"格闘技大好き芸人"としても知られる鬼越トマホークの坂井良多さん。那須川天心vs武尊が行なわれた6月19日の「THE MATCH 2022」では、アンダーカードの解説も務めた。 私物のバッグは「UFC」のロゴ入りのスポーツバッグ。自身のSN…

"格闘技大好き芸人"としても知られる鬼越トマホークの坂井良多さん。那須川天心vs武尊が行なわれた6月19日の「THE MATCH 2022」では、アンダーカードの解説も務めた。

 私物のバッグは「UFC」のロゴ入りのスポーツバッグ。自身のSNSでも格闘技へのリスペクト、愛に溢れたつぶやきが多い。そんな坂井さんへのインタビュー前編では、格闘技にハマるきっかけ、天心vs武尊に思ったこと、今後の注目選手などについて聞いた。



6月19日、武尊(左)に勝利した那須川天心(右)。今後に注目すべき選手は?

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橋本vs小川を見て格闘技にどっぷり

――格闘技にハマったきっかけから教えてください。

「最初はプロレスを見ていて、特に新日本プロレスの武藤敬司さんと蝶野正洋さんが好きでした。ただ、中学生になると刺激がどんどん欲しくなって。そんな中で見た橋本真也vs小川直也の異常性に惹かれました。

 橋本さんが絶望的にボコボコにされて、何回やっても勝てない。小川さんに抱いた恐怖は強烈でしたよ。あそこから僕の中の強さの象徴が変わって、PRIDEなどに興味を持つようになったんです」

――橋本さんと小川さんの3戦目が行なわれた、1999年の「1・4東京ドーム」は、未だにファンの間で語り継がれています。

「小川さんは"パンドラの箱"を開けましたよね。昔は見ている層がかなり被っていただろう、プロレスと格闘技をはっきり分けたんじゃないかと。僕は最初、PRIDEは怖くて見られなかったんですけど、桜庭和志さん、藤田和之さんら日本人のヒーローに憧れるようになってイメージが変わっていきました。

 そこから海外のバケモノ級の選手たち、ミルコ・クロコップ、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、エメリヤーエンコ・ヒョードルなどが出てくる。同時にK-1も見るようになって、ピーター・アーツらの四天王に、サム・グレコ、ジェロム・レ・バンナ、マーク・ハントらが絡んで。次第に僕も、完全にプロレスと格闘技は別物として見るようになりましたね」

――坂井さん自身が格闘技をやろうとしたことはあるんですか?

「中学生の時は帰宅部だったんですが、なぜか(自分が?)世界最強だと思っていて。『ノゲイラの試合を見てるんだから、下からの三角絞めも極めれるだろ』みたいな(笑)。それで高校から柔道を始めたんですが......こりゃ無理だと思いましたね。僕が強いと思っている選手を一瞬で倒す選手、それをまた一瞬で倒す選手が現れるんです。それで『強くなりたい』という気持ちが一切なくなり、見る側に専念するようになりました」

憧れの世界で仕事



メイウェザーのL字ガードのポーズをとる坂井さん

――今年6月に行なわれた世紀の一戦「THE MATCH」では解説も務めましたね。

「あのあと、燃え尽き症候群のような感じになりました。小さい時からプロレスや格闘技に夢中だった自分が、36歳になって歴史的な一戦、那須川天心vs武尊のアンダーカードの解説をやらせていただけたわけですから。そして、解説が終わったあとにリングサイドの関係者席で試合を見守れるなんて思わなかった。

 ただ......僕は2列目の席で観ていたんですが、メインの直前に長嶋一茂さんが目の前に座っちゃったんです。体がデカすぎて、ひょっこりはんみたいに顔を横に出して試合を観るハメに。思わず『バカ!』って心の中で叫びました(笑)。でも、一茂さんは極真空手をやっていますし、格闘技が好きでリスペクトがある方。『THE MATCH』関連の番組では関根勤さんなどとも共演しましたが、格闘技好きの先輩タレントさんたちと同じ空間を共有するのは感慨深かったですね」

――芸人さんの中には、格闘技が好きな方が多いイメージがあります。

「特にメインMCや、長寿番組のMCをやられている方はボクシング好きが多いですね。ダウンタウンの松本人志さん、くりぃむしちゅーの上田晋也さん、千原兄弟の千原ジュニアさんもそうですし。トークのスピード、何か言われた時のカウンターの"返し"とか、何か通じるものがあるのかもしれません。

 明石家さんまさんだけはサッカー愛が強くて、メキシコW杯で"5人抜き"をやった時のディエゴ・マラドーナのスタイルでお笑いをやっていますね。ハンパない個人技で『みんな、ボーっとしてたら置いてくで~』っていう感じ(笑)」

――坂井さんは松本さんに憧れて芸人になったとのことですが、松本さんがMCを務める『ワイドナショー』(フジテレビ)では、井上尚弥選手とも共演していますね。

「僕は、彼女がいること(8月12日に結婚)を話すという"イジリ枠"で出させてもらったんですが、たまたまノニト・ドネアとの再戦を終えたばかりの井上選手と出演が被ったんです。井上選手は1時間ぐらい話をしていたんですが、松本さんも僕も井上選手が大好きなんで、ただのファンみたいになってました。『井上選手と同じ空間にいるわ~』と存分に幸せな気分を堪能している僕が、『彼女ができまして......』と話し始める。なんて素敵で、愚かな時間なんだろうと思いましたよ(笑)」

――井上選手も活躍する、今の日本ボクシング界についてはいかがですか?

「井上選手と、日本人史上2人目のミドル級世界王者になった村田諒太選手が活躍する時代に生きているのが本当に幸せです。村田選手なんて、学年も、下の名前も僕と同じですけど、こんなにも人間として違うものかと(笑)。

 彼らが成し遂げた偉業は、今後100年くらいは達成できる人が現れないかもしれませんね。ボクシング漫画『はじめの一歩』(講談社)の森川ジョージ先生も、2人がやってることは漫画でも描けないほどあり得ない、と言っていました」

天心vs武尊の熱狂と切なさ

――ちなみに、相方の金ちゃんさんも格闘技好きですか?

「いえ、アイツは野球が好きで、横浜DeNAベイスターズのファンです。プロレスや格闘技にはリスペクトがなさすぎて、逆にすごい。例えば、試合前の武尊選手に『天心に勝てるの?』ってサラっと聞いちゃったり、オカダ・カズチカ選手に『プロレスって八百長なの?』って口走ったり(笑)。

 それでも相方とオカダ選手は、釣り仲間なんですよ。オカダ選手は、オフを一緒に過ごすならプロレスに関して何も知らないくらいが心地いいらしくて。僕は『坂井さんはプロレスファンすぎてシンドイっす』って言われちゃいました」

――話は戻りますが、間近で見た天心vs武尊はどうでしたか?

「天心選手がボクシングの技術も駆使して武尊選手に"ケンカ"をさせず、すべてを無力化させたという印象でした。制圧する強さを見せましたが、それでもダウンを取ったことに大きな意味があったと思います。

 ただの判定勝ちだと、さまざまな意見が出てくるし、不完全燃焼で終わった感が出てしまう。しかし天心選手は1ラウンドでダウンを奪ってみせた。本当にアッパレです。でも、試合に臨む武尊選手の覚悟に満ちた表情、試合後の悲壮感を見るとかなり複雑な気持ちになりましたね。高揚ばかりではない切なさがありました」

今後注目の選手は?

――「THE MATCH」は、キックボクシングだけでなく、格闘技界のひとつの"区切り"だったようにも感じます。坂井さんが今後に注目する選手はいますか?

「少しベタかもしれませんが、日本人ではどちらも修斗の世界王者である平良達郎選手(フライ級)と西川大和選手(ライト級)がどこまでいけるのか楽しみですね。22歳の平良選手は今年2月にUFCと契約を結んで、5月に初出場・初勝利。UFCで厳しい戦いが続く日本人選手の"希望の光"になっています。

 修斗史上最年少(18歳)で世界王者になった西川選手は、あの青木真也選手に堂々と対戦要求できるのがすごい。39歳の大先輩に『アイツが嫌いだ』と言わせる19歳の未来、楽しみしかないですよ。

 あと、もうひとりは木下憂朔(ゆうさく)選手。彼も平良選手と同じ22歳で、ウェルター級でメチャクチャ強いサウスポーの選手です。PANCRASEやRIZINでも戦っていて打撃も強い。ウェルター級は激戦区ですけど、UFCの登竜門『コンテンダーシリーズ』にも出場しますから、かなり将来性があるんじゃないかと思います」

――日本人以外では?

「なんといっても世界最強の男、フランシス・ガヌー(現UFC世界ヘビー級王者)でしょう。35歳で、あとどのくらいMMAをやるのか、ボクシングのビッグマッチで稼ぎたいのか(WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリーとの対戦が噂されている)。どちらにせよ、結局はガヌーを見ろ、世界最強を見ろということですね。

 彼は26歳の時、フランスでボクシングを学んで成功を掴むために、出身地のカメルーンから死にかけながらサハラ砂漠を越え、手漕ぎボートで海を渡ったという逸話もあります。そして格闘技をやってすぐに頭角を現すなど、経歴を含めてもっと日本人もガヌーを面白がれると思います。

 昨年は大谷翔平選手と2ショット写真を撮ってましたが、ガヌーも大谷選手くらいすごい。ただ、アフリカにはまだまだ"宝"がいると思うんです。カマル・ウスマン、イズラエル・アデサニヤ、ガヌーの『アフリカ三銃士』に続く選手がどんどん出てくるはずです。UFCがもっと日本で広まれば、もっとRIZINも楽しめると思うので、日本の格闘技ファンにも注目してほしいです」

(後編:「ケンカマッチ」ベスト5を厳選。PRIDE、K-1、UFCのどつき合いナンバーワンは?>>)

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