2022年の駅伝シーズン到来を告げる出雲駅伝は、駒澤大学が大会新記録となる2時間08分32秒で優勝を果たした。2位に國學院大、3位には中央大が入ったが、3校に共通して言えるのは、1年生のルーキーが好走していることだ。彼らは、激戦となった今…

 2022年の駅伝シーズン到来を告げる出雲駅伝は、駒澤大学が大会新記録となる2時間08分32秒で優勝を果たした。2位に國學院大、3位には中央大が入ったが、3校に共通して言えるのは、1年生のルーキーが好走していることだ。彼らは、激戦となった今回の駅伝において、どのような走りを見せ、どんな役割を果たしたのだろうか。フレッシュな顔ぶれに注目してみた──。



駒澤大のルーキー佐藤圭汰は区間賞、区間新の活躍を見せた

監督も期待する國學院大ルーキー

 2位という結果を残した國學院大だが、そのスタートの1区という大役を任されたのが、青木瑠郁だ。健大高崎高校の出身で大学入学後、トラックシーズンは5000mを主戦場として走り、U20 日本選手権は13分59秒34で2位、7月の学連の網走記録会では13分48秒61の自己ベストを叩き出した。國學院大の前田康弘監督は「青木は夏合宿で練習をしっかりと消化し、距離も踏めました。最後のインターバルのトップが彼ですからね。平林(清澄)とやって勝ちました」と語るように調子をキープしていた。青木の1区は奇策ではなく、部内で評価を高めたうえでの順当な区間配置だったのだ。

 実際、青木は、自信を持ってスタートラインに立てたという。ところがレースは思わぬ方向に動いた。今年の箱根駅伝同様、吉居大和(中大3年)が抜け出し、1キロ2分37秒というハイペースでレースを引っ張った。その結果、青木は3位集団について走った。

「吉居選手は、そこまで調子がよくないと聞いていました。でも、最初の1キロが2分30秒台で、ここまでハイぺースになるとは思わなかったですし、同時にひとりでは行ききれないんじゃないかなと思っていました。でも、行かれてしまって......自分の実力不足が出て、早めに離れてしまいました。ラストスパートが自分の持ち味なので、それを出しきることができなかったですし、トップと10秒前後で2区にもっていくこともできず......ほんと悔しかったです」

 青木は、そう言って表情をしかめた。

 それでもキャプテンの中西大翔(4年)は、「青木がいい走りでまず流れを作ってくれた」とルーキーの走りが最終的に2位という結果につながったと語った。確かにトップをいく吉居とは26秒差がつき、10秒前後で襷をつなげなかったが、流れを作ったという点では区間7位は悪くない結果だ。

 これから全日本大学駅伝、箱根駅伝と続く。とりわけ、箱根は今回の2.5倍以上の距離を走ることになる。距離については、どう考えているのだろうか。

「箱根を走るためには、まず1万mのタイムを取ることが重要です。5000mのタイムだけでは長い距離の自信にはならないですし、距離に対する不安は1万mのタイムをもっていないと本当の意味で払拭したことにはならないと思います。箱根まで3ヶ月あるので、1万mを走り、スタミナ面を強化していきたいです。それに、箱根を走るためには集団走ではなく、単独走の練習も必要になってきます。1区、2区までは人がいるかもしれないけど、それ以外になると単独走になるし、そういう走りをしたことがないので、その強化はすごく大事かなと思っています」

 箱根に向けて、これから距離を踏む量や練習の質も問われていくことになるが、自分の課題は明確のようだ。ちなみに箱根の希望区間は、どこになるのだろうか。

「希望区間は、上りは得意じゃないので往路の1区から4区の間ですね。ただ、自分はどこを任されてもチームのために走りたいと思います」

 青木の献身性は、駅伝向きでもある。前田監督は、「今、平林と一緒に練習するなかでラストだと確実に青木が勝ってくる。平林、山本(歩夢)、中西、伊地知(賢造)の4人と変わらない感じで将来、うちの柱になる選手です」と、そのポテンシャルを高く評価している。

中央大ルーキーは区間2位を獲得

 3位の中央大学は、5区と6区をルーキーが担った。

 走りが目立ったのは、5区の溜池一太だ。4区の阿部陽樹(2年)から3位で襷を受けると、猛烈な向かい風のなかを激走し、順位をひとつ上げて2位でアンカーの吉居駿恭(1年)につないだ。

「三大駅伝を初めて走らせていただくことになり、走る前からワクワクしていました。調子はよかったですし、ここまでよい準備ができていたので区間賞を獲ることしか考えていなかったです。風が強いのは事前にわかっていたことなので、そこは対処ができたんですけど、結果的に区間2位ということで、まだまだだなと思いました」

 溜池は、そう話しながら悔しそうな表情を見せた。

 走りで存在感を明確に表すようになったのは夏前のホクレン千歳大会の5000mで13分47秒88を出した時からだろう。夏合宿は故障がなく、練習は100%の消化率だった。10月デンカチャレンジの5000mでは、13分46秒16で自己ベストを更新した。

 藤原正和監督は、溜池を5区に起用した理由をこう語る。

「もともとスピードタイプの選手で、5000mを軸にやってきたんですけど、夏にしっかりとハーフ対応の練習ができました。それを踏まえて新潟のデンカチャレンジで疲れているなか、13分46秒の自己ベストを出したので耐える走りができるんじゃないかなと。あとは、上り下りに強い選手なので、強風にも対応して走れるんじゃないかなということで自信を持って5区に配置しました」

 溜池自身も自信をもって出雲に臨んだが、本人にとっては思うような結果が出なかった。その要因について、こう分析をした。

「ひとりで走りきる力が足りないというか、(先を行く)國學院大の藤本(竜・4年)選手の力を借りて駒澤大の安原(太陽・3年)選手に追いつこうとしてしまった。自分が積極的に前に行こうという気持ちが足りなかったですね」

 それでも区間2位は、中央大を3位に押し上げた要因のひとつになった。今回の出雲もそうだが、高校時代の都大路でも1区5位で、駅伝では失敗することがほとんどなく、安定感が抜群だ。それが、藤原監督が重要区間に溜池を置く理由のひとつになっている。溜池自身も「失敗しないというのが自分の持ち味かなと思います」と自分の強みをそう語る。

 ただ、安定感の裏には、メラメラと闘争心を燃やしている。とりわけ洛南高校時代の同期で、駒澤大の佐藤圭汰(1年)に対しては猛烈なライバル心をもっている。

「佐藤は、高校の時からすごくて、大学でも5000mを13分22秒で走っているし、今日も区間新を出していた。強いなと思いますが、負けたくはないですし、負けてばかりというつもりはない。これから逆転していければと思っています」

 佐藤とは今後、全日本や箱根駅伝でも戦うことになるだろう。そのために夏合宿では30キロ走を始め、かなりの量を走り込んだ。

「箱根の20キロは、まだ走るイメージがないんですけど、夏に充実した練習ができたので走りたいですね。往路の3区4区、復路だと7区8区が希望です。箱根を走る以上は区間賞を獲れるような走りをしたいと思っています」

 外さない選手ほど監督にとって頼りになるものはない。吉居駿恭とともにいずれ中央の軸になる選手になるのは、間違いない。

駒澤大はスーパールーキーが区間新の活躍

 今回の出雲駅伝を駆けたルーキーのなかで圧巻の走りを見せたのは、佐藤圭汰(駒澤大1年)だ。1区の花尾恭輔(3年)からトップの中央大と9秒差の2位で襷を受けた佐藤は、走り始めて1キロ地点でトップに立つと、そのままトップをキープ。区間新で、2位の中央大に5秒差をつけて3区のエース田澤廉(4年)につないだ。

「プレッシャーは特になくて、走る前から区間賞、区間新は狙っていました。ラストを上げられなかったので、80点ぐらいです」

 初の大学駅伝ですばらしい走りを見せたが、笑みはなかった。

 1500m、3000m、5000mの高校日本記録を持ち、鳴り物入りで駒澤大に入学した。春から1500mなどのレースに出続けたが、高校時に続けていた自主練ができず、走る練習だけでカバーしていた影響もあり、結果が出なかった。最終的に1500mから5000mに軸を移したが、思うような走りができないなか、7月には「どうしたらいいのかわからない」と珍しく弱気な言葉をこぼす時もあった。U20 世界選手権5000mも11位に終わり、そのまま夏合宿に入っていった。

「夏合宿は、U20世界選手権でコロンビアに行って体調不良になってしまい、全然練習ができなかったんですけど、徐々にこなせるようになってきました。最近は練習の流れもわかってきて、自分のなかでどうしたら強くなるのかが考えられるようになってきましたし、高校の時にプラスでやっていた自主練の時間も作れているので、これからもっと調子が上がっていくと思います」

 今は田澤と同じ練習メニューをこなすようになった。きつい練習で、田澤ほどの余裕はないが、それでも食らいついて練習していくなかで余裕を持って練習ができるようになればと前向きだ。

 出雲駅伝は、そういうなかで出走し、従来の区間記録を20秒も縮める15分27秒の区間新で優勝に貢献した。チームの目標は3冠達成で、このあと、全日本、箱根駅伝と続くことになる。だが、箱根については不安が大きいとこぼす。

「全日本は、今回と同じように区間新や区間賞を獲る気持ちでいます。でも、箱根はスタミナについて不安な部分があります。まだ、20キロをしっかり走りきる力がないんで、これから試合をしぼってスタミナをつけるような練習をメインにして、箱根でも自分が思うようなパフォーマンスを見せられるようにしたいです。3冠を達成するためには自分が区間賞を獲っていくレベルにならないとチームに貢献できないので。希望区間ですか? 5区6区以外ならどこでもいいです。山は無理です(苦笑)」

 体の線がまだ細いが、今は筋トレもしているという。スピードは十分にあり、走力も田澤たちと練習するなかで日々伸びている。20キロをなんなく走れる力がついてくれば、往路の主要区間も見えてくるだろう。そのくらい「これから」が楽しみな走りを、佐藤は出雲で見せてくれた。