鬼越トマホーク・坂井良多インタビュー 後編「ケンカマッチ」ベスト5(前編:那須川天心vs武尊、注目の若手や「大谷翔平くらいすごい」最強の選手も挙げた>>) 広く深く格闘技を愛する鬼越トマホークの坂井良多さん。インタビュー後編では、あらゆる格…

鬼越トマホーク・坂井良多インタビュー 後編
「ケンカマッチ」ベスト5

(前編:那須川天心vs武尊、注目の若手や「大谷翔平くらいすごい」最強の選手も挙げた>>)

 広く深く格闘技を愛する鬼越トマホークの坂井良多さん。インタビュー後編では、あらゆる格闘技の試合から「最高のケンカマッチ」を選んでもらった。当初はベスト3の予定が、候補が多すぎて急遽ベスト5に変更。厳選した5試合を紹介する。



国内・海外の名試合から坂井さんが選んだ5試合は?

【5位】ジャスティン・ゲイジー vsマイケル・チャンドラー

(2021年11月7日「UFC 268」 3-0の判定でゲイジーの勝利)

 これはえげつなかったですね。チャンドラーもゲイジーも同じ"超激闘型"。9年前にも、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ vs ファブリシオ・ヴェウドゥム(UFC FUEL 10)というトップ寝技師同士の試合(2戦目)がありましたが、ヴェウドゥムが圧倒(2ラウンド2分41秒 腕ひしぎ十字固め)する予想外の結果に。でも、このゲイジーvsチャンドラーは期待通りの大激戦になりました。

 2ラウンドの強烈アッパーでゲイジーが試合を決めたかと思いきや、チャンドラーが巻き返すシーソーゲーム。最後はゲイジーがヘロヘロになるという、「これぞアメリカ人の大好物」な壮絶な打ち合い! もちろん2人とも技術はあるんですけど、観客の期待を一心に背負って、どつき合った。予想を超える試合をするというプロ意識の高さ、潔さがズバ抜けていますね。

 これまでのUFCの歴史でも、最大級に盛り上がった試合じゃないかと思います。どつき合いでいえば、PRIDEのドン・フライvs高山善廣(2002年6月23日「PRIDE.21」)も伝説ですが、あの試合に最先端MMAの技術をミックスした、という感じです。

 ゲイジーは、UFC参戦当初は連敗したものの、その後はKO勝ちを重ねて屈指の人気を誇るファイターになった。そこにライバル団体であるBellatorの"顔"でもあったチャンドラーが参戦してきて、ファイト・オブ・ザ・ナイト(大会の中で優れた試合を行なった選手に贈られる賞)も獲って、一番脂がのってる時にゲイジーと闘いました。

 普通は、UFCでトップになれなかった選手がBellatorに参戦するという流れなので、チャンドラーの例はかなり珍しい。まだBellatorにはAJ・マッキーといった強い選手もいるので、今後の展開も楽しみですね。格闘技の最高峰であるUFCの舞台で"世界最強"よりも"世界最高"を目指した2人。格闘技を知らない人が見ても、絶対に面白い試合です。

【4位】レイ・セフォー vs マーク・ハント

(2001年10月8日 「K-1 WORLD GP 2001 in FUKUOKA」 3-0の判定でセフォーが勝利)

 みんなの青春、K-1からの選出です。ただ、K-1から選ぶのは本当に難しかったですよ。ジェロム・レ・バンナとハントの試合はどれも熱かったし、熱狂度でいったらマイティ・モーvsガオグライ・ゲーンノラシンもいいし、バダ・ハリvsルスラン・カラエフの2戦目もダウン応酬で凄まじかった。ただ、ケンカというか、どつき合い感がある試合としてセフォーvsハントを選びました。

 格闘技に詳しくない人でも、セフォーとハントの名前はけっこう知ってますよね。ハントはサモア系のニュージーランド人で、『こんなに体が強いヤツっているんだ』ということを格闘技で表現してくれた。この試合では、あのセフォーと一緒にノーガードで殴り合いながら笑ってましたからね。

 先にK-1で活躍していたセフォーと、後から入って来たハントという関係は、なんかお笑いっぽいなとも思って。お笑いの世界でも第7世代が出てきたけど、強力な先輩芸人たちが立ち塞がるみたいな(笑)。当時のセフォーは、賞レースでは頂点にはいけなくても、みんな大好きで業界のトップにいる千鳥さんみたいな感じかな。

 あらためて振り返ると、やっぱりK-1はすごいですね。デカい外国人選手同士の対決を、日本人が見て熱狂する形を作ったわけですから。普通だったら日本人が強さを発揮できる階級でやりたくなるところを、最も厳しいだろうヘビー級の格闘技を持ち込んだわけですから。

 僕は日本人が世界と勝負できる中量級・軽量級も大好きですけど、あの頃のK-1の熱さはヘビー級が作ったものだと思います。創立者である石井和義館長は......いろいろあったことはひとまず置いといて、天才だと思います。

【3位】コナー・マクレガー vs ネイト・ディアス(2戦目)

(2016年8月21日「UFC 202」 2-0の判定でマクレガーが勝利)



ケンカマッチのベスト5を選んだ坂井さん

 僕は最近、主にUFCを見ているんですが、このマクレガーvsディアスはMMAの歴史の教科書に載ってもいいケンカマッチ。MMAのカリスマ、マクレガーの一番の試合を挙げるとしたらコレしかないでしょう!

 1戦目でディアスにUFC初黒星を喫していたマクレガーが、もし連敗していたら"終わって"いたかもしれないと考えると、本当に重要な一戦だと思うんです。マクレガーが負けていたら、UFCもここまで大きくはならなかったかもしれないし、その先でマクレガーがフロイド・メイウェザー・ジュニアや、ハビブ・ヌルマゴメドフと戦うこともなかったはずですから。

 試合はマクレガーが打撃で何度もダウンを奪うなど優勢に進めながら、徐々にスタミナが切れてきて、出血で顔を真っ赤にしたディアスが反撃。マクレガーが持ちこたえて最後はお互いにすべてを出し尽くすという、まさに"死闘"でした。2人は1戦目から煽り合って、2戦目も事前の記者会見でペットボトルを投げ合ったりガチガチだった。そうして観客も巻き込んで最高のケンカマッチにしたという流れも込みで興奮しましたね。

 今のUFCの試合は、選手の技術が高くなっているので、激しい試合になってもケンカにはなりづらい。今年6月に行なわれた、RIZINの元王者のイリー・プロハースカと、UFCのチャンピオンになったグローバー・テイシェイラとの試合もメチャクチャいい試合。でも、攻防は全部、純度が高かったですから。

 あとは、今のUFCで強い選手は、ケンカに持ち込ませないで判定で危なげなく勝っちゃう。MMAが成熟すればするほどそうなることも多いのかなと思うので、このマクレガーとディアスの魂の打ち合いがいっそう印象深くなります。

【2位】三崎和雄 vs 秋山成勲

(2007年12月31日「やれんのか! 大晦日!2007」 三崎のKO勝利→後にノーコンテスト)

 殺伐とした試合で、ドス黒い盛り上がりがあった点を考えても、絶対に外せない試合です。

 秋山さんは、その前年の桜庭和志戦の"ヌルヌル事件"もあって「ド」がつくヒール状態で試合を迎えた。でも、柔道出身の選手なのに自信満々に打撃を使いこなして、メンタルも強い秋山さんには恐ろしさのようなものがありました。

 一方の三崎さんも、「いけ好かないけど強い」というイメージを持っていた人も多いかもしれませんね。所属していた『GRABAKA』は、パンクラスの船木誠勝さんや近藤有己さんが好きな人からすると"外敵集団"みたいな感じだったでしょうから。

 だから2人とも、当時は負けが想像しづらい選手だった。当時は三崎さんの勝利を願う声がほぼ100%、入場でも秋山さんに大ブーイングで、三崎さんには大歓声。そんな中で試合は先に秋山さんがダウンを奪うも、復活した三崎さんが左フックからの顔面蹴りでレフェリーストップとなった。

※一度は三崎のKO勝ちとなったが、三崎が放った蹴りが「4点ポジション(両手両足がついている状態)」での顔面への攻撃で反則と裁定され、試合結果は「ノーコンテスト」となった。

 その瞬間の会場の盛り上がりはハンパじゃなかった。それくらい、日本中が「秋山を倒してほしい」という空気になっていましたね。それを考えると、秋山さんはアッパレですよ。あそこまで悪者になって、いまだにそれを背負い続けているのも凄いことです。この時の思いが、青木真也 vs 秋山成勲(2022年3月26日「ONE X」)にも繋がっているわけですし。

 三崎さんは、日本のMMAの歴史でもっと評価されていい人だと思うんですよね。今は、ボンサイ柔術のセコンドに付いていますが、RIZINで三崎さんが出てきても、ファンは『三崎だ!』とはならないのは歯がゆいです。中量級だと、個人的には三崎さんと、岡見勇信さんはレジェンド。その上に"始祖"みたいな感じでいるのが桜庭和志さん。桜庭さんを否定できる人は、ひとりもいないでしょう。

【1位】桜庭和志 vs ホイス・グレイシー

(2000年5月1日「PRIDE GRANDPRIX 2000 決勝戦」タオル投入により桜庭が勝利)

 日本のMMAの歴史を紀元前・紀元後に分けるとしたら、この桜庭vsホイスが転換点じゃないかと。この勝負がなかったら、日本の格闘技の未来も大きく変わっていたんじゃないかと思います。

 高田延彦さんがヒクソン・グレイシーに連敗するなど、グレイシー一族が"世界最強"と謳われていた中で、桜庭さんがホイラー・グレイシーにチキンウィングアームロックを完璧に決めてTKO勝利(1999年11月の『PRIDE.8』)。その判定が不服で、ホイス側が時間無制限(1ラウンド15分、無制限ラウンド)、レフェリーストップや判定決着なしというルールを要求して、桜庭さんがすべて承諾した。もはや決闘ですよね。

 桜庭さんはUFCの初代王者であるホイスに、寝技でも全然負けていなかった。そして何より、戦い方がクリエイティブでしたね。道着を脱がそうとしたり、モンゴリアンチョップを繰り出したり、コーナー際でホイスの腕を極めながらニヤっと笑ったり。「こんなもんか」みたいな余裕な感じがたまらなかった。

 打撃でも終始圧倒して、ホイスのセコンドから(7ラウンドが始まる前に)タオルが投入された。ホイスの父親、エリオは震えながら「グレイシーの時代が終わる」みたいな顔をしていましたね。その時の会場の歓声は地割れのようでした。

 この一戦の影響はすごくて、UFC代表のダナ・ホワイトも、桜庭さんをすごく尊敬している。日本だけでなく、世界にも認められたケンカですね。

 これで一応ベスト5が出そろいましたけど、挙げ忘れている試合がたくさんありそうで......ダンヘン(=ダン・ヘンダーソン)vsマウリシオ・ショーグンとか、シウバvsクイントン・"ランペイジ"・ジャクソンもあるし......この企画、もう1回やりましょう!

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