蹴球放浪家・後藤健生の取材は、多岐にわたる。対象は人間のみならず、「物体」 にも及ぶのだ。日本の才能のみならず、ブラジ…

 蹴球放浪家・後藤健生の取材は、多岐にわたる。対象は人間のみならず、「物体」 にも及ぶのだ。日本の才能のみならず、ブラジルのカカ、アルゼンチンのサビオラらが出場した2001年の現U-20ワールドカップは、ピッチ外でも蹴球放浪家に衝撃を与えた。

■見たことのない入場券

 さて、その時の入場券は紙ではなく、プラスティック製でした。

 ちょっと見るとそれがプラスティック製だということは分かりませんが、紙製のものとは手触りがちょっと違います。といっても、ツルツルしているわけではありません。プラスティック・フィルムの上に白いインクで印刷を施し、その上に文字などを印刷しているのです。ですから、手で触った時の感触は、その白インクの印刷面の手触りということになります。

 ただ、左下には白で大会エンブレムが印刷した箇所があります。南米大陸特有のダチョウのような飛べない鳥、レアが描かれたエンブレムです。

 そのエンブレムの部分だけは透明なままになっていて、そこを触るとたしかにツルツルしていて「ああ、これはプラスティックなのだ」ということが分かります。また、全体に光に透かしてみると裏面に印刷された文字や大会スポンサーのロゴもはっきりと見えるので、それも紙製との違いです。

■“紙”幣への挑戦

 プラスティック製の入場券は、いずれは世界中に普及していくのかと思いましたが、その後、僕が知っている限りでは採用された大会はないようです。

 そして、今、入場券そのものが消滅していく運命にあるというわけです。ワシントン条約附属議定書に掲載されている、このままではあのレアと同じく入場券も絶滅危惧種になってしまいそうです。

 さて、このプラスティック製入場券は紙幣製造技術を応用したものでした。

 紙幣(つまり、お札。銀行券)は、長く紙で造られてきました(だから、「“紙”幣」というわけです)。日本の紙幣(日本銀行券)は、コウゾやミツマタといった植物を使った丈夫な和紙で造られていますが、最近はそうした原料も輸入に頼らざるを得ないそうです。

 一方で、いつの世にも偽造紙幣というものが出回わります。カラーコピー機で作った粗雑なものから、国家が敵対国の紙幣を偽造するハイレベルなものまで千差万別です。

 そこで、紙の紙幣よりも偽造が難しいプラスティック製の紙幣が考案されたのです(「紙幣」というのはおかしいですね。「プラ幣」とでも言う方がいいかもしれません)。

 しかし、精密な印刷が難しかったためなかなか実用化には至らず、初めて実用化されたのは1988年にオーストラリアで発行された10ドル札でした。

■「プラ幣」のその後

 このオーストラリアの「プラ幣」も、ワールドユースの入場券よりもさらに紙に近い手触りですが、やはり、一部に透明のまま残された部分があって、そこはツルツルとした触感なので、これがプラスティック製だということを実感できます(10ドル紙幣の左下、白でオーストラリアの平原で地下から水を汲むための風車が描かれている部分です)。

 そして、その後、オーストラリアではすべての紙幣がプラスティック化され、「プラ幣」はシンガポールなどいくつもの国でも発行されましたが、思ったほど普及はしませんでした。製造コストが高かったようです。

 そして、最近になると現金による決済より電子マネーの方が多く使われるようになってきました。日本は、まだ電子決済の普及度は低く、今でもガマ口を開けて小銭を探している人を多く見かけますが、僕も最近は現金を使う機会はめっきり減りました。

 いずれ、現金というのは日常生活から姿を消してしまうのかもしれません。つまり、「紙幣」も「プラ幣」も、紙の入場券と同様に絶滅してしまうのかもしれません。

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