「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE …

「THE ANSWER スペシャリスト論」女子プロゴルファー・北田瑠衣

「THE ANSWER」が各スポーツ界を代表するアスリート、指導者らを「スペシャリスト」とし、第一線を知る立場だからこその視点で様々なスポーツ界の話題を語る連載「THE ANSWER スペシャリスト論」。女子ゴルフでツアー通算6勝を挙げた北田瑠衣(フリー)は「THE ANSWER」スペシャリストの一人を務め、ゴルフ界のトレンドやツアーの評論、自身の経験談まで定期連載で発信する。

 今回のテーマは「シーズン終盤の戦い方」。今季が残りわずかとなった中、来季シード(優先試合出場)権を確定させていない選手たちは、メルセデス・ランク(MR)50位入りを目指し、必死になっている。10年連続でシードを保持した北田は、自身の経験を基にこの時期の戦い方、マインドの持ち方などを語った。(文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 シーズン終盤戦。選手たちがヒリヒリする時期になってきた。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、今季から翌シーズンのシード権を決めるシステムをMRに一本化した。昨季まで併用された賞金ランクだと、高額賞金の試合で一発上位に入れば、「シード確定」に大きく前進することもあった。しかし、試合ごとのポイント格差が小さいMRでは、シーズンを通して安定した結果を出すことが重要視される。

 ポイントが3日間大会の1.5倍に換算される4日間大会も残す状況。50位以内を確定させていない選手たちは、どんな心境でいるのか。2006年から10年連続シードを保持した北田が明かす。

「もう焦りしかないですよ。今、MRの圏内いる選手、圏外の選手も予選落ちはできないし、『絶対に成績を残さないといけない』と思っています。大事なのは何と言っても初日です。いい位置につければ、気持ちに余裕も出てきますが、出遅れれば、さらにプレッシャーがかかり、思うように体が動かなくなり、ミスが出やすい状況になります。これまでの試合を振り返り、『ああ、あの一打が』と後悔する選手もいると思いますが、まだ可能性がある状況なら、あきらめずに持てる力を出し切ってほしいです」

 50位以内に入れなくても、51位~55位の選手は「準シード」の位置付けで、リランキングが実施される来季前半戦までの試合出場が可能。56位以下の選手でも、ツアー最終予選会(QT=11月29~12月2日、岡山・JFE瀬戸内海GC)で40位以内に入れば、準シードに近い状況にはなることから、北田は「今からQTを想定して調整することも良い選択」と言った。

「私は2004年に3勝し、賞金ランク3位になりましたが、2005年はパターイップスに陥り、予選落ちが連続する状況になりました。なので、夏の時点でQTに回ることをイメージし、そこに向けて何をどうするかを考えるようになりました。もちろん、目の前の試合に向けてもやるべきことはやりますが、調子が悪い時は練習中も悪いので、ストレスは増すばかり。そういう状況で『一打一打を全力で』と言われ、必死になっても、自分の心が持たなくなりますから」

パターイップスに悩んだ北田、シード選手に復帰できた理由

 05年の終盤5試合、北田は10月の富士通レディースから4試合連続で予選落ちだったが、自身の最終戦となった大王製紙レディースは16位に入った。賞金ランクは60位。シード落ちはしたものの、最終QTは上位で突破し、翌06年の出場権を確保した(当時、リランキング制度はなし)。

「今、振り返ると、自分の中で開き直ったことが大きかったですね。パターイップスの状態は続いていましたが、やることはやってきたので、『どこに飛んで行くかはボールに聞いてくれ』『これでダメなら、ゴルフを辞めればいい』とさえ思って会場に入りました。なので、焦る気持ちが消えて結果もついてきました。私は神様が『まだ、ゴルフを続けなさい』と言っていると思い、そのオフも懸命に練習しました」

 だが、シード落ちをし、QTも下位に沈む選手は例年出てくる。今季は30代以上の奮闘も目立つが、出場権を逃したことをきっかけに、ベテランがツアーから離れていく現実もある。

「長くプロの第一線で頑張ってきたベテランは、いろんな経験をしています。なので、この時期になっても意外と焦ってなく、QTでも結果を出せたりもします。ダメなら仕方ないことですし、そこからゴルフとの新しい向き合い方もできます。試合を重ねて蓄積された心身の疲労をリフレッシュし、プライベートな時間を充実させることも、長い人生では大切なことですから」

 今、北田は子育てをしながら、解説、リポーター、レッスンなどでゴルフに携わっている。ルーキーの頃から「お手本」にしてきた元賞金女王の不動裕理とは、食事をする関係にもなったという。

「地味な練習をコツコツ続ける姿を見ては、『トップにいる人がこんなにも』と思っていました。試合になると、不動さんはぶつぶつと独り言を口にしていましたが、私は話しかける勇気もありませんでした。ですが、時を経て食事をしながら、初めて『ラウンド中、何を話しているんですか』と聞いてみると、不動さんは『ボールとクラブと会話をしている』と答えてくれました。

 それだけ、プレーに集中できているということです。今の選手にとっても、学ぶべきところの多い先輩。私もあらためてそのすごさを知りましたし、話せるようになって良かったなと思います」(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)