無良崇人に聞く(後編)前編「無良崇人が語る戦友・羽生結弦」を読む>> アイスショーへの出演などプロフィギュアスケーターとしての活動をしながら、指導者への道も歩み始めた無良崇人さん。そんな彼の目にこれからのフィギュアスケート界はどう映っている…

無良崇人に聞く(後編)
前編「無良崇人が語る戦友・羽生結弦」を読む>>

 アイスショーへの出演などプロフィギュアスケーターとしての活動をしながら、指導者への道も歩み始めた無良崇人さん。そんな彼の目にこれからのフィギュアスケート界はどう映っているのか。羽生結弦とネイサン・チェンがいない今シーズンの男子フィギュアの見どころを語ってもらった。


7月に行なわれた

「ドリーム・オン・アイス2022」に出演した佐藤駿

 僕は2021年4月に「サンクスツアー」が終わったあと、昨夏に出演して以来、1年ぶりとなる「フレンズ・オン・アイス」に出演しました。今回は、いままでやったことがないテイストの日本の曲(NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」の主題歌「燦燦(さんさん)」)でエキシビションの演技をしました。なによりも久しぶりのショーだったので、大丈夫かなという不安しかなかったですが、うまく滑ることができたと思います。

 今季はプロ活動をしながら、本格的にコーチ業に取り組む予定です。ありがたいことに才能とポテンシャルに恵まれた佐藤駿選手にお声を掛けていただいているので、僕としては4年後のオリンピックに向けて、彼がもっと自信を持って試合に臨んでもらえるように協力していきたいと思います。

 18歳という年齢なので、技術的にまだまだ伸ばせるところもありますし、シニアになって、今後、変わってくるところがあると思うので、他の先生たちと話しながら、そういうところをチームとして伸ばしていけたらいいなという気持ちがあります。

 僕自身はオリンピックに行けなかったですが、シニアとして経験をしてきたなかで、どういうことが必要だったのかという反省の部分であるとか、自分が迷った時に得たものとかを、伝えてあげられたらいいなと思っています。佐藤選手は、メンタル的なところを強くして自信を持ってやることができれば、さらに成長できると思うので、シニアのトップ選手にしてあげられたらいいですね。

 佐藤選手にとって正念場の今季は、4回転ではルッツとサルコウ、トウループを跳べるようになってきているので、あとは新しいプログラムを滑り込みながら質を上げていくことに取り組んでいます。佐藤選手の第3コーチとして、自分が伝えなくてはいけないことを、ジャンプ練習に付き合って一緒に跳んで見せながら、コーチングしていきたいと思っています。

試行錯誤が求められるシーズンに

 今シーズンの男子は、羽生結弦選手とネイサン・チェン選手という2トップが抜けることになりますが、アメリカのイリア・マリニンという新星が新たに出現しています。彼は先日のUSインターナショナルで、世界初となる4回転アクセルを成功させるという快挙を成し遂げました。

 今オフの日本でのアイスショーでも滑っているのを見ましたが、4回転アクセルも普通に跳んでいました。もともと4回転ルッツを平気で跳んでいる選手なので、ネイサンを超えるジャンパーとして、世界のトップに踊り出てくるはずです。ただ、まだフリー後半でミスを重ねることが多いのですが、それもシーズン後半になれば安定してくるでしょう。

 宇野昌磨選手は昨シーズン、フリーで4回転5本を組み込むというテーマを持って戦って、しっかりと成績を残し、最後は世界選手権で優勝しました。その自信を持って、今季もやってくれると思っています。新プログラムもどんどん磨きがかけられてきて、表現にすごく味が出てきているなと、アイスショーで滑っている姿を見て感じています。今季も昨季と同じように4回転5本を入れて挑戦してくれるのではないかと思います。すごく楽しみです。

 鍵山優真選手はシニア転向後、いきなり世界のトップ争いに加わったわけですが、新しい4回転の種類を増やそうとか、いろいろな挑戦をしています。プログラムもローリー・ニコルやシェイリーン・ボーンなど著名な振付師に作ってもらいながら、どんどん新しいものを吸収している。それを意識的に行なっていることが、全日本合宿の時の動きを見ても感じられました。スケートの伸びなど、彼の本来持っているよさをもっと伸ばそうということが見えています。シニア3シーズン目の今季も、いい動きをしてくれると思っています。

 このふたり以外の日本男子3人(枠)目は、実力を出しきった選手、やりきった選手が勝って、上に行くという形になってくると思います。

 僕がコーチをしている佐藤選手にしても、友野一希選手にしても三浦佳生選手にしても、切磋琢磨しながら成長することができる。次の世代は、僕が現役の頃の、町田樹さんや小塚崇彦さん、織田信成さんらが競い合った時代のような感じのシニアの戦いになると思いますので、全日本選手権でどうなるかが楽しみです。

 ルールも変更された今季は、五輪の4年サイクルの1シーズン目になります。ファンにとっては、スケートやプログラムを見ることがわくわくするシーズンになるはずです。また、ジャンプやスピンなどの技術面では表現力の質も問われてくると思うので、選手は試行錯誤をしないといけないシーズンになると思います。

 フィギュアスケートのルールはどんどん幅が狭まり、要求が高くなっているので、多彩な力を発揮できる選手が勝ち残っていく世界になっていくんだろうと思っています。