昨シーズン、B.LEAGUEが開幕した2016-2017シーズン以来、2度目の優勝を果たした宇都宮ブレックス。その宇都宮ブレックスで15年目のシーズンを迎える選手がいる。田臥勇太である。かつて県立能代工業高校(現・県立能代科学技術高校)で日…

昨シーズン、B.LEAGUEが開幕した2016-2017シーズン以来、2度目の優勝を果たした宇都宮ブレックス。その宇都宮ブレックスで15年目のシーズンを迎える選手がいる。田臥勇太である。かつて県立能代工業高校(現・県立能代科学技術高校)で日本を沸かし、日本人初のNBAプレーヤーとなった彼も今年10月で42歳。それでもなおバスケットへの情熱を失わない田臥に15年目のシーズンに向けた意気込みと決意を語ってもらったーー。



「バスケをできることが幸せ」と語ってくれた田臥勇太

――7月22日に契約を結ばれて宇都宮で15シーズン目を迎えます。15年前と今とでは何か大きく変わりましたか? また何が変わっていませんか?

田臥勇太(以下、田臥) 変わらないのは、毎年契約を更新させていただいて、このチームでプレーできるありがたさ、うれしさ、感謝の気持ちです。これは契約を結ばせていただくたびに常に思うところです。一方で変わっていくのは、チームとして毎年メンバーが変わり、今年はコーチも変わる、そうした入れ替えの部分ですね。

――田臥選手自身はいかがですか? 入団当時は27歳で、今年42歳になります。変わってきているところもあるでしょう?

田臥 当然プレーヤーとしては役割が変わってきますよね。27歳でアメリカから戻ってきた時に比べると役割は変わってきていますけど、バスケットへの情熱は、むしろ増しているように感じます。若い頃は"プレー"の比率が大きかったところが、今はもっといろいろなこと、たとえばチームのことや、地域密着への意識がより強くなってきました。そうした環境が変わっていくなかで、自分自身の変化も楽しませてもらえていますね。

――昨シーズンが終了したところで、自由契約リストに載りました。ファンも心配をしたのではないかと思いますが、あの時はいくつかの選択肢があったのですか?

田臥 契約に関してはエージェントにまとめてもらっているので、時間がかかる時もあれば、そうでない時もあります。ただチームとはコミュニケーションを取りながら、話を進めていました。

――契約更新されたあとに「勝利のために自分ができることを全力でチャレンジしていきたい」とコメントしています。ヘッドコーチが変わり、数名ですが選手も入れ替わった今シーズン、田臥選手のチャレンジを、もう少し具体的に聞かせてください。

田臥 昨シーズンもメンバーは変わりましたが、特に主力が変わったことが大きかったように思います。そんななかでもチーム全員で日々成長して、全員で同じ方向を向いて進んでいこうとしていました。チャンピオンシップも、もちろん地区の1位か、2位で進めればよかったんですけど、とにかくチャンピオンシップに出ることを最初の目標に置いていたんです。結果としてワイルドカードでしたが、その目標をクリアできたことで、チームとしてまたチャレンジする機運も上がり、いざ始まったら......優勝という結果で終われたわけです。

 そう考えると、昨シーズンから学べたことは、長いシーズンのなかで一人ひとりがどれだけチームのために働けるか、それらがひとつになれるかです。今シーズンも新しいメンバーが加わり、昨シーズンのいい部分は残しつつ、新しいプラスアルファをどのようにチームに加えていくかだと思います。そのなかで僕自身はコート上でも、コート外でも、どういう状況であってもできることをしっかりと意識しながら、チームのためにやっていきたい思いが一番ですね。

――これまで築いてきた信頼関係があるからこそ、どんなことでもチームをサポートしていきたいという思いにさせている。

田臥 そうですね。プレー以外の部分でもコミュニケーションを取る大切さは長くやらせてもらえばやらせてもらうほど、強いチームを作っていくには重要なことのひとつだとわかってきました。少なくとも僕は他のメンバーよりさまざまな経験をしてきているので、コート外にもやりがいというか、責任のある仕事はあると思っています。

――とはいえ、プレーヤー田臥勇太を見たいファンも多いはずです。

田臥 プレーの面では、バスケットをやればやるほど、質をどれだけ上げていけるか、その大事さを感じますね。昔みたいにシュート数が多いわけではないので、与えられた時間のなかで自分がするべきプレーを、いかにチームと連動するなかで質を高くしてやれるかどうか。1本のパスでも、1本のシュートでも、それに込める気持ちの重要性をより感じられています。でもそれはベテランになったからこそ学べる部分で、質をより上げていくチャレンジはしていきたいです。

――若い頃は自分の持っているものを出し切ろうと考えていたところが、プレータイムが少なくなっても、質の高いバスケットをすることによって、よりバスケットの面白さや奥深さに触れているという感じですか?

田臥 そうですね。本当にそうです。それがバスケットの楽しさだったり、難しさだったりしますよね。やはり年齢や経験によって感じることだったり、対応の仕方は当然変わってきます。昔だったら次のプレーでやり返せていたり、自分でクリエイトして、コントロールしてと、いろんなことが可能でした。でも今は違います。メンバーが変わって、コーチも変われば、バスケットのスタイルも変わります。どんな状況であっても質は上げられるし、上げなきゃいけないって思うので、今の年齢、今の経験値でやれる部分を探しながら、その探す作業が楽しみだし、ありがたさでもあります。

――田臥選手が県立能代工業高校1年生で全国区になってきた頃、「なんて質の高い子が出てきたんだろう」と思っていましたが、それをまだ追い求めているのが、もはや異次元に感じます。

田臥 いや、まだまだですよ(笑)。いろんな選手が出てきて、いろんなプレースタイルがあって、それこそリーグ自体も変わってきています。そう考えると、今もチャレンジです。そのなかで基本にあるのは、こうやってバスケットをさせてもらえていることです。チームメイトと一緒に戦えることが非常にありがたいし、プレーヤーとしてもやれることがあるので、1本のパスの大切さをより感じます。

――もっと質の高い良いパスが出せるんだ、それを追求したいという思いが、田臥選手をまだ現役で続けさせる要因なのかもしれませんね。

田臥 そうですね。質の高いパスを出したいという思いや、そのパスの重みは当時と全然違います。でもこれは、年をとってみないとわからないことです。今こうやって現役でやらせてもらえているなかで感じるのは、こうした新たな発見だったり、新たなチャレンジに出会える部分なんだと感じています。

――人生の半分以上でバスケットを続けてらっしゃいますけど、田臥選手が思い描く最高のバスケット人生ってどんなものですか?

田臥 いや、思い描いてないからやっていられるんじゃないですかね。全然思い描いていないです。終わる時が来たらその時に「こういう時が終わる時なんだな」と、きっと思うのかな。

――先を見るのではなく、常に目の前、たとえば今シーズンとか、極端に言えば、今日の練習を考えていると。

田臥 そうですね。その積み重ねのなかで見えてくるものがあるのかなと思ってやるタイプなんです。最高のバスケット人生は......終わった時に「バスケット選手でよかった」って思えるのが一番だと思います。バスケットができていることが一番幸せなので。

――これから新しいシーズンを始めようという選手に失礼かもしれないですが、年齢を重ねてきて、40歳というひとつの大台を超えたら、周りからは当然「引退」という言葉もちらほら聞こえてくるのではありませんか?

田臥 ちらほらどころじゃないですよ(笑)。

――そうなんですか?

田臥 40歳を過ぎると特にそうなんですけど、そういうことを言われるのも当然なんだなと思いました。そりゃそうだよな、という感じです。

――それに抗うのではなく、「引退」という言葉を受け入れつつ、でも俺は続けるんだと。

田臥 僕が若い頃に40歳の先輩選手がいたら「まだやってるんだ」って普通に思っていたと思うんです。そう思うことが当然だし、実際に同級生や、年齢の上下に関係なく、引退する選手もいます。次を目指していくのもありだと思うし、いろんな選手にいろんな選択肢があることは、年を重ねるごとに「そういうものなんだな」って思えるようになりますね。

――かつてトヨタ自動車(現・アルバルク東京)でも一緒にプレーした折茂武彦さん(レバンガ北海道代表)は49歳までプレーしました。

田臥 折茂さんの背中をずっと見てきて、1年でも長くというか、少しでも折茂さんに近づけるように頑張りたいなって思わせてもらえました。折茂さんがいてくれたことで、そういう目標をセットできることは本当にありがたい存在です。

――田臥選手は体のケアもしっかりされてきたし、体力的にも、精神的にも引退を考える時期ではないわけですね。

田臥 本当に余計なことを難しく考える暇もないぐらい、日々のメンテナンスを一生懸命やらなきゃなっていう感じなんで(笑)。さっきも言いましたけど、僕はバスケットをしている時が、本当に幸せなので。

――これから新しいシーズンに入ろうというタイミングで引退の話なんかして本当申し訳ありませんでした。

田臥 大丈夫ですよ、40歳を過ぎて本当そういう機会も多くなっているので、もう慣れましたよ(笑)。

――ありがとうございます。では最後に今シーズンの田臥勇太選手の目標、意気込みを聞かせてください。

田臥 もちろんプレーヤーとしては質を高めることがチャレンジしていきたい部分ですし、コートに出ていても、出ていなくても、このチームのために、このチームが勝つために、強いチームを作っていくためにやるべきことをやっていきたいですね。そしてファンの方々が本当にブレックスのバスケットを見たい、応援したい、楽しいと思ってもらえることが大事なことだと思うので、そういうチームを全員で作っていけたらなと思います。

 インタビュー後、宇都宮ブレックスの広報担当者が田臥の存在の大きさについて、こう話してくれた。

「ブレックスが掲げる『ブレックスメンタリティ』は彼の考え方を反映させているところがあるんです。勝利への情熱や、ルーズボールに人一倍飛び込む姿勢がチームの考え方に反映されています。本当に彼がいなかったら今のブレックスは絶対になかったと思います」

 プレータイムは少なくなっているが、チームのなかでの存在感はいまだ陰りを見せない。バスケットに対する情熱も然り。コート内外でその情熱を全力でぶつける田臥勇太を今シーズンも見られることに、我々も感謝したい。