イタリアGP決勝直後のモンツァは、メインストレートに大観衆がなだれ込み、興奮のるつぼと化した。週末で述べ33万7000人。詰めかけたティフォシの前で表彰台に立ったシャルル・ルクレールは、悔しさというよりもあきらめの表情を見せていた。「僕は…

 イタリアGP決勝直後のモンツァは、メインストレートに大観衆がなだれ込み、興奮のるつぼと化した。週末で述べ33万7000人。詰めかけたティフォシの前で表彰台に立ったシャルル・ルクレールは、悔しさというよりもあきらめの表情を見せていた。

「僕は全力を尽くしたよ。このすばらしいティフォシの前で勝てれば最高だったけど、それは不可能だった。僕らのペースはとても強力だったと思う。でも、十分ではなかった」



表彰台の前はティフォシで埋め尽くされた

 7番グリッドからスタートしたマックス・フェルスタッペンは、2周目には3位、そして5周目には2位に上がった。そこから先は、彼の驚異的な速さに対抗することができなかった。

 フェルスタッペンは事もなげに振り返る。

「スタートがとてもうまく決まって、第1シケインもクリーンに抜けることができた。そこからすぐにリズムを掴むことができて、そのまま第2シケインに飛び込んでいった。今日はとても暑く、タイヤをいたわらなければならずタフなレースだったけど、ドライブしていて本当に楽しかったよ」

 この時点ですでに「真っ向勝負では勝てない」と判断したフェラーリ陣営は、12周目のVSCでルクレールをピットインさせた。自分たちが入らなければフェルスタッペンが入り、VSC中のピット作業で約7秒をセーブして2ストップ作戦で攻めてくる。VSCがもたらす7秒を利用するしか、フェラーリには勝利のチャンスはなかった。

「チャールズ(シャルル・ルクレール)には速さがあったが、タイヤデグラデーション(性能低下)ではマックスのほうが優れていて、あの時点ですでに彼のペースのほうが速くなっていた。つまりシンプルに言えば、同じ戦略を採れば遅かれ早かれ彼に負けることになったわけだ。我々が勝つ唯一のチャンスは、あのVSCの際にピットインして2ストップ作戦に切り替えることだった」(マティア・ビノット代表)

使い古しのタイヤでも余裕

 2ストップ作戦を採るということは、1ストップのフェルスタッペンよりもフレッシュなタイヤで走り、常にハイペースで約20秒のピットストップ1回分のロスを取り戻さなければならない。

 しかし、フェルスタッペンより12周フレッシュなミディアムで得たアドバンテージは、わずかに1周約0.3秒。ソフトに交換して8周フレッシュな状態で20秒を追いかけようとするが、削り取れるのは1周0.3〜0.4秒。

 戦略のミスではなく、シンプルにマシンの速さが足りなかった。

 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表も、どんな戦略を採ろうとも今日のフェルスタッペンとRB18を打ち負かすことは不可能だったと語る。

「彼らがあの戦略を採ったのかは理解できる。今日我々が勝てたのは、単純に我々のマシンのほうが速かったから。戦略的にフェラーリは正しい判断を下したと言える。ただ、その戦略判断とは関係なく、いずれにしても我々は勝てていたはず」

 それを一番よく知るのは、フェルスタッペン自身だ。ルクレールが8周フレッシュなソフトで最後の追い上げを開始したところでも、フェルスタッペンは使い古しのミディアムで余裕の走りだったと告白する。

「どのコンパウンドでも僕らは最速だった。デグラデーションもとてもよかった。本当にすばらしいクルマの仕上がりだったよ。そういう意味では、DRS(※)トレインができてしまう前に1周目で何台もクリアできたのは大きかった。最後はギャップをコントロールしていた」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 レッドブルはいつもなら、ロードラッグのマシン特性を生かし、コーナーでは最速でなくてもストレートでタイムを稼ぎトップに立つ。

 しかし、超高速で全開率が75%に達しようかというモンツァでは、逆にダウンフォースをつけてきた。ストレート最速の座はフェラーリに譲り、代わりに中高速コーナーでタイムを稼ぐ。

来季を見据えるフェラーリ

 これは、1周のラップタイムを追求した結果ではなく、決勝でのタイヤマネージメントを考慮した結果の選択だと、レッドブルのピエール・ヴァシェ(テクニカルディレクター)は言う。

「ポールリカールやレッドブルリンクでは、フロントタイヤからデグがくる。だから、コーナーではなくストレートで稼ぐことでフロントタイヤを守る。しかし、ここはリアだ。リアタイヤを守る必要があるので、(リアの)ダウンフォースをつけることがレースペースを向上させることにつながるんだ」

 レッドブルの読みはすべて当たり、フェルスタッペンは圧倒的な速さを発揮した。



圧倒的な速さでモンツァを制したフェルスタッペン

 その一方で、ハンガリーGPから想定外の決勝ペース不足に苦しみ続けているフェラーリは、この地元モンツァで徹底的な調査と対策を行なった。それによって改善が見られたものの、まだ十分ではなかった。

「スパ・フランコルシャン以降、僕らはとても困惑している。予選だけでなく決勝ペースでもレッドブルに大きく差をつけられている。今週はFP1とFP2でさまざまな方向性をテストしてよくなっていたと思った。予選ではポールポジションが獲れたし、決勝のペースも大幅によくなっていた。ただ、こういうタイプのサーキットが僕らのクルマには合っていないということを忘れてはいけないと思う」(ルクレール)

 苦手なモンツァでここまで戦えたということは、一般的なサーキットに行けばレッドブルと同等か、それ以上の速さを持っているのか、それともまだ十分でないのか。それは次戦以降を見てみなければわからない。

 しかし、フェラーリ自身はすでに来季に目を向けていることもまた事実だ。

「予選では我々も速さを示すことができているし、純粋なパフォーマンスはある。しかし、レースペースではタイヤのデグラデーションに苦しんでいて、その点おいてレッドブルは優れたマシンだ。それを分析して改善する必要はある。今シーズンには間に合わなかったとしても、間違いなく来シーズンに生きるわけだからね」(ビノット代表)

天王山を越えて残り6戦

 これでヨーロッパラウンドが終わり、2022年シーズンはいよいよ残り6戦の終盤フライアウェイ戦へと突入する。

 レッドブルは両チャンピオンシップの確定に向けて突き進み、フェラーリは来年へ。メルセデスAMGはモンツァでもフェラーリに匹敵するレースペースを見せ、彼らも来季へ向けて着々と準備を進めている。

 モンツァという天王山を越え、2022年の選手権争いは急速にフィナーレへと突き進み始めたようだ。