山本昌(元中日)がドラフト候補を徹底分析する人気企画の2022年最終版。前回の甲子園出場投手に続き、今回は甲子園不出場の好素材と大学生・社会人の実力派を厳選。11人の好投手のなかで、レジェンドの眼鏡にかなう逸材はいたのか? 10月20日の…

 山本昌(元中日)がドラフト候補を徹底分析する人気企画の2022年最終版。前回の甲子園出場投手に続き、今回は甲子園不出場の好素材と大学生・社会人の実力派を厳選。11人の好投手のなかで、レジェンドの眼鏡にかなう逸材はいたのか? 10月20日のドラフト会議に向けて、好投手の実力とポテンシャルをチェックしよう。

山本昌の夏の甲子園で輝いた11人の好投手診断はこちら>>



広島がドラフト1位指名を明言した苫小牧中央の斉藤優汰

斉藤優汰(苫小牧中央/189センチ・91キロ/右投左打)

広島が1位指名を明言しましたが、その前から苫小牧中央にドラフト1位候補がいると耳にしていました。190センチ近い長身にもかかわらず、動作をまとめられるのが大きな特長です。ホームに向かって真っすぐラインをつくれて、高校生ながら150キロ近いスピードボールを投げられる。下半身の厚みを見ても、厳しい練習で鍛え上げてきたことがうかがえます。体に力が入った時に左肩の開きが早くなり、シュート回転が強くなる傾向はあるものの十分改善できるポイントです。あとはボールをやや押し出し気味のリリースも、ボールを切るような感覚をつかめたらなおよしです。今まで以上に角度を生かせるようになり、すばらしい投手になれるはずです。



サイドスローから150キロのストレートを投げ込む常葉大菊川の安西叶翔

安西叶翔(常葉大菊川/186センチ・86キロ/右投右打)

立ち姿や始動はオーバースローの雰囲気がありながら、腕の振りはサイド気味に出てくる。ボールには伸びがあるし、腕が遅れて出てくるので打者はタイミングがとりづらいはずです。サイドスローに転向して間もないと聞きましたが、そう見えないほどまとまりを感じます。上背と馬力があるのでスピードが出るし、高校生相手ならほとんどストレートの配球でも十分抑えられています。これから上の世界で活躍するには、変化球の精度が課題になりそうです。腕を振る際に手が体から離れすぎる印象があるので、手首を立てた状態のまま手が体にまとわりついてくるように振れるとさらによくなるでしょう。面白い素材だと感じます。



芝草宇宙監督の指導を求め、北海道から新潟にやって来た帝京長岡・茨木秀俊

茨木秀俊(帝京長岡/182センチ・85キロ/右投右打)

ラインをしっかりつくれて、非常にまとまっています。とくにボールが体から離れていくテイクバックが、すごくいいです。腕の振り幅が大きくなり、ボールに力を伝えられるようになります。現状はスリムな体型で常時140キロにも満たない球速ですが、こういうタイプは体に力がついてくればすごく伸びるはず。僕は好きなタイプです。元日本ハムの芝草宇宙監督の指導を受けるために北海道から新潟に来たと聞きましたが、技術的にも精神的にもいい指導を受けていると感じます。現時点で指摘すべき明確な課題も見つからないほど、よくまとまっている投手です。上の世界でも通用する可能性は十二分にあります。



オリックスが1位指名を公言した白鴎大・曽谷龍平

曽谷龍平(白鴎大/182センチ・80キロ/左投左打)

オリックスが1位指名を公言した左投手です。長身から角度のついたボールが投げられて、とくにストレートのキレは抜群です。ラインをしっかりつくれて、コントロールもまずまず。スリークオーターに近い腕の振りですが、いかにも左打者にイヤがられそうなフォームですね。右打者に対してもインコースにクロスして入ってくるストレートがすばらしい。スライダー系の球種とのコンビネーションで抑えるイメージが湧いてきます。大学では先発投手として活躍しているようですが、プロではリリーフ適性を生かしたほうがいいのかなと感じます。先発での活躍を目指すなら、球種を増やして投球のバリエーションを広げたいところです。



長身から投げ下ろす最速154キロのストレートが魅力の立教大・荘司康誠

荘司康誠(立教大/188センチ・86キロ/右投右打)

ひと目見ただけで、「いいピッチャーだなぁ」と感じます。ホームベースに向かって真っすぐに体重移動できて、ラインが崩れない。そのなかで強く腕が振れるので、打者からすると急にボールが出てくる錯覚を起こすのではないでしょうか。常時140キロ台中盤のスピードがあるうえに、球速差があまりないカットボール、スプリットと速い変化球も投げ分けられる。おそらく「左肩の開きが少し早い」と何百回と言われてきているでしょうが、別にシュート回転が強いわけではありませんし、ボールに角度がついているので問題ありません。誰かに投げ姿が似ていると感じていたのですが、西口文也くん(元西武)ですね。将来は先発投手としてバリバリやれる素材だと感じます。



二刀流としても注目の日体大・矢澤宏太

矢澤宏太(日本体育大/173センチ・71キロ/左投左打)

日本ハムが1位指名を公言。じつは、彼が藤嶺藤沢高にいた時に私の母校(日大藤沢高)と試合をしたので、見たことがありました。当時は打撃がすごいという印象でしたが、4年間で投球がここまで伸びるとは驚きました。日本体育大と言えば、中日時代の後輩である辻孟彦コーチの手腕もあって毎年好投手を育成してきますが、矢澤くんも順調に成長したようですね。上背はさほどなくても、フォームはまとまっています。サウスポーで150キロを投げられるというだけでも希少価値があり、相当な素質があります。ガッツもありそうですし、投手としてはリリーフ適性のほうが高いのかなと感じます。とはいえ、伸びしろは十分にありますから、投球面の引き出しが増えてくれば先発での活躍も見込めるでしょう。また、矢澤くんはプロで投打の"二刀流"を続けたい意思を持っていると聞きましたが、それならパ・リーグの球団に進んだほうがいいでしょうね。セ・リーグの球団で守備につきながら投打の二刀流をこなすのは、体力的に非常に大変ですから。



3年春のリーグ戦で完全試合を達成した富士大・金村尚真

金村尚真(富士大/176センチ・82キロ/右投右打)

1球見て、かつて「精密機械」と呼ばれた攝津正くん(元ソフトバンク)の姿が重なりました。静かに始動して、静かに体重移動して、最後に力強く腕が振れる。ストレートのキレがいいし、変化球も多彩。プロでは先発タイプとして、2ケタ勝利を期待したくなります。上背はさほどありませんが、軸足(右足)で立った後に右ヒザをあまり折らずに体重移動できるのでボールに角度が生まれ、タテの変化球も鋭く落ちます。腕が強く振れているので、カーブもしっかり曲がって緩急も使えるのは大きいです。攝津くんのようにコントロールもよく、ゲームメイク能力の高い投手になりそうです。



最速152キロを誇る専修大の菊地吏玖

菊地吏玖(専修大/183センチ・93キロ/右投左打)

ストレートのキレが印象的な好投手です。2部リーグ所属の投手とはいえ、全国屈指のレベルの高さを誇る東都大学リーグですし、そこで圧倒的な成績を収めているのはもっと評価されていいと感じます。ややアウトステップが気になるフォームではありますが、ラインはしっかりとつくれて変化球を含めてコントロールがいい。球速も140キロ台後半が出ますし、何よりも打者のバットを押し返すような球威があるのは好印象です。プロでも先発タイプとして評価されるはずです。気になる点を挙げるとすれば、軸足で立った後に右ヒザが折れるのが少し早いためボールに角度が出づらく、押し出すようなリリースになっていること。幅広い球種を操るには、改善したいポイントですね。



常時150キロ近いストレートを投げる東芝の吉村貢司郎

吉村貢司郎(東芝/183センチ・84キロ/右投右打)

CS直前のヤクルトとの練習試合で村上宗隆選手から三振を奪うなど、3回7奪三振と快投を見せた投手だそうですね。昨年のドラフト会議では指名漏れでしたが、今年はドラフト指名待ったなしという印象です。ラインはしっかりとしているし、スプリットやカットボールといった小さく変化するボールの扱いに長けています。カーブは少し抜け気味なのが、逆にいいアクセントになっています。空振りを奪えるスプリットがあるので、プロでは抑え適性が高いのかなと感じます。これだけ三振を奪える投手はプロでも少ないので、重宝されるはずです。



最速153キロの速球と多彩な変化球が魅力の東京ガス・益田武尚

益田武尚(東京ガス/175センチ・86キロ/右投右打)

大卒2年目の社会人投手らしい、まとまりを感じます。投げっぷりのよさ、変化球の多彩さも目を引き、社会人の厳しい世界で揉まれた経験も買いたいです。とにかく腕の振りが速い投手なので、ストレートが速いだけでなく、高速で変化する球種にもキレがあります。三振奪取能力が高く、リリーフだけでなく先発もこなせるだけの可能性を秘めています。蛇足ながら、端正な顔立ちも人気を呼びそうですね。少しアウトステップ気味なのは気になりますが、本人の感覚優先で投球に磨きをかけてもらいたいです。



今年夏の都市対抗で4回を無安打、7奪三振の快投を見せたトヨタ自動車・吉野光樹

吉野光樹(トヨタ自動車/176センチ・78キロ/右投右打)

上背はそれほどなくても、軸がしっかりしていて体重移動も素直。始動は少し変則的でも、最終的にボールをしっかりと叩けるのでタテの変化球が鋭く曲がります。さすが名門・トヨタ自動車で揉まれた投手だなと感じます。トヨタの投手といえば、金子千尋くん(日本ハム)、吉見一起くん(元中日)、祖父江大輔くん(中日)、栗林良吏くん(広島)と、みんなプロで活躍しているイメージがあります。吉野くんのフォームですばらしいと感じるのは、左腰の使い方です。左腰が少し下がり、左腰とリリースの位置が遠くなるので、カーブをしっかりと抜いて投げられる。腕も強く振れているので、打者からするとタイミングがとりにくいはず。ボールがよく走るストレートとの緩急差がつけられて、プロでも先発投手として活躍できるイメージが湧きます。

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 今年は「不作ドラフト」と言われているそうですが、こうして分析していくと今年もハイレベルな投手が揃っていると感じます。前回に分析した甲子園出場投手も将来性が高い投手ばかりでした。

 とくに目を引いたのは、荘司康誠くん(立教大)と金村尚真くん(富士大)のふたりで、大きな可能性を感じました。私自身が先発投手をしていた分、どうしても先発タイプに目が向いてしまうのですが、今の野球界はリリーフの重要性も上がっています。リリーフのほうが早い時期から一軍で投げられるチャンスがあるという考え方もありますし、どの投手もプロの厳しい世界でその実力をいかんなく発揮してほしいと願います。