「自分に期待している証」 緊張を肯定的に受け入れる 打席に立つと足が震えて力が発揮できない。ミスをする不安から思うような…

「自分に期待している証」 緊張を肯定的に受け入れる

 打席に立つと足が震えて力が発揮できない。ミスをする不安から思うような投球ができない。少年野球をやっていれば誰もが、このような経験をしているだろう。少年野球の“永遠のテーマ”である緊張と、どう向き合えばいいのか。日本スポーツ心理学会認定のスポーツメンタルトレーニング指導士・筒井香さんに話を伺った。

――練習を頑張っても、打席やマウンドで緊張して力を発揮できない野球少年・少女は少なくないと思います。どうしたら緊張を克服できるのでしょうか?

 すごく緊張している時に「こんなところで緊張してしまうなんて」と自己否定するのが一番マイナスです。緊張することに緊張してしまうと、思考が停止して行動をコントロールできなくなってしまいます。緊張した時に「どうしよう」と不安に思うのではなく、「これだけ練習してきたから、自分に期待しているんだな」と緊張している自分を肯定的に捉えると、「いい緊張」に変わっていくと思います。

――例えば、打席に入ったら緊張で思うように体が動かなくなってしまう選手がいます。どんなアプローチで臨めばいいのでしょうか?

 まずは「緊張は一生懸命練習してきた本気の証」と、緊張を認めて受け入れます。緊張を取り払おうとするのではなく、緊張していること自体を気にしないといった感じですね。また、過度に結果を気にすると緊張してしまうことがあるので、打撃フォームの確認事項や相手バッテリーの配球など具体的に自分がやるべきことに意識を向けて行動するのも対象法の1つです。力が入ってしまいがちな選手には深呼吸のような身体的なアプローチを伝えるケースもあります。

緊張の対処法に有効な深呼吸…ポイントは「息を吐く方に集中」

――深呼吸をすると、どんな効果があるのでしょうか? 注意点はありますか?

 ラジオ体操の影響なのか、深呼吸は大きく息を吸ってから吐くイメージが強いと思います。ただ、緊張した状態で思い切り息を吸うと逆に力が入ってしまうので、息を吐く方に注意を向けて呼吸を整えると上手く脱力できます。先に息を吐いたら必要なだけ自然と吸えますね。お風呂に入った時やソファに座った時を想像してみてください。大半の人が、フーと息を吐くと思います。このリラックスしている状態をイメージした呼吸をするなどの対処をしてから打席に入ると、悪い緊張によるパフォーマンス低下が減るはずです。

――普段の練習を通じて緊張に慣れる方法はありますか? また、指導者や保護者がどんなサポートをすれば、子どもたちが緊張に対応できるようになりますか?

 練習で試合と同じような緊張感を持つのが理想です。そうは言っても、練習と試合は違うので、全く同じというのは難しいですね。私は選手たちに、1日、1日が試合につながっていると認識する大切さを伝えるようにしています。50日後が試合なら練習の機会は49日しかありません。実際にはオフの日もあるので、もっと少ないですね。日数が減っていく意識を子どもたちが持つことで、日々の練習に危機感や緊張感が生まれます。周りの大人は普段から「緊張しなくていい」と伝えるのではなく、「本気になっているから緊張する、頑張っているから緊張する」と子どもたちが緊張を肯定的に捉えられるような言葉をかけるといいと思います。

緊張で失敗する選手と力に変える選手の違いは「今への意識」

――筒井さんは野球の他にも様々な競技で選手のサポートをされています。中には五輪に出場する選手やプロ選手もいますが、トップアスリートも緊張しているのでしょうか?

 プロにも緊張する選手はたくさんいます。表現の仕方は選手によって違いますが、選手たちは時間やお金など、競技のために色々なものを費やしています。自分のため、支えてくれた人のために「まずは結果」と考え、試合でプレッシャーや緊張を感じるのは自然なことです。少年野球をしている皆さんも、あきらめている時に緊張しないと思います。結果を出すために、ちゃんと緊張する、ちゃんと不安になるのは大切なんです。

――緊張でパフォーマンスを発揮できない選手と、緊張を力に変えられる選手の違いは、どんなところにありますか?

 不安につながりやすいのは、結果だけ、未来だけを見ている時が多いです。試合中に「負けたらどうしよう」「ミスが起きるかもしれない」と未来の方にだけ気持ちがいってしまうと、良くない緊張が続いてしまいます。「勝ちたいから緊張している」と緊張している自分を認めると、頭が整理されて「勝つためにはどうすればいいのか」と今に集中できます。プロセスに意識を向けるとやるべきことが見えてきて、いい緊張感になっていきます。もちろん、プロ選手も未来のことは考えていますが、今やるべきことと行き来できる選手は高いパフォーマンスを発揮できると感じています。

○プロフィール
筒井香(つつい・かおり)日本スポーツ心理学会認定スポーツメンタルトレーニング指導士。大阪市出身。高校時代にサッカー部でメンタルリーダーを務めた経験から、心理面でアスリートを支えることに関心を持つ。大学・大学院で人間行動学やスポーツ心理学を専攻し、研究を重ねて2015年に博士号(学術)を取得。その後、スポーツ現場や企業などでメンタルトレーニング業務に従事。2020年にアスリートのメンタルサポートやキャリア教育などを事業とする株式会社BorderLeSSを設立。子どもたちからトップアスリートまで幅広くメンタル面のサポートをしながら、複数の大学で非常勤講師を務めるなど研究・教育活動にも従事している。(間淳 / Jun Aida)