真中満インタビュー後編「村上宗隆・三冠王」打率.318、56本塁打、134打点の成績で、2004年の松中信彦氏以来、18…

真中満インタビュー後編
「村上宗隆・三冠王」

打率.318、56本塁打、134打点の成績で、2004年の松中信彦氏以来、18年ぶりの三冠王を達成した東京ヤクルトスワローズの村上宗隆。その村上の今季の活躍について、ヤクルト元監督で野球解説者の真中満氏に振り返ってもらった。技術面・人間性における村上のすごさとは?


ヤクルト・村上宗隆(左)と髙津臣吾監督 photo by Kyodo News

「僕の監督時代に入団してほしかった(笑)」

ーープロ5年目にして、シーズン56号、さらに史上最年少にして、令和初の三冠王となった村上宗隆選手について伺います。この大記録、真中さんはどう見ていますか?

真中満(以下、同) 55号からの1本がなかなか出なかったけど、最後の最後まで気持ちを切らさないでシーズン最終戦の最終打席で打つことができたのはさすがだと思います。何十年間も誰も破れなかった記録を超えたことがすごいですよ。

ーー村上選手の入団と、「真中監督」の退団はちょうど入れ違いのタイミングでした。

 そうだね。「もっと早く入団してくれていれば......」という思いは強いですよ。

ーーやっぱり、そうですか(笑)。

 そりゃ、そうでしょ。あれだけのスーパースターなんだし、監督としてはとても頼りになる存在なんだから(笑)。たった1本で球場全体の雰囲気や試合の流れを変えるバッティングができる選手ですから。僕が監督の時には山田哲人がそんな選手だったけど、今は山田に加えて、村上もいる。相手からしたら、とても怖い打線ですよ。



元ヤクルト監督でプロ野球解説者の真中満氏 photo by Igarashi Kazuhiro

ーーあらためて、今シーズンの村上選手の印象について教えてください。

 昨年の段階で39ホームランを打って、ホームラン王もMVPも獲得しているんだから、そもそもすごい選手なんだけど、今年はさらにホームランを17本も増やして、首位打者、打点王も獲得した。相手投手からあれだけ厳しく攻められたのに、それでも三冠王を獲得したのだから、もう何も言うことはないでしょ(笑)。

ーー昨年と比較して、今年さらに伸びた部分などはありますか?

 バッターボックスに入った時の落ち着き方は印象的でしたね。肝が据わっていたし、頭の中も整理されていて、相手投手の配球も読んで打っていたし。その落ち着き、冷静さが可能になったのは、前後を打つバッターが厚みを増していたからじゃないのかな?

 シーズン終盤は、「村上、村上」とメディアが騒いだことで本人の負担になっていたけど、シーズンを通じて、村上にとってはプレーに集中しやすい状況だったと思います。

ーーそれは、3番を打つ山田哲人選手であり、5番を任されたドミンゴ・サンタナ選手、ホセ・オスナ選手の存在が大きかった?

 彼らだけじゃなくて、トップの塩見泰隆、8番の長岡秀樹も含めて、村上だけにマークが集中しないで分散されたことも大きかったと思いますね。周りの強打者に支えられながら、村上本来の実力を発揮した。そんなシーズンだったと言えるんじゃないかな?

選球眼が格段に向上した理由

ーー昨年までと比べて、技術的な進化、変化は見られますか?

 技術論で言えば、選球眼が格段に向上したことが大きいと思いますね。今シーズンの終盤にもそういう傾向は見られたけど、これまではどうしてもボール球を追いかけてしまう場面がありました。

 でも今年はそれがあまり見られなくなって、自分の打つべきボールをきちんとチョイスできています。それが最初に言った「冷静さ」ともつながってくるんだけど、冷静にボールを見極めて、ホームランにしたり、ヒットにしたり、うまく打ち分けていましたよね。

ーー選球眼というのは、練習によって向上したりするものなのですか?

 練習ではなかなか難しいと思いますね。大切なのは「実戦における目付け」だと思うんですね。巨人の大勢からレフトにホームランを打ちましたよね。

ーー9月13日、神宮球場で行なわれた対読売ジャイアンツ戦。9回裏に大勢投手から放った、今季55号ですね。

 そうそう。あのホームランは完全にインコースを捨てて、最初から「アウトコースをレフトに打とう」とした一発だったと思うんです。決して、天才的な「反応」で打ったホームランじゃなかった。

 今年の村上は打席の中での狙い球の絞り方が本当にうまくなりました。インコース攻めが続く時には、初球からインコースを狙ってホームランを打ったこともありました。その点も「冷静さ」の表れだと思いますね。でも、もしも実際のところは「反応」で打ったんだとしたら、村上に謝っておいて(笑)。

ーーこうした「冷静さ」によって、結果的に選球眼もよくなってホームラン数だけではなく、打率も向上したというわけなんですね。

 ホームラン記録がかかったシーズン終盤には、なかなか結果が出なかったけど、それでも僕から見れば打撃フォームはそんなに崩れていないと思っていたし、今年の村上はやっぱり格別でしたよ。

自分の成績よりも「チーム最優先」の人間性

ーー最初にお話があったように、真中さんと村上選手とは入れ違いとなりましたが、取材、評論活動を通じて、村上選手にはどんな印象を持っていますか?

 今はグラウンドに降りて、直接話をできる機会がないから、あくまでも外から見た感想でしかないけど、印象的だったのが先ほども話題に出た55号ホームランを打った時の彼の姿なんですよ。あの日のジャイアンツ戦で54号、55号を打ったけど、結局試合は負けてしまった。あの時の表情に、彼の人間性が出ていた気がしますね。

ーー節目の一発を放ったものの、チームは負けてしまったことで、悔しそうな表情をにじませていましたね。

 あの姿は決して、他人の目を意識した作られた姿じゃなくて、「素顔の村上宗隆」だったと思うんです。決して演出ではなかった。自分の記録よりも、チームの勝利を最優先している姿。勝つことに徹している姿。ここに村上のすごさを感じました。

ーー自分の記録よりも、チームが最優先。そんな姿は確かに印象的です。

「チームのために頑張れ」とか、「自己犠牲が大切だ」というきれいごとばっかり言うつもりはないけど、優勝争いをしている時には、やっぱり勝ち負けが第一になってきます。村上の場合は、自分が打てなくてもベンチ内で大きな声を出して味方に声援を送っている。

 チャンスで4番が凡打したら、自分に腹も立つし、相当悔しいものですよ。でも、彼の場合はそこをグッと抑えて、続く5番打者に声援を送っている。若いのに、きちんと自分の感情をコントロールできているのも立派ですよ。

ーーさぁ、これからクライマックスシリーズ、日本シリーズと本当の勝負が始まります。当然、村上選手にも期待が集まりますね。

 シーズン終盤は優勝争いや、三冠王、ホームラン記録など、さまざまな重圧もあって苦しんだけど、そのすべてから解放されて、ここからはポストシーズンにだけ集中できます。極端な話、打率もホームランも何も気にしなくていい。ひたすらチームの勝利だけを目指して、自分のバッティングをすればいい。それは村上にとっても、いい結果をもたらすことになるんじゃないのかなと思いますね。

ーー球団史上初となる「日本シリーズ連覇」に向けて、村上選手の存在は絶対に欠かせませんからね。

 もちろん、村上ひとりの力だけで勝てるものではないけど、今年のヤクルトは投打のバランスもいいし、ベテランと若手もうまくかみ合っています。ぜひ、ポストシーズンでも村上のバッティングに期待して、OBとして注目したいと思いますね。

終わり 

前編<真中満が選ぶヤクルトリーグ連覇の"陰のMVP"は? 「ヤクルトの強さは本物」だが、CSは「阪神が不気味」>を読む

【プロフィール】
真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、2008年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。2015年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。