近藤一樹×近藤壱来 師弟対談(前編) 四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズには、ふたりの「コンドウ・カズキ」が所属している。 近藤一樹は2020年シーズンを最後に、ヤクルトを退団。オリーブガイナーズの選手兼投手コ…

近藤一樹×近藤壱来 師弟対談(前編)

 四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズには、ふたりの「コンドウ・カズキ」が所属している。

 近藤一樹は2020年シーズンを最後に、ヤクルトを退団。オリーブガイナーズの選手兼投手コーチとして2年目を迎えていた。NPB復帰を目指しての入団だったが、今は選手たちをNPBに送り出すことを第一の目標としている。

 近藤壱来は鳴門渦潮高校(徳島)を卒業後、社会人の三菱自動車倉敷オーシャンズで2年間プレーし、2020年にオリーブガイナーズに入団した。昨シーズン、近藤コーチと出会ったことでポテンシャルが開花。現在、10月20日に行なわれるドラフトでの指名を目指している。

 まだ暑さの厳しかった8月下旬、香川県にあるレクザムボールパーク丸亀で、ふたりにNPBに対する思いを語り合ってもらった。



香川オリーブガイナーズの選手兼コーチの近藤一樹(写真左)とドラフト候補の近藤壱来

キャッチボールへの意識の低さ

一樹 まずピッチャー陣のキャッチボールを見てびっくりしました。まあ、下手くそだったんです。僕からすると不思議なレベルで、この投手陣でどうやって試合をしていくのかと......。そのなかでなんとなく形になりそうで、僕の話すことに最初に食いついてきたのがイチ(近藤壱来の愛称)だったんです。

壱来 それまでの自分に変な自信があったのか、キャッチボールの意識というものがありませんでした。ただぶん投げているだけで......。投手陣のなかでもコーチからキャッチボールの大切さを聞いて意識が変わった人もいたし、そのままの人もいました。

一樹 ただ速い球を投げる、ただ遠くへ投げる動作ばかりで、球質への意識がまったくなかった。肩が温まったとこで切り上げる選手も多かった。それで最低でも20分はキャッチボールをさせることにしたんです。たかだか20分と思うかもしれませんが、みんなヘロヘロでした。投げる体力がないのだから、当然です。

壱来 コーチの話をもとに自分なりに突き詰めてみようと、アウトローのいちばん遠いところにひたすら投げました。なかなか投げられないんですけど、20分、30分とそこを目がけて投げ続けました。

一樹 キャッチボールにはうまくなれる瞬間の楽しさがあって、意識を高くすることで、今後のピッチングも変わっていくからね。20分に固定したある時から意識が高くなった瞬間があって、そこに到達するまでは時間がかかりました。

近藤壱来が描いた成長曲線

一樹 イチについて、高校、社会人時代は注目されている投手と聞いていたんですが、いざ見たら着地する足がバラバラで、これではリリースが安定するはずがない。そこで一定の場所に着地させる練習をさせました。足が安定せずに、上が安定することはまずない。一定の動き、一定のリズムで投げることを意識させてからは、ボールがばらつくことがなくなり、ピッチングがまとまるようになりました。

壱来 先ほどのアウトローですが、それこそ試合でもそこだけを意識して投げたこともありました。自分のボールに手ごたえを感じ始めたのは、そこを徹底的に意識して取り組んでからです。

一樹 イチのピッチャーとしての特長は、チームの柱として、先発完投してくれること。去年は20試合で8完投、3完封。チャンピオンシップでも完封してくれた。勝っても負けても、ひとりで投げてくれる計算ができるピッチャーということです。

壱来 ものすごく体は大きいわけではないし(180センチ・78キロ)、バッターが「うわっ」となるような球も持ってないですが、投げるスタミナはあると思います。最終回になってもスピードが落ちないとか、もう1回頑張れるとか。どれだけ粘れるかはコーチから言われていることでもありますので......。

一樹 このリーグで満足するなら今のままで十分と思うけど、上(NPB)を目指すなら、もっともっと改善するところがある。それだけ伸びしろがあるということなんです。

壱来 上に行くにはすべてのレベルが足りていないですね。真っすぐにしても、ただ馬力で投げているだけで、コーチが投げる球とは明らかにキレ、伸び、回転が違います。変化球もコーチはめちゃくちゃ回転をかけられるし、コントロールもあるし、腕も振れる。そういう意味で、僕はただスタミナがあるだけのピッチャーだと思っているので、そこを生かしつつ、ほかを鍛えていければと思っています。

一樹 球質はまだまだですけど、球速というところの出力は上がってきている。僕と会う前は145キロで喜んでいたのが、今は150キロが出ないと喜べなくなった。

壱来 去年、コーチは「オレはNPBをクビになった」と言っていましたけど、実際にピッチングを見ると、「この球でもダメなのか」と思いましたし、このコーチを超えないとドラフトにはかからないのかなと......。

一樹 去年は、僕のボールはある意味でNPBの見本だと思っていましたが、今は僕を超える必要があるかは疑問です。伸びしろがあれば、今の僕を超える必要はないんですよね。イチには伸びしろがまだまだあると思っているから、それをアピールできればいい。今日よりも明日はもっとよくなっているみたいな。そうなれば「投げれば投げるだけよくなるから、コイツは育つんじゃないか」と、チョイスしてくれる球団があるかもしれない。

あえて選手たちの鼻を折る

 近藤壱来は取材前日の試合(愛媛マンダリンパイレーツ戦)で、8回を投げて10三振を奪うも3失点で敗戦投手となっていた。近藤コーチは「真っすぐでの三振が少ないことが課題であり、伸びしろです」と話した。

壱来 コーチの言うとおりです。真っすぐの空振りが少ないですし、変化球で三振をとることが多いのですが、ストライクゾーンで空振りがとれていない。それができないから、昨日の試合みたいに相手に突き詰められて負けてしまう。今年はああいう試合が多いんです。

一樹 ここのリーグは打者のレベルがものすごく高いわけではないので、いい変化球を持っていれば成績は残せるんです。イチは今年、球速は上がったわけだけど、そのボールで空振りがとれるかどうか。真っすぐを待っていたのに打てなかった、ボールだと思って見逃したらストライクだった。そういうボールを投げてもらいたいですね。そこが今のイチに足りないところですが、伸びしろと表現していいと思います。

壱来 去年は自分ができることが少ないこともあって、たとえばアウトローに投げ込むとか、そのことしか考えてなかったんです。今年は球速が上がって、自分の感情のなかというか、ムキになってしまうことが多かった。できることが増えたわけではないのに、やりたいことを増やしてしまった。そういうことだから「球がバラつくんだよ」とコーチには言われています。

一樹 自分のハードルを高くするのはいいことだけど、厳しい言い方をするとみんな自己満足なんですよ。1日よかっただけで鼻が伸びてしまう。すぐに「これでいいんだ」と横着する。なので、あえて選手たちの鼻を折る作業は常にしています(笑)。大事なのは、すごくよかった日を続けることなんで。NPBを目指すなら、言葉のニュアンスは難しいのですが、僕は彼らの鼻を折ってあげないといけないと思っています。

後編へつづく>>