徳島インディゴソックス NPBドラフト注目選手特集第3回・野木海翔投手 10月20日に行われるプロ野球ドラフト会議で、異…

徳島インディゴソックス NPBドラフト注目選手特集第3回・野木海翔投手

 10月20日に行われるプロ野球ドラフト会議で、異例の10年連続指名がかかる独立リーグ球団がある。四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックス。多くの名門大学、社会人チームを凌ぐ、驚異のNPB輩出率を誇るチームには、今年も多くの原石が揃う。「THE ANSWER」はその中から、注目選手4人をピックアップ。第3回は野木海翔投手。最速153キロの剛腕リリーバーはチーム最年長の25歳、ラストチャンスという「10.20」に懸ける想いを聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 低く、一塁手の頭のすぐ上に飛んだはずの白球が、右翼フェンスを越えた。

 騒然とする3万人の大観衆。ストライプをまとった背番号11は、呆然と着弾地点を目で追った。しばし俯き、やがて向き直る。その視線の先で、胸に「WASEDA」とあるユニホームを着た1年生がニヤリと笑って三塁ベースを蹴り、ホームベースを踏んだ。

 18歳を迎える夏。甲子園で忘れられない1球の記憶を刻まれた青年は、この夏、25歳になっていた。

 野球人にとって、7年という歳月は無垢に追っていた夢に冷徹なリミットを与える。

「年齢的に、本当にラストチャンス。NPBに懸ける想いは誰よりも強いと思っている。この2か月で人生が変わる。本当にすべてを懸けて、練習から挑んでいます」

 野木海翔は、決意を込めた表情で「10.20」への想いを口にした。

 182センチ、90キロから繰り出す最速は153キロを誇る。オリックス・山本由伸、メッツのジェイコブ・デグロムの直球に「凄い」と憧れる剛腕リリーバー。毎年、ドラフト指名選手を輩出する徳島において、圧倒的な奪三振率を誇る注目株だ。当然、NPBのスカウト陣の視線も熱い。

 徳島にやってきたのは、NPBを目指すため。

 東都大学リーグの強豪・東洋大から社会人野球のミキハウスに入社。高校、大学で全国を経験し、アマ球界ではエリートともいえる道を歩んだが、昨年の都市対抗に出場した翌8月に退社を決断。独立リーグ出身の知人に「スカウトの注目が段違い」と助言されたことに心が揺れた。

「自分の力でスカウトを呼べるのが理想だけど、まずは見てもらえる環境を重要視しました。今の実力を評価してもらえれば、そこからどうすべきか課題も見えてくる。まず今の自分の評価を知りたくて、徳島に来ました」

 決断を尊重してくれたミキハウスへの感謝を携え、瀬戸内海を渡った。環境は過酷だった。社会人時代は寮生活で食事も用意され、給与も安定。しかし、徳島は成果報酬制。食べるためには結果が必要だった。食事も自炊。それでも「安定が欲しくて、野球をやっているわけではない」と意に介さなかった。

 むしろ、野球に専念できる環境が喜びだった。以前は週5日で社業。月曜は9~18時、火曜~金曜は9~13時まで。ミキハウスの各店舗に商品を贈るための梱包作業が主な業務。ベビー服から、おもちゃ、成人服まで。野球との両立は負担も少なくない。だからこそ「もっと野球、野球という脳にしたかった」。

 覚悟の深さだけ、大きく伸びた。全国の独立リーグでもハイレベルな原石が揃う徳島で切磋琢磨し、1年足らずで151キロだった最速も2キロ増。リーグ戦は毎試合のようにスカウトが視察し、NPB球団ファームとの交流戦もある。野木の評判はスカウトの間にも広がり、一躍、ドラフト戦線に浮上した。

 その野球人生には、今も脳裏に焼き付く夏がある。

甲子園で清宮幸太郎に打たれた本塁打が残した教訓

 2015年8月17日。全国高校野球選手権大会、準々決勝。

 九州国際大付(福岡)の背番号11をつけた3年生・野木は、のちにプロ入りする左腕・富山凌雅(現オリックス)、4番・山本武白志(元DeNA)ら強力布陣で、早実(西東京)を迎え撃った。その3番に座っていたのが、清宮幸太郎。当時1年生にして、高校球界の顔だった。

 リトルリーグ世界一になった怪童は、入学直後から本塁打を量産。夏までに13本を積み上げた。西東京で快進撃を演じ、乗り込んだ甲子園でも勢いは止まらず、3回戦の東海大甲府(山梨)戦でついに甲子園1号。テレビも、新聞も、「清宮フィーバー」に染められた。

「本当にどこを見ても、取り上げられるのは清宮君ばかり。ねじ伏せてやろうという気持ちでいっぱいでした」。負けん気を力にしてこそ高校球児。野木だって日本一を目指し、故郷・京都から親元を離れ、福岡に渡った。怪物とはいえ、2学年下。燃えないわけがない。しかし――。

 滞空時間、わずか3秒。0-2で迎えた4回の第2打席、膝元の130キロのストレートを弾丸ライナーで右翼ポール際に運ばれた。

「対戦する前から、間近で素振りをしているわけじゃないですか。それを見て、やっぱりスイングは別格だと思いました。実際、あのホームランは2打席目ですが、1打席目で対戦(投ゴロ)した時も圧があって、やっぱり凄いなって思っていたんです。

 だからこそ、内攻めを徹底していったけど、ちょっとだけシュート気味に入った。でもたぶん、あのレベルの選手じゃないと、あそこまでの打球はいかないはずなんです。そこを逃さず運ばれ、こういう人が上の世界に行くのかと思ったことを覚えています」

 清宮の一発をきっかけに打ち込まれ、4回4失点で降板。ベスト8で甲子園を去り、野木の高校野球は終わった。

 しかし、あの夏の経験は、のちの野球人生に特別な教訓を残してくれた。

「上の世界では、甘くなる“ちょっと”が命取りになると体感できた。1球ですべて決まることがある。その1球の大切さというのは、身をもって学んだことです」

 1球の怖さを知っているから、1球にこだわる。その想いが、野木を大きく、強くした。

 徳島加入直後だった昨秋ドラフトは指名されず。「大卒2年目以上は即戦力。150キロを投げられても、いかにコースに決めるか、150キロを生かせる変化球があるか、そこがまだ1軍レベルではなかった」。今年はスライダーをカウント球、決め球の両方で使えるように磨き、投球の幅を広げた。

 リーグ戦は守護神を務め、25試合で1勝3敗8セーブ、防御率1.88。落差のあるフォークも冴え、奪三振率は圧巻の12.24を記録し、NPB入りに期待も膨らむ。

 スカウト陣へのアピールを問うと「自分にとってはラストチャンス。本当の意味で、自分は人生を懸けている。それは、自分の中で一番強く持っている」と言い切った。見る夢には、期限がある。野球を始めた6歳から憧れるプロの世界の厳しい現実。しかし、夢があるから、ここまでこられた。

 残り2か月。野木海翔は、その1球に人生を込める。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)