【明治安田J1リーグ 第29節 清水エスパルスvs湘南ベルマーレ 2022年9月10日 18:03キックオフ】 笛が鳴…
笛が鳴ると清水のベンチにいた選手たちが試合終了だと思って飛び出そうとするほど、5分と表示されたアディショナルタイムはいつ終わってもおかしくなかった。なんで終わりじゃないんだ、と手を広げてアピールする彼らは、直後に肩を落とすことになった。
湘南の茨田陽生がゴール前に浮き球を入れると、ボールはクリアしようとジャンプした立田悠悟の頭をぎりぎり越えた。その後ろに入り込んだウェリントンがヘディングシュートでネットを揺らし、90+6分、ついに試合は1-1となり、幕を閉じた。
ミッドウィークにマリノスを相手に不甲斐ない試合をしてしまった湘南が意地を見せたのとは対照的に、前節10人になった広島を相手に数的優位を活かせなかった清水はまたしても勝利を逃してしまった。
ゼ・リカルド体制となってから順調に上昇してきた清水は、この日のスタジアムに17751人を集めた。湘南のサポーターもアウェイ席を埋めたが、今季のIAIスタジアム最多入場者数を記録したのは、強い清水、という目で見られるようになったという証でもある。
私自身、東京・ガンバ・柏と清水の試合を続けて取材した際に、そう感じさせられた。
しかしこの日の清水は、チアゴ・サンタナのゴールで先制に成功したものの、強さを見せることができなかった。権田修一の大活躍で長い時間1-0を維持できていたが、勝てなかったという結果が妥当なものだと思えるほど攻守ともに上手くいかなかった。指揮官は「試合を通して苦しめられた」と正直に語った。しかも、現体制になってからのベストメンバーと言えるスタメンが用意されたにもかかわらず、だ。
■この日の清水は動き方の確認を繰り返していた
試合後、サンタナは「練習でやってきたことをうまく出せなかった」と振り返った。追加点を奪えずにいたせいで終盤に追いつかれた、というパターンではない。彼は前半から、プレーが止まる度に指揮官に駆け寄って動きを相談していた。
サンタナ以外も、この日の清水は動き方の確認を繰り返していた。飲水タイムにゼ・リカルド監督から送られる指示はいつもより多く、試合中にテクニカルエリアに2人がいる状態になってしまい第4の審判員から制される場面も。ハーフタイムには松岡大起と乾が互いに意見を出し合ったり、度重なるピンチを凌いだ権田は大声での鼓舞よりも修正を優先させようとしたり、と選手同士でも何度もやりとりしたが、どれだけコミュニケーションをとっても好転には至らず、暗中模索、という光景になった。
なぜこのようなことになったのだろうか。
清水は、攻撃での縦への動きが中央でもサイドでも存在することで強さを見せていた。
センターフォワードのサンタナが高い個の力を発揮して縦へのボールを収めるだけでなく、サイドバックとサイドハーフによる縦への攻撃でクロスまでもっていくことができる。
相手はサンタナに必ずセンターバックの1人をつけることになり、さらに内側を向いてボールを持つことができる乾とピカチュウに対応し、献身的に動き回りながら個でもボールを運ぶことができるカルリーニョス・ジュニオという厄介な存在もケアしなければならない。こうなると積極的に攻撃参加する清水のサイドバックに分厚い対応をとることは難しく、原と山原(試合によっては片山瑛一も)の良質なクロスに幾度もゴール前を脅かされてしまう。
その攻撃に、試合途中で対応してみせたチームがある。8月20日の柏だ。ネルシーニョ監督はウイングバックの戸嶋祥郎に対し「相手サイドバックの上下動にしっかりと対応する」という指示を与えて試合の流れをガラリと変えてみせた。ネルシーニョ監督は、コメントの中でこうも言っている。「サンタナ、カルリーニョス、乾を起点に速い攻撃を仕掛けてくるが、それに対応するにあたってライン間にスペースを空けてしまった」
それを踏まえて前節の広島戦を振り返ると、似たようなことが起きている。
■広島が10人になったのは清水のピンチにつながった
0-0の65分に塩谷司が退場し10人になった広島だが、これによって難しい試合になったのは清水の方だった。最終的に2点を奪われて敗れた清水だが、守備よりも攻撃が問題だった。「相手が構えてきたことに対しての戸惑いがチームの中にあった」と振り返る松岡は「(退場によって)相手はやることが明確になった」とした。5-3-1となった広島は、自分たちの攻撃に対し「ボールに行きながらクロスへの対応をするというやり方」になったという。
引いてライン間のスペースを消し、ウイングバックにサイドバックを対応させる。
柏と広島が見せたこの守り方は、湘南にも採用された。
サンタナもそこに言及している。「前から守備をしてくると思っていたが、引いてきた。自分たちが攻めるスペースがなかった。動いてもスペースを作ることができなかった。特に、自分たちのワイドの選手がプレーするスペースがなかった」
「前から守備をしてくると思った」というコメントが出るということは、そういう対策をされるという想定ではなかった、ということだ。サンタナは「試合の状況は予想していたものとは違った」とも口にしている。
引いてくるかどうか、というのは順位やアイデンティティーなど相手の状況次第で変わってくるが、サイドバックへの対応を明確にする、というシンプルかつ効果抜群の対策は3バック+ウイングバックでなくても可能だ。柏戦では後半に柏が4バック化したように見えたが、ネルシーニョ監督はそれについて、あくまでも戸嶋の役割を明確にしただけでフォーメーションは変えていない、としていた。フォーメーションに関係なく、誰がそこにつくかを明確にすれば同じ効果を生むだろう。
順風満帆に見えていた清水だが、ここにきて大きな課題が与えられた。果たしてこの対策を上回り、本当に強い、と思わせることはできるだろうか。
鍵となるのは、あくまでも攻撃だ。1-1という結果を松岡は「相手の攻撃の回数が多いことで受け身になった」と語った。調子を上げてくる過程で、清水はシュートの本数で相手を上回り続けていた。この日の清水のシュートは3本だけだ(湘南は15本)。攻撃は最大の防御、という言葉もある。あくまでも「自分たちがやるべきことを90分通してやり切れるようにすることが大事」(松岡)という姿勢で、更なる強さを目指す。
暗中模索の中で、右サイドでボールを持った原が逆サイドまで運び、山原との連携でラストパスまでいく、というプレーも飛び出した。この日の試合中にコミュニケーションを取り続けた選手たちは、きっと課題を乗り越えてみせるだろう。
■試合結果
清水エスパルス 1―1 湘南ベルマーレ
■得点
12分 チアゴ・サンタナ(清水)
90+6分 ウェリントン(湘南)