終わったんです」

――前田さんがこの試合でキレた理由については、フライが掌底を放った時に故意に目を狙ったというのが定説になっています。その説はどう捉えていますか?

「確かに、俺も記事を読んだりして、フライが前田さんの目に指を入れたことが定説になっていることは知ってます。ただ、試合をあらためて見た時には、フライの指が目に入ってるのを確認できなくて。さらに、試合後の控室で前田さんは『俺もやり返したけどね』と言っている。確かに先に指を立てたのはフライだったかもしれないけど、前田さんも故意に反則を犯しているんですよ。これは、いかがなものかと(笑)。

 当時のリングスは常にリング上がギスギスしていて、この試合以外にも不穏な雰囲気になる試合はありました。ただ、その"危ない空気"がリングスの魅力でしたし、俺は好きでしたね」

――リングスは、前田さんがオランダ、旧ソ連、南米などで格闘家を発掘し、プロの試合をさせた画期的な団体でした。

「俺は新生UWFから分裂したリングス、UWFインター、藤原組の3団体は贔屓なしに見ていました。でも、リングスは当初、日本人選手が前田さんと長井満也さんの2人しかいなかったので感情移入するのが一番難しかったですね。

 ただ、格闘技の歴史を振り返る際に、リングス抜きで語られているのを聞くと悲しいですね。今のRIZINの前身であるPRIDEはUWFから生まれ、立ち技のK-1は独自路線できたと言われることもあるんですけど、それは違う。両方の歴史からリングスが抜け落ちているんです。K-1も正道会館がリングスに参戦して、佐竹雅昭さんなどが名前を売ったから生まれたもの。今のキック人気があるのも、いわばリングス経由ですから、前田さんもそんな扱いをされるのは悔しいはずです」

――エメリヤーエンコ・ヒョードル、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラといった、のちにPRIDEで覇権を争うような選手も活躍していたことを、知らないファンが多くなっているかもしれません。

「振り返ればマジですごい団体ですから、いろいろ深掘りすると面白いはずです。当時、前田さんはリングスについて『日本の団体ではない』と言ってました。世界各国、いろんな国に道場を設立して日本で戦わせるという構想はホンマすごかった。リングスのおかげで、ジョージア(当時の呼称はグルジア)とか知らない国を覚えましたからね。選手も、ブザリアシビリ・ラマジとかグロム・ザザ......彼らがリングを離れたあとに何をしているのかはわかりませんけど、今でもスラスラ名前が出てきますよ(笑)」

――まさに総合格闘技の祖ですね。

「だからこそ、『前田vsフライ』は検証せなアカン。前田さんのコメントの解読はNHKさんにお任せするしかないでしょう。もし解読できたら、この試合だけじゃなくて長州力さん、天龍源一郎さん、藤波さんといった、これまで不明のままだった発言がすべて明らかになるかもしれません。そうなったら、プロレスの歴史が覆りそうですよね。まずは映像資料を集めましょう!」