「昌平高校サッカー部、躍進の理由」後編、2012年に中学生年代のFC LAVIDAを創設 埼玉・昌平高校サッカー部は、2…

「昌平高校サッカー部、躍進の理由」後編、2012年に中学生年代のFC LAVIDAを創設

 埼玉・昌平高校サッカー部は、2007年に藤島崇之監督が着任して10年あまりで全国区の強豪に上り詰めた。17年から6年続けてプロ選手を輩出し、来季も2人のJリーグクラブへの加入が内定。15人もの有能な指導スタッフを抱える恵まれた環境面に加え、中学生年代のクラブチームと連携したことが、強豪への道を加速させたのは間違いない。それが、国内でも指折りの育成クラブとなったFC LAVIDA(ラヴィーダ)だ。昌平のコーチ陣が指導にあたる、その活動に迫った。(取材・文=河野 正)

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 LAVIDAの創設は2012年。3学年揃った14年に高円宮杯U-15埼玉県クラブリーグBで優勝し、翌年は同リーグAを制した。17年には高円宮杯埼玉県U-15リーグ2部を勝ち抜き、18年は同リーグ1部も制覇して関東U-15リーグ2部へ昇格し、ここでも優勝をさらう。毎年上のステージへ着実に進んでは、必ず頂点に立つ無類の強さを発揮してきたのだ。

「高校に進むと、中学でやってきたサッカーとの違いによる気苦労を感じることがあります。それをいい方向に変え、じっくり育成するには3年では足りない。6年かけて一貫指導するのが有効だと考えました」

 藤島監督は、“チーム昌平”のジュニアユースという位置づけで設立した狙いをこう説明する。

 20年には中学生年代で最高峰の関東U-15リーグ1部に初挑戦し、浦和レッズや鹿島アントラーズといったJリーグのアカデミーチームを抑えて優勝。昨季も2位のFC東京U-15むさしに勝ち点10の大差をつけ、全勝で2連覇を遂げている。

 昨年12月の高円宮杯JFA第33回全日本U-15選手権では、1回戦から準決勝までガンバ大阪、ファジアーノ岡山、徳島ヴォルティス、鹿島というJリーグの育成チームを連破。サガン鳥栖との決勝は1-4で敗れたものの、街クラブの域を超えた実力を全国に見せつけた。

 藤島監督と千葉・習志野高の同僚、LAVIDAの村松明人監督は、指導理念について「一番大切なのは選手の特長を消さないこと。個を発揮できる選手を育てることが私たちの使命と考えています。12歳のお子さんを預かり、ジュニアの指導者から『6年生まではいい選手だったのに……』と言われないように個の長所を伸ばしていこう、という考えで取り組んでいます」と解説した。

今春にはLAVIDAの14選手が昌平高校に進学

 2年目に久喜市のあけぼのFCから好選手を送ってもらい、戦えるチームに成長。鹿島のMF小川優介、アルビレックス新潟のFW小見洋太の4期以降は才能の宝庫である。

 ともにギラヴァンツ北九州の平原隆暉と井野文太の両MF、福島ユナイテッドのDF八木大翔が5期生で、4月のU-19日本代表候補に高体連から唯一選ばれ、FC東京へ来季加入予定のMF荒井悠汰と鹿島入りが内定している主将のDF津久井佳祐が6期。7期のFW小田晄平とDF石川穂高は3月にU-17日本代表入りし、8期のDF上原悠都はU-16日本代表として、10月9日までヨルダンで行われたU17アジアカップ予選に出場した。

 現在中学3年の9期生、MF山口豪太はU-16日本代表として5月のルーマニア、8月のウズベキスタン両遠征に中学生で唯一選ばれ、MF長璃喜は3月と8月のU-15日本代表候補合宿に参加。年代別の日本代表は14人を数える。

 山口は昌平の一員として、4月9日のプリンスリーグ関東1部、東京・帝京高との開幕戦に途中出場し、8月のユースワールドチャレンジ・プレ大会には全3試合でピッチに立った。「LAVIDAは自分の特長であるドリブルを活用できてすごく楽しい。ひと振りで射貫く左足シュートには自信があり、将来はJリーグと海外クラブで活躍するのが夢です」と、プレーの鋭さとは対照的にゆったりとした口調の穏やかな選手だ。

 帝京高戦の先発と交代出場した5人のうち、4人がLAVIDA出身で、4強入りした今夏の全国高校総体(インターハイ)やプリンスリーグ関東もLAVIDAのOBを軸に編成している。

 村松監督は昌平のコーチという立場から「LAVIDAの選手だから(起用する)といった感覚はまるでありません。他チームから入った特長のある好選手もいるが、あくまで競争した結果です」と述べる。

 今春は上原やFW鄭志錫ら14人が“トップチーム”に昇格した。

 藤島監督はLAVIDAの指導には関わらず、10人の優れた指南役に任せている。練習は学年別に週3回、昌平のグラウンドで行い、火曜日だけ全学年が揃う。村松監督によると対人練習ではやりにくい環境をあえてつくり、選手のアイデアや工夫を試す内容に時間を割くそうだ。

 予測と反応によるボール奪取能力に優れる津久井は、「LAVIDAでは毎日対人練習をやり、数的に不利な状況の中で1対1を繰り返しました。予測でボールを奪う力が磨かれたのはそのおかげです」と答えた。

「いずれは日本代表選手を輩出したい」

 昌平もLAVIDAも全員がドリブルの使い手で、守備が強固だ。

 村松監督は「LAVIDAの選手は運ぶドリブルと突破するドリブルを身につけ、スピーディーにゴールへ向かう姿勢は昌平よりも力強いと思う。個で打開するプレーは見ていてスカッとします」と誇らしげだ。

 2連覇した昨季の関東U-15リーグ1部は、9試合で5失点という堅陣。絶え間ない厳しいプレスと複数での囲い込みも両チームに似通った守備メソッドで、平原は「村松さんにはボールを奪う守備を徹底的に教わり、取り切る意識と能力がずいぶんと向上しました」と振り返る。

 FC東京のJFA・Jリーグ特別指定選手として、今季のルヴァンカップ予選リーグ3試合に出場した攻撃の大黒柱である荒井も、LAVIDAで受けた守備の薫陶が今に生きているそうだ。「奪われたらすぐに取り返す、という切り替えの部分を多く学んだ。守備のことを口酸っぱく指導されましたが、その意識が身についたことで成長できたと思う。村松さんに出会えたから今の自分があるし、昌平のサッカーにもスムーズに入れました」と謝辞を述べる。

 今季はチームとして攻守にやや安定感を欠き、関東U-15リーグ1部の3連覇を逃した。とはいえ、LAVIDAがこの世代をリードする存在であることに変わりはない。

 短期間での出世栄達。コーチ全員が常に問題意識を持って取り組み、大胆なイノベーションにも挑戦してきたからだ。6年間の一貫指導で原石はさらに輝きを放ち、「いずれは日本代表選手を輩出したい」と言う村松監督の夢が実現するのも、そう遠くはなさそうだ。(河野 正 / Tadashi Kawano)