取材をすれば、さまざまな人に出会う。時には、思いもしない出会いもまっているものだ。蹴球放浪家・後藤健生が出向いた韓国に…
取材をすれば、さまざまな人に出会う。時には、思いもしない出会いもまっているものだ。蹴球放浪家・後藤健生が出向いた韓国には、世が世ならば出会えなかったであろう人物が「働いて」いた。
■「イ」ではなく「リ」の意味
渡された名刺には漢字で「李鎬昇」とありました。
それで、僕は「多少は韓国語が分かるんだよ」というところを見せよう思って、「ああ、イ・ホスン氏ですね」と韓国語の発音で読んでみせました。
すると、李鎬昇氏はこう言ったのです。
「私は“イ”ではなく、“リ”と読むのです。王家の李ですから」
ご承知の方も多いでしょう。李さんは金(キム)さんや朴(パク)さんと並んで韓国で最も一般的な姓であり、そして普通は「イ」と読むのです。
というのは、韓国語が属しているウラル・アルタイ語族の言語では語頭に「R」の音が来ないという規則があるからです。
■日本にもスペインにもある読み方の特徴
韓国南西部の全羅道に「羅州」という街があります(正確に言えば、「全州」という街と「羅州」という街があるのでその地域が「全羅道」と呼ばれているわけですが)。「羅」という文字が語頭に来ていますから、この都市名は「ラジュ」ではなく「ナジュ」と読むのです。「全羅道」の場合は、「羅」は語頭にありませんから「ラ」と読みます。
こういうことは、どこの国の言葉にもあります。
日本語も韓国語と同じウラル・アルタイ語族と思われますが(異説あり)、漢字を取り入れるときに「R」の音を発音することにしたのでラ行で始まる言葉はたくさんあります(だから、日本語では「李」は「り」と発音します)。ただし、ラ行で始まる日本語の単語のほとんどは漢字語か西洋言語由来の外来語=カタカナ語のはずです。
しかし、日本語では今でも母音の付いていない「N」や「M」(つまり「ん」)は語頭に来ません。ですから、Patrick Mbоmaは「エンボマ」という表記で登録されましたし、Kylian Mbappeは「エンバペ」と表記されたり「ムバッペ」と表記されたりするわけです。本当は「ンボマ」、「ンバッペ」の方が本来の発音に近いでしょう。
ちなみに、イベリア半島に英語では「スペイン」、イタリア語では「スパーニャ」と呼ばれる国がありますが、本国では「エスパーニャ」です。スペイン語では語頭に「S」がくる場合、「エス」と発音するからです。オランダ人のヴェスレイ・スナイデル選手は、レアル・マドリードに所属していた時は「エスナイデル」でした。
■同じハングルでも違う北朝鮮での読み方
というわけで、とにかく韓国では「李さん」は「イさん」なのです。
ちなみに、北朝鮮では「R」をそのまま読むので「李さん」は「イさん」ではなく「リさん」になります。
北朝鮮の平壌(ピョンヤン)にある15万人収容と称するメーデースタジアム。このスタジアムがあるのは大同江(テドンガン)という川の中の綾羅島という島ですが、島の名前は韓国語なら「ヌンラド」になりますが、北朝鮮の朝鮮語では「ルンラド」と読まれます。
とにかく、目の前にいる水原三星ブルーウィングスの弘報部長(韓国語では「広報」ではなく「弘報」という漢字を使います)は「イさん」でなく「リさん」であり、そしてなんと朝鮮王家の一族だというのです。
1392年に太祖、李成桂(リ・ソンゲ)が開いた朝鮮国の王家のことです。朝鮮国は古代にあった朝鮮と区別するために「李氏朝鮮」と呼ばれることもあります。