専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第107回 多くのゴルファーはビジターでゴルフ場に行くのですが、そこで、ついやらかしてしまうことが結構あるんですよね。特に滅多に行かない高級ゴルフ倶楽部、そこでの振る舞いは滑稽…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第107回

 多くのゴルファーはビジターでゴルフ場に行くのですが、そこで、ついやらかしてしまうことが結構あるんですよね。特に滅多に行かない高級ゴルフ倶楽部、そこでの振る舞いは滑稽そのもの。そんなビジターならではの、珍妙なプチ”武勇伝”をとくと拝見してみましょう。

 まずはエントランスでのこと。戦車みたいなドイツの超高級車がズラリと並んでいたりすると、自分が乗ってきた1300ccの小型車、それも中古車がすげぇ~見劣りすることに気づきます。

 そうすると、一瞬エントランスにクルマを止めようとするのですが、ドイツ車軍団のオーラに圧倒され、そのままエントランスを素通り。駐車場の端っこにクルマを止めて、そこからキャディーバッグを担いで玄関へ……。なんだかなぁ~、クラブハウスに入る前から気合い負け。先が思いやられます……。



名門、高級ゴルフ倶楽部ではエントランスに入るときから緊張します... そうして向かったエントランスでは、マスターズのチャンピオンのような高級ジャケットを身にまとった支配人が丁寧に挨拶をしてきます。と同時に、顔は笑顔を保っているものの、目が一瞬鋭くなり、ロボコップのようにコンマ1秒ほどで外見をチェックしてきます。

「あ~、ユニクロでサマージャケットを買っておいてよかったぁ~。6月までは『ジャケット着用』ってホームページに書いてあったんだよなぁ」

 高級じゃないけど、ジャケットを羽織っていてひと安心。見事、服装チェックはパス……って、中学校の校門チェックかよぉ~。

 その後、無難にサインを済ませてロッカー室へ行くや、今度は木製のバカでかいロッカー、マホガニーとかオークっていうの? それに驚くことしきり。しかもロッカーは”コの字型”の配置で、他に誰もゲストはいません。ちょっとした贅沢空間にしばしご満悦です。

 ところが、スパイクを履こうとして靴ベラを探しますが、見当たらなくて困惑。通常は中央のソファー周りのゴミ箱に放り込まれたりしているのですが、どこにあるんだろう? 

 キョロキョロと見回して探してみると、なんとロッカーの中にあるではないですか!? ロッカーひとつごとに靴ベラが、しかも木製の高級なやつがあるなんて、びっくり仰天です。あまりの高級さに、背中に差し込んで掻いてみました……って、おいおいそれは孫の手か?

 いざスパイクを履くや、床がふかふかの絨毯(じゅうたん)敷きだったことに気づいて、思わず後ずさり。実は、前回のゴルフが雨。プレー後、適当にシューズケースにしまったものだから、スパイクには泥やら草やらがべったりとくっついているのです。

 そんなスパイクで歩き回ったりしたら、一歩踏み出すごとに泥が落ちて高級なロッカー室が大変なことに!

「あちゃ~、えらいところに来たもんだ」

 これはやばいと思って、一旦スパイクを脱いで、すかさず洗いにいきました。なんだかなぁ~、豪邸に拾われた野良猫って、こんな気分なんですかねぇ。歩くたんびに足跡がついてって……。

 何となくスパイクがきれいになったら、気を取り直して、朝ごはんを食べるためにレストランへ。和食か洋食か迷いましたが、なぜか高級倶楽部ではナイフとフォークのイメージが浮かんで、見栄を張って『洋定食』を所望してみました。

 そうしたら、サラダとクロワッサンにオムレツ、そしてコーヒーだけ。

「ぜんぜん腹にたまらないっす……」

 オサレに生きるって、大変なのねぇ~。

「ああ~、見栄を張らずに『特急豚汁セット』を頼んでおけばよかったぁ……」って、プレーする前から早くも”タラレバ”状態です。

 さあ、いよいよプレー開始。おっと、その前にドリンクを用意しなきゃ。ペットボトルのお茶が……、250円だと!?

「げぇ~、ゴルフ場のちょっと手前のコンビニじゃあ、100円ですぜ。あそこで2本買っておくべきだった」と後悔しつつ、「いや、むしろ激安卸しセンターで18円ぐらいで仕入れて、ここに納品しようか。50円ぐらいなら買ってくれるかもしれない。これを関東一円のコースでやれば莫大な利益が……」って、余計なことは考えるなっちゅうの。

 思わぬ出費に心を痛めつつも、とりあえずキャディーマスター室でスコアカードをもらい、マークを少々拝借します。そのとき、無料の木製ティーが置いてあることに気づきます。ここぞとばかりに、わしづかみしてポケットへ。

「いや、タダなんだから」と開き直って、もう少しもらっていこうと2度目の”試技”を敢行。しかしその瞬間、キャディーマスター室から鋭い視線が……。

「やべぇ~、見られている……」

 わしづかみしかけたティーをやんわり戻します。それから、小鳥がついばむようにして2、3本だけ拝借。なんだかなぁ~、立ち食いそば屋のネギ入れ放題ってわけにはいかないようですな。

 さてさて、せっかくの高級倶楽部ですから、恥ずかしいプレーはできませんし、ちょっくら肩ならしに練習でもしておきますか。

 クラブを数本持って練習場へ行くと、そこでまた驚愕させられます。なんとボールがコースで使える本球なのですから。実際はロストボールなんでしょうが、確かに打ってみると、普段練習場で打っているボールとは打感がまったく違います。

「さすがだなぁ~」と感心していると、なぜかまっさらな新しいボールも出てくるから驚きです。「え~!? これもロストボールなの? 有名ブランドで、量販店でも1個500円以上はする代物ですよ! 誰かが池にでも落としたんでしょうか」って、じぃ~と見ること3秒。それから、周囲をゆっくりと見回して、誰もこっちを見ていないことを確認すると、すかさずボールをポケットにしまい込みましたとさ。トホホ……。

 そうこうしていると、まもなくスタート時間。ズボンの左右のポケットを膨らませながら、1番ティーへと向かいます。そこでは、若いキャディーさんが待っていて、うやうやしく挨拶してきます。

「おはようございます、○○様」

 そんな挨拶にもドギマギしてしまいます。「『様』なんて呼ばれたのは、どこぞの高級風俗に行って以来だよ。なんか、緊張するなぁ」ってね。

 ほどなくして、ビジター4人でティーショット。無事に終わって、じゃあセカンドショット地点に移動しようと、カートに乗り込みます。

「さあ、キャディーさんも僕の膝の上でいいから、カートに乗ってぇ」なんて、つまらないギャグをのたまいます。それでもキャディーさんは、嫌な顔も見せずににっこり。人間ができています。

 そうして、「お客さま、キャディーはカートには乗れないのですよ~」と言われて驚きます。緊急時以外、キャディーさんは歩きなんだそうです。

「さすがは高級倶楽部」と思いつつも、「いや、個人的にはできればカートの隣に乗せたかったなぁ」っていうのが本音です。

 まあ、それは納得。でもそれだと”サービス”過剰ですもんね。

木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。

『89ビジョン~とにかく80台で回るゴルフ』好評発売中!