中部選手権フリー演技の紀平梨花見たことがない得点にガックシ 9月23〜25日に名古屋市で開催されたフィギュアスケートの中部選手権。フリー演技を終えた紀平梨花(トヨタ自動車)は、発表された自分の得点がその時点で1位だと知ると、安堵の表情を浮か…



中部選手権フリー演技の紀平梨花

見たことがない得点にガックシ

 9月23〜25日に名古屋市で開催されたフィギュアスケートの中部選手権。フリー演技を終えた紀平梨花(トヨタ自動車)は、発表された自分の得点がその時点で1位だと知ると、安堵の表情を浮かべ、両手で"セーフ"のポーズをした。

 昨2021−2022シーズンは右距(きょ)骨の疲労骨折のため試合に出られなかった彼女が今年12月の全日本選手権に出場するためには、このブロック大会から勝ち上がっていかなければならない。シード権を持つ河辺愛菜(中京大中京)を除く13位以内が次の西日本選手権に進めるが、紀平はグランプリ(GP)シリーズ出場のために西日本の出場は免除されている。フリーを終えて6位以内が確定し、全日本の出場権を獲得した。

 2021年4月の世界国別対抗戦以来の試合だった前日のショートプログラム(SP)は、6位で得点は56.69点。紀平は苦笑しながらこう話していた。

「この構成での点数を計算していなかったので何点出るだろうと思っていたけど、見たことのない点数なのでガックシしました。でも3回転ジャンプ(の練習)を始めて1週間だったわりには跳べたし、大きなミスもなかったので次につながる演技だったと思います」

昨季から続くケガとの戦い

 北京五輪シーズンだった昨季は、右足に痛みが出て診察をすると、レントゲン写真では距骨の半分ほどの長さで疲労骨折と思える白い線が出ていたという。「痛みがひどくならなければ古傷かもしれない」とも見る医者の言葉に頼って練習を続けた。

 だが、昨年11月のNHK杯に向け3回転や3回転+3回転の連続ジャンプを跳ぶと痛みが一気にひどくなり、レントゲンの白い線も骨全体まで通ってしまい疲労骨折だと明確に。NHK杯と全日本を欠場した。

 その線がレントゲンで半分くらいまでに戻ってから、年明けにはアイスショーに出演したが、今年4月末のショーの朝練習で痛みがまたひどくなった。そのショーはジャンプ抜きのプログラムとした。「これじゃ絶対に治らない」。紀平は自分にそう言い聞かせ、氷上練習をストップした。

 氷上練習を再開できたのは中部選手権の3週間前から。2回転ジャンプを跳び始めたのが大会2週間前からで、3回転は大会の週に入ってから。痛みも少し引いてきて、8月26日の診断では疲労骨折の線も骨の5分の1くらいまでになった。世界選手権や四大陸選手権という大舞台に早く復帰したいとの思いがあり、その選考会でもある全日本の出場権は諦められなかった。



SP、フリーともに難度を下げた構成で臨んだ

全日本選手権出場への強い思い

 そうした状態での出場で、ジャンプは右足に負担のかからないものにするなど構成の難易度を落として臨んだ。最初に提出したSPのプランでは、3回転は2回転トーループを付けた連続ジャンプのサルコウだけで、あとはダブルアクセルと2回転ループだったが、直前で難度を上げた。

「以前、(3回転)ルッツが2回転となり0点になったことがあるので、2回転ループだと0点になってしまうことに気がついて。それでループかトーループの3回転にしようと前日に両方やってみて、負担も少ないのでトーループに決めました。2回転だったらどうせ0点だから、パンクしても転倒してもいいから3回転に挑戦しようと思ってやりました」

 こう話す紀平のジャンプ、3回転サルコウ+2回転トーループは0.43点の加点になったが、ダブルアクセルと3回転トーループは加点0。それでも丁寧な滑りで最後のコンビネーションスピン以外のスピンとステップはレベル4にし、56.69点を獲得。リンクサイドにコーチはいなかったが、紀平は「ひとりでいろいろ考えることができたので、今回に関しては悪い影響もなく乗りきれました」とも話した。

 翌日のフリーは、SP後に3回転は1種類だけにすると話していたように、3回転トーループは跳ばずにサルコウ2本だけの構成とした。SPでは「気合いが入りすぎて空回りした部分があった」と反省し、フリーは最初の3回転サルコウに2回転トーループを付けて連続ジャンプにすると、次はダブルアクセル+2回転トーループと落ち着いて決める滑り出し。GOE(出来ばえ点)は0点台ではあるものの加点ももらった。

 2回転ループを決めたあとに予定していた2回転サルコウからの連続ジャンプをダブルアクセルに変えたが、シングルになって転倒してしまった。その後3回転サルコウはしっかり決めるも、次にダブルアクセルからの3連続ジャンプを狙うとそれがシングルになり、とっさに本数オーバーとなる2回転トーループを付けてしまった。

「練習不足というか、シミュレーション不足というのもあって、(ダブル)アクセルをもう1本いけると思ってやったけど、シングルになったのにビックリして。そのあとのオイラーを付けられないで2回転トーループになってしまって。やばい、これは点数がつかない。全日本に通るかなと思って......。内容としてはすごく悔いが残る滑りだったし、アクセル2本に関してもすごく悔しかったけど、何とか通れたのでうれしかった」

垣間見えた、さすがの技術

 右足首に負担があまりかからないジャンプのみの構成で、スピンは最初のフライングシットスピンでレベル4だったが、あとの2本はレベル3で、ステップはレベル2という演技。得点は97.80点を獲得し、SPとの合計は154.49点。2016年全日本ジュニア以来の150点台も、6位確定で全日本に駒を進めた。

「5月のアイスショーのあとで氷上練習ができなかった時も、パーソナルトレーナーについてもらってトレーニングをしたり、ピラティスをやったりしたので、思ったより体力があったし、筋肉が落ちていないからこそしんどさも少なかったと思う。今回は急いで仕上げたけど、そのトレーニングの効果はすごくあったと実感しています」

 フリー『タイタニック』は昨季から継続のプログラムだが、この大会が試合では初披露となった。

「昨シーズンは、本当は練習しないほうがいい状態だったけど、五輪シーズンだったので、ジャンプを抜いた練習はしっかりしていて。それで馴染んだプログラムだったので、そんなに焦ることなく練習どおりに滑れたかなと思っています。あとは動画を見返して、意識が抜けているところなどを確認して改善していけたらいいと思います」

 紀平がそう話すように、氷上練習ができていなかった割には、3季連続のSPとともに滑りは安定していて、「さすが」と言える技術の高さも感じさせた。

ケガの完治が今の目標

 3回転ジャンプの練習を始めたことで大会前日には足の痛みも少し出ていたが、強い痛みではなかったので出場を決めたという。それもあって今大会は、悪化しないことを最優先にして2日間を乗りきった。

 そして、試合後には「走ろうと思えば走れるので大丈夫だと思います」と話すが、これからは状態を見ながら練習自体もしっかりスケジューリングしていきたいと考えている。

「やっと戻って来られてよかったという気持ちもありますけど、まだ不安要素があるなかでの試合なので。足のことを何も気にせず滑れるようになる時を楽しみにしているし、そうなれば試合に対してもうれしい気持ちになれる。ケガが完治すればそこからは早いと思うので、まずはそれを目標にします」

 こう話す紀平が今目指すのは、今年12月の全日本でノーミスの演技をして表彰台に上がり、四大陸選手権や世界選手権に駒を進めること。今後は10月末のスケートカナダの出場が予定されている。

「これからまたしばらくはジャンプの練習はしないと思うので、スケートカナダはまだベストの状態には持っていけないと思います。痛みが出なくて完治したことを確認してからでないと練習もしっかりできないと思うので、GPシリーズでは焦らず、全日本に焦点を当てていきたいと思います」

 冷静に完全復帰を目指す紀平。その挑戦が、今やっとスタートした。