インターネットが進化した情報化社会では、野球界のドラフト候補の情報があふれている。誰もが手軽にドラフト候補の映像を見られて、その力量やポテンシャルに思いを馳せることができる。今や純然たる「隠し玉」の選手はほとんどいなくなったと言っていい。…

 インターネットが進化した情報化社会では、野球界のドラフト候補の情報があふれている。誰もが手軽にドラフト候補の映像を見られて、その力量やポテンシャルに思いを馳せることができる。今や純然たる「隠し玉」の選手はほとんどいなくなったと言っていい。

 それでも、人々は「隠し玉」に夢を見る。ドラフト会議前にはさほど評判になっていなかった選手が、プロ入り後に大化けして大スターに君臨する例も珍しくない。

 そこで今回は現段階でメディアに大きく取り上げられてなくても、将来爆発的な進化を見せる可能性を秘めた未完の大器5選手を紹介していこう。



常葉大菊川高時代は甲子園に出場した中京大・漢人友也(かんど・ともや)

漢人友也(中京大/投手/181センチ76キロ/右投左打)

 もっと広く知られていい大器だ。手足がスラリと伸びた投手体型から、しなやかに右腕を振ってホームベース上でも生きたボールが投げられる。タテに鋭く変化して打者の目線を上下動させるカーブと、ストレートの軌道から横滑りするスライダーも質がいい。

 いかにも好素材なのに騒がれていないのは、大学での実績が乏しいから。愛知大学リーグでも突出した成績を挙げられておらず、あくまでも素材としての評価になる。

 常葉大菊川高(静岡)ではエースとして2018年夏の甲子園に出場し、2回戦の日南学園(宮崎)戦ではわずか88球で完封勝利を挙げた。当時は針金のように細い四肢で、いかにも素材型の印象だった。大学4年間を経た現在も体重は76キロと細身だが、尻周りを中心に確実にビルドアップしている。

 右投げのオーソドックスなスリークオーターはどの球団にも多く、埋没してしまうリスクもある。だが、漢人は今後、肉体的に成熟するであろう25歳前後にピークを迎えると予想される。現段階での能力だけでなく、近未来を見据えればこれだけお買い得な好素材もそういないだろう。



ダイナミックなフォームから最速159キロを誇る明星大の谷井一郎

谷井一郎(明星大/投手/181センチ84キロ/右投左打)

 包み隠さず、はっきりと書こう。余裕のある球団でなければ手の出せない「訳ありドラフト候補」である。

 ノーラン・ライアン(元レンジャーズ)をはじめ数々のMLB投手からヒントを得た「ダイナミック・ライアン投法」は一度見たら忘れないインパクトがある。全身をフル稼働させて放たれる剛速球は、最速159キロをマークする。

 それなのに、この剛腕が騒がれない理由はリーグ戦でもほとんど登板実績がないからだ。アクションの大きなフォームゆえかボールを制御しきれず、四球を連発してしまう。明星大は首都2部リーグ所属ながら、谷井はチームの主戦力にもなれていない状況が続いている。

 とはいえ、得がたく蠱惑的なキャラクターでもある。自身の特殊な投球フォームについて、谷井はこう語っていた。

「左足を高く上げることで骨盤ごと引き上げ、位置エネルギーを得ています。そこから並進運動につなげていくと強く回転できて、スピードが速くなるんです」

 このように自身の技術について語れる頭脳もある。プロで実戦経験を重ねるなかで大化けする可能性も捨てきれない。本人は「育成(ドラフト指名)でもプロに行きたい」と語るほど、ハングリー精神をむき出しにしている。

 誤解を恐れずに言えば、一発勝負の社会人野球では戦力になるのは難しいだろう。才能が花開く可能性があるとすれば、むしろプロの世界だ。こんな暴れ馬にも門戸を開いてほしいと願わずにはいられない。プロの度量の大きさと育成力が問われている。



最速145キロを誇る国士舘の小笠原天汰(おがさわら・てんた)

小笠原天汰(国士舘/投手/178センチ80キロ/右投右打)

 今夏の西東京大会を見て、「こんな剛腕がいたのか」と衝撃を受けた。国士舘のリリーフ右腕・小笠原は腕を縦に叩きつけ、最速145キロをマーク。130キロ台で動くカットボールや空振りを奪えるフォークもあり、東海大菅生の強打線を力で制圧した。

 球速以上に勢いと球威を感じさせるストレートがあり、今後のさらなるフィジカル強化次第で150キロ超のボールをコンスタントに投じる剛腕へとグレードアップする近未来像が描ける。

 9月6日にプロ志望届を提出したが、今夏の東海大菅生戦後の言動からして大学に進学するのではないかと感じていた。延長10回に連続四球を与えた末に決勝点を奪われ、小笠原は敗戦の責任を一身に背負った。

「もちろん野球は続けたいですが、今の自分ではどのレベルでも上でやれるとは思いません。自分くらいのストレートなら全国にはゴロゴロいますし、持ち味を見つけられていません」

 口をつくのは反省や悔恨の言葉ばかりだった。それでもプロ志望を表明したということは、自分の可能性に少しでも希望を見出せたということなのか。

 いずれにしても、まだ歴史が始まったばかりの原石である。



長打力だけでなくスピードも兼ね備える九州産業大の野口恭佑

野口恭佑(九州産業大/外野手/180センチ88キロ/右投右打)

 近年、プロの編成サイドでは「右の強打者」の需要が上がっている。バットを強く振れる打者ともなれば、なおさらだ。そこで推したいのが野口恭佑である。

 創成館高(長崎)時代は2年秋の明治神宮大会で1番打者を任され、大阪桐蔭から金星を奪っている。高校時代は細身だったが、そのわずか1年後には筋骨隆々の肉体を獲得していて驚かされた。一時は筋量を増やしすぎて動きが重くなった時期もあるというが、本来はスピードも備えた外野手である。

 割れの形が雄大で、爆発力と確実性を兼ね備えた打撃力は大きな武器。3年春に左手首を痛めて長期離脱して以降はややアピールに欠けたものの、アマチュアに置いておくには惜しい馬力がある。

 真摯に練習に取り組む姿勢も、チームに刺激をもたらすはず。打力を求めるチームでじっくり養成したい、貴重な右の強打者だ。



西南学院大のスピードスター・辰見鴻之介

辰見鴻之介(西南学院大/二塁手/177センチ71キロ/右投右打)

 右打ちの内野手、しかも盗塁可能な快足の持ち主とあらば、プロ側の触手が伸びないはずがない。全国的には無名の存在ながら、辰見鴻之介は足という一芸を持った右打ちの内野手だ。

 177センチ、71キロのスリムな体型で、わずか数歩でトップスピードに入れる快足はグラウンドでひときわ目を引く。大学2年秋にはリーグ戦10試合で10盗塁という離れ業を演じている。

 だが、3年時に右肩を手術して長期離脱。今春以降は復帰して二塁手を守っているが、下級生時には遊撃手としてプレーしていた。

 やや非力に映る打撃が課題になるものの、変なクセがあるわけではなくバットを振りこなすセンスはある。瞬発力が高いだけに、プロでハイレベルな投手のスピードや変化球のキレへの対応が期待できる。

 わかりやすい武器を持ったスピードスター候補を獲得する球団はあるのか。

 プロ野球ドラフト会議は10月20日に開かれる。今年はどんな隠し玉が発掘されるのか、今から楽しみでならない。