スポーツ中継には名実況アナウンサーや名解説者が付きものだ。 卓球にもいる。世界卓球やオリンピック・パラリンピックをはじめ数々の国際大会で実況と解説をひとりでこなす、実況コメンテーターのアダム・ボブロウだ。インターネットで試合観戦するファン…
スポーツ中継には名実況アナウンサーや名解説者が付きものだ。
卓球にもいる。世界卓球やオリンピック・パラリンピックをはじめ数々の国際大会で実況と解説をひとりでこなす、実況コメンテーターのアダム・ボブロウだ。インターネットで試合観戦するファンにはすっかりお馴染みだろう。
軽妙な語り口とユニークなキャラクター、豊富な卓球知識を持ち合わせ、選手の情報にもやたらと詳しい。もちろん日本人選手のこともよく知っており、日本語や日本のカルチャーに精通する。
トレードマークはカラフルな着こなし。左右のシューズを色違いで履くなど会場で一際目立つ。コンサバティブな卓球界にあってアダムの存在は異色だ。
この男、いったい何者なのか?
どうして卓球の国際大会で実況コメンテーターをするようになったのだろう? 世界中の卓球ファンを魅了する謎多きアダムの秘密に迫る。
世界卓球2022 ドロー抽選会の司会を務めたアダム Photo:World Table Tennis
卓球と実況コメンテーターの二刀流
アダムが生まれ育ったのはアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス。現在は台湾の台北に暮らす。年齢は非公表。卓球歴は26年で、今も各種大会に出場しながら実況コメンテーターをしているという。
「初めて国際大会に出場したのは2004年で、プロの実況コメンテーターとして活動し始めたのは2014年です」
きっかけは当時、国際卓球連盟(ITTF)が公募していたコンテストだった。
「"The Voice of Table Tennis"というオンラインコンテストがあって、最初に挑戦したのは2011年で2014年に大賞を取ったんです。そこからITTFの実況コメンテーターになったんだけど、そのときの副賞はなんと日本旅行でした」
自身は出場が叶わなかった憧れの世界卓球で初めて実況解説をした時は「めちゃめちゃ幸せだった」と振り返る。
ところで、アダムはなぜ日本ツウなのか?
「人もカルチャーも大好き! 世界中の人々はみんな一生に一度は日本を訪れて、日本の良さを味わってほしい。食べ物も美味しいし、街は安全。そして、トイレが素晴らしい! 日本の便座は超快適です。実は以前、アメリカにいたときに日本人のガールフレンドがいて、その彼女と一緒に10回くらい日本に行ったことがあるんだ」
どおりで日本に詳しいはずだ。好きな食べ物はいろいろあるけれど、中でも「あんこが大好き」と教えてくれた。
成都で丹羽に会えず「すごくがっかりした」
もうひとつ、アダムの日本好きといえば、丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)を忘れてはいけない。
丹羽がファインプレーを繰り出した際、アダムが絶叫する「コキニワ!」は卓球ファンの間で有名なフレーズだ。
世界を魅了するファンタジスタ 丹羽孝希 Photo:World Table Tennis
「彼のプレーは創造的で予測不能。信じられないくらいエキサイティングだよね。神秘的でもあり大胆でもある。何て言ったらいいのかな、コウキはいつもゆったりとして、まるでスーパーヒーローが戦闘を終え爆発の中からゆっくりと立ち去り、もう恐れるものは何もないと確信している、そんな風に見えるんだ。でも彼のプレーは勝つか負けるか、いつもスリル満点」
10月9日に幕を閉じた「世界卓球2022成都」では丹羽が欠場。インフルエンザに罹ったことも知らなかったアダムは、「成都に着いてすぐコウキに挨拶しようとホテルの入り口で待っていたら、日本の選手からコウキはいないと聞いて、すごくがっかりした」と残念そうに話す。
その一方で、中国との準決勝で2点取りしたエース張本智和(IMG)を中心に戸上隼輔(明治大学)、及川瑞基(木下グループ)、横谷晟(愛知工業大学)が団結し銅メダルを獲得した。
平均年齢21.5歳の若き男子日本について、「日本の選手層がいかに厚いかを証明している。たとえベテランのコウキがいなくても日本が強力なチームであることに変わりはない」と大会前、日本の活躍を予言するかのようなコメントを寄せていた。
日本大好きのアダム「Tリーグに興味がある」
女子日本についても、「いつもとは少し違うメンバーで今回、平野美宇がいなかったけど、彼女のパフォーマンスは一時期より戻ってきているね。なぜ自信を取り戻し、強い平野美宇がまた戻ってきたのか、その理由を知りたい」と話す。
さらに今大会のメンバーについて、アダムが「ミマチャン」と呼ぶ伊藤美誠(スターツ)、早田ひな(日本生命)はもちろん、「若手の木原美悠(JOCエリートアカデミー/星槎)と長﨑美柚(木下グループ)はとても強い。
特に木原は国際大会で印象的な勝利を収めている注目の選手。あと佐藤瞳(ミキハウス)のスリリングなプレーが大好きです。魅力的なチョッパーだと思う」と分析。
大会開幕の前日には、「中国を打ち負かすのはとんでもなく難しいけど、新しい顔ぶれの日本女子チームは見ていて楽しいはず」と、これまた予想通りだった。
選手一人ひとりのキャラクターをよく知るアダムならではだろう。
WTT体制になって、以前よりもアダムの実況解説を耳にする機会は少なくなった。だが、ひとたびその声が聞こえてくれば、試合のインターネット観戦はがぜん盛り上がる。
日本好きのアダムは「Tリーグに興味がある」とも。
「いつだって日本に行くチャンスを探しているし、卓球の、スポーツの発展に協力したいと思っています」とアダム。ある日、ひょっこりTリーグに現れたら面白い。
(文=高樹ミナ)
■Adam Bobrow
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