10月14日、ラグビー日本代表は「アサヒスーパードライJAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2022」でオーストラリアA代表と今秋3度目の試合を行なった。舞台は大阪・ヨドコウ桜スタジアム。先週、先々週と同じ相手に連敗し…

 10月14日、ラグビー日本代表は「アサヒスーパードライJAPAN RUGBY CHALLENGE SERIES 2022」でオーストラリアA代表と今秋3度目の試合を行なった。舞台は大阪・ヨドコウ桜スタジアム。先週、先々週と同じ相手に連敗していた日本代表だが、3戦目はトライを奪い合う乱打戦を制し52−48で勝利した。

「選手全員でアタックしようとするエナジーがよかった。もちろん改善すべきところはあるが、2週間後のオールブラックス(ニュージーランド代表)戦に向けて今日の試合は及第点を与えてもいいのでは」

 試合後、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)はようやく笑顔を見せた。



頼れる男・稲垣啓太が帰ってきた

 金曜日のナイターにもかかわらず13000人ほどファンが集った大阪の地で、「笑わない男」でお馴染みのPR(プロップ)稲垣啓太がケガから復帰。埼玉ワイルドナイツでチームメイトのHO(フッカー)坂手淳史主将は「経験の違いを見せてくれる選手なので、いつものフィジカルを見せてくれれば頼りになる」と期待した。

 その期待どおり、過去2大会ワールドカップに出場した32歳のベテランは、タックル、スクラム、ラインアウト、モールで仕事をきっちりと果たして勝利に寄与。稲垣は「落としていい試合はひとつもない」と気合いを入れて臨み、「失点の仕方など内容としては褒められない部分が多かったですが、勝ったことはよかった」と安堵の表情を見せた。

 ケガ明けの自身のプレーに関して、稲垣はこう振り返る。

「コンディションがよくなくて、(7月以来となる)久しぶりの試合でした。急ピッチで上げていきましたが70分間出られましたし、自分のやりたいプレーもけっこうできた。満足はしていないが、精度を上げていきたい」

 日本代表は今後、10月29日に東京・国立競技場でニュージーランド代表と対戦し、11月には敵地にてワールドカップで同組となるイングランド代表、来年ワールドカップ開催を控えるフランス代表と戦う。ワラビーズの二軍となるオーストラリアA代表に1勝2敗という結果は、やはり不安が残る。

課題は後半20分以降の守備

 9月からの大分・宮崎合宿、そしてオーストラリアA代表との3連戦、ジョセフHCは「チームを作る時期」と語る。そしてこれからのテストマッチ3連戦は、来年のワールドカップに向けて基礎・基盤を作る「ベースキャンプとなる」と選手たちに話したという。

 日本代表キャップ42を誇る稲垣は、豊かな国際経験を踏まえてこう語った。

「選手たち全員が(今秋の合宿と強化試合が)2023年ワールドカップに向けて『ベースキャンプ』になっているということは理解しています。ちゃんと段階を踏んでいると思う。来年に向けて自分たちの現在地を理解し、それをならしていくのが(今の)明確な目標。選手は結果を出さないといけない。

 ただ、コーチがいいプランを出しても、やるのは選手。まだまだ遂行できていない。それをやれている時はいいラグビーができているのだが、ディテール(詳細)やクオリティ(質)が損なわれると失点を許している」

 オーストラリアA代表との3試合すべて、後半20分以降、簡単に失点したことが勝敗を難しくしていた。稲垣はディフェンス面での課題を指摘する。

「今回(3戦目)のような打ち合いの試合はよくないですよね。これだけ点を取ったのに、どうして点を取られるのか。これじゃオールブラックスに勝てない。今日出た課題をチームとして修正していかないと。日本代表は得点する能力があるが、要所でしっかりと(守備で)シャットアウトしないといけない」

 前回の2019年ワールドカップまでの道のりを振り返ると、日本代表が格上相手に勝利したのは、大会直前のフィジー代表戦のみだった。長期間の強化合宿を経てワールドカップまで徐々に強くなっていった、という成功体験が稲垣にはある。

「時間をかけてチームをよくするのは、日本代表の独自の文化だと思います。ほかの国のテストマッチ(での戦いは)シンプルです。ただ、僕らがシンプルなラグビーをしてしまうと、フィジカルで負けてしまう。自分たちの弱みを認めたうえで、どこでチャンスを作るのか。その深いところまでの理解は、集まってすぐの選手や新しい選手には難しい」

NZ代表とは過去0勝6敗

 オーストラリアA代表との3連戦では、夏のシリーズはケガなどでスコッド外となっていたNo.8(ナンバーエイト)姫野和樹、SH(スクラムハーフ)流大、WTB(ウィング)松島幸太朗ら中軸が復帰。また、ノンキャップながら3試合連続出場を果たした若手のFL(フランカー)下川甲嗣らも台頭してきた。稲垣は「ようやくじゃないですか? 自分たちを信じてやるしかない」と手応えも口にした。

 いよいよ2週間後から、テストマッチ3連戦が始まる。

「自分の役割を全うすることが大事。臨機応援にやる必要はあるが、自分のプレーができていないのに余計なことをすると本末転倒ですよね。(ラグビーは)15人でやるスポーツなので、一人ひとりの能力が上がらないとチームは強くならない。かつ(個々が)100%自分のプレー、役割を遂行してこそ、チームの歯車が回る」(稲垣)

 10月29日に戦うオールブラックスとは、過去0勝6敗と一度も勝ったことがない。2023年ワールカップでベスト4以上を狙う日本代表にとって、現在地を図る格好の試金石となるだろう。

「何を求めるのか。勝ちを求めるしかない。本当のテストマッチなので、どのチームでも勝つ」

 稲垣は笑わず、まっすぐ前を向いた。