これが卓球界のファンタジスタと呼ばれる所以だろう。9月11日、大田区総合体育館で開かれた「Tリーグ2022-2023開幕戦」。琉球アスティーダvs岡山リベッツの一戦で、勝敗を決するビクトリーマッチを託された丹羽孝希(岡山リベッツ)が琉球ア…
これが卓球界のファンタジスタと呼ばれる所以だろう。
9月11日、大田区総合体育館で開かれた「Tリーグ2022-2023開幕戦」。
琉球アスティーダvs岡山リベッツの一戦で、勝敗を決するビクトリーマッチを託された丹羽孝希(岡山リベッツ)が琉球アスティーダの新エース・張本智和をまさかの秘策で破り、2年ぶりに返り咲いた古巣チームを今季白星スタートに導いた。
自身も張本から初勝利を奪った秘策。それは、初めて披露したバックサーブだ。しかも当人は「練習しないで出した」とさらり。
相手の意表を突くプレーが持ち味の、なんとも丹羽らしい奇襲作戦だった。
最初の出番は琉球アスティーダがマッチカウント2-1でリードした第4マッチに回ってきた。これを落とせばチームは負けるという緊迫した場面だ。
満を持して臨んだ丹羽はまず、前週の全農CUP TOP32福岡大会 男子シングルス2回戦で敗れた木造勇人(琉球アスティーダ)にバックサーブを試した。
「木造には1週間前に負けているので、そのときとはガラリと変えようと思って、いろんなサーブを出しました」
木造に出したバックサーブは数本だったが、琉球アスティーダのベンチでは張本がそれを見ており、ビクトリーマッチにもつれ込んだ場合「ある程度は予想していた」と言うが、実際、ビクトリーマッチで丹羽は執拗なまでにバックサーブを送り続けた。
これに張本は対応できず完全にペースを狂わされ、わずか1ゲームで決まるスピード決戦を8-11で落とした。バックサーブを連発した狙いを丹羽はこう説明する。
「2番の森薗(政崇/岡山リベッツ)対張本の試合を見ていて、張本にフォアサーブを出すとチキータで全部一発で持っていかれて全然試合にならないと思ったので、バックサーブを出してチキータをさせないようにしました。実際、チキータは1本しかされなかったので、それが勝因だと思います」
「出したのは横回転と無回転。最初は横回転でいこうと思ったんですけど、練習していなかったので出せなかった。だからナックル(無回転)を出したという感じですね。台から出たりとか、あまりいいサーブとは言えなかったんですけど、今日で手応えを掴んだので練習していこうかなと思います」
正直なところ丹羽のバックサーブはぎこちなく、よくぞ実戦で使ったものだと驚いた。
だが、これにも理由がある。現在、精力的に転戦を続ける国際大会のWTTシリーズで得た課題感だ。
「サーブの種類がすごく課題だと感じていて、この間の試合(9月7日のWTTコンテンダー マスカット男子シングルス1回戦)もゲームカウント2-0でリードしていたのに、そこから慣れられて負けてしまった。今日みたいにいろんなサーブを出していくことで、相手に慣れられずに勝つことができるかなと思います」
すぐに結果が出なくても気持ちは前向き。転戦スケジュールもタイトではあるが状態は良いという。
ちなみにこの日も前日にWTTコンテンダー マスカットが行われたオマーンから帰国し、時差5時間のタイムラグが残る中で開幕戦に出場。
開幕戦が終わるとすぐにまたWTTコンテンダーアルマトイの開催地カザフスタンへ飛ぶという強行スケジュールが組まれていた。
パリ2024オリンピックに向けたスタンスもこれまでと変わらず、1試合1試合の積み重ねの先に出場の可能性があればいいと考え、「日本リーグも1部復帰を目指して頑張っていますし、Tリーグもファイナル進出を目指している。世界ランクも57位なので前にいた位置までは戻したい」と意欲を見せる。
ベテランになってもなお異彩を放ち続ける丹羽。ファンタジスタの天才的な閃きと静かなる闘志は衰え知らずだ。
(文=高樹ミナ)