ケンドーコバヤシ令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(6)前編(連載5:2代目タイガーが長州力との対戦前に、ジャイアント馬場から授かった「サソリ固め封じ」のまさかの結末>>) 子供の頃からあらゆる団体の試合を見続け、各メディアで"プロ…

ケンドーコバヤシ
令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(6)前編

(連載5:2代目タイガーが長州力との対戦前に、ジャイアント馬場から授かった「サソリ固め封じ」のまさかの結末>>)

 子供の頃からあらゆる団体の試合を見続け、各メディアで"プロレス愛" を披露してきたケンドーコバヤシさんが、独自の目線で名勝負を語り尽くす連載。第6回は、ザ・コブラの日本初試合で起こった数々の謎のシーンを振り返る。



日本初登場の試合で、裸に白いジャケットを着たザ・コブラは神輿でかつがれて登場した

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――今回の語り継ぎたい名勝負はどの試合でしょうか?

「前回、2代目タイガーマスクについて語りましたから、そうなると同時期のマスクマンであるザ・コブラを話さないわけにはいきませんね」

――ザ・コブラは、新日本プロレスのジョージ高野さんが、海外遠征中の1983年夏にカナダのカルガリーで変身したマスクマンですね。

「そうです。さまざまな試合がありますが、その中でパラレルワールドに入るというか、すべてが歪んでしまった試合があるんですよ」

――どういったことなのか気になりますね。その試合は......。

「ザ・コブラvsザ・バンピートです。俺はこの試合をテレビで見ていたんですが、『これはなんやねん!』という、理解ができない衝撃が色濃く残っています」

――この試合は1983年11月3日に蔵前国技館で、NWA世界ジュニアヘビー級王座決定戦として行なわれました。コブラは日本のマット初登場の"凱旋マッチ"でしたね。

「この試合は、両者の入場シーンが今でも語り草になっています。まずバンピートが入ってくるんですが、明らかにマスクとタイツのカラーコントラストが悪いんです。

 タイツはブルーを基調に赤色の星などを散りばめたデザインなのに、マスクは白ベースに赤いコウモリが描かれていた。『もう少し色味を合わせられなかったのか?』という違和感を覚えざるを得なくて。しかも、上半身が『ホンマにジュニアなんか』というくらいデカかったんで、そこで頭が混乱し始めました」

――確かに、奇妙なマスクとタイツでした。

「一方のコブラも、明らかに肌が日に焼けすぎていて、その上にホストのような白のジャケットを着ていた。それで神輿に担がれて花道に登場するんですけど、担いでいる人たちが、ミル・マスカラスといった歴代の名メキシカンレスラーのマスクをかぶっていたんです。今思えば、若手レスラーが覆面をかぶっていたんだろうと思えるんですが、当時の俺は『本物か?偽物か?』と混乱を極めていきます。

 そんな中で、リングに上がったバンピートが覆面を脱ぎ捨てて、実況の古舘伊知郎さんが『デイビーボーイ・スミスだ!』と叫んだんです。デイビーボーイ・スミスはその時が初来日だったんで、俺は誰だかわからなかった。ここで完全に脳がバグりました」

――確かに、デイビーボーイ・スミスはのちにトップレスラーとして大人気になりましたが、この時は日本のファンには知られていませんでした。リング上で起きていることが理解できなくても仕方ないですね。

「ただ、混乱はさらに続くんですよ。観客が、マスクを脱いだスミスをダイナマイト・キッドと間違えて、『キッド!キッド!』とコールし始めたんです。そこで俺は、『古舘さんはスミスって言っているのに、キッドってなんなんだ?』と。そこからパラレルワールドに迷い込むことになりました」

――会場の観客には「デイビーボーイ・スミス」とはアナウンスされていませんから、体型も似ているダイナマイト・キッドと間違えるのは無理もないことでした。

「そうした中でスミスがいきなり、ホストみたいなジャケットを着たコブラをリフトアップスラムして、乱戦に突入しました。『このまま試合へ突入か』とゴングを待ったんですが......そのタイミングで、コミッショナー代理だったテレビ朝日の永里高平スポーツ局次長と、野末陳平さんがリングに上がってきた。そして永里さんが、『この試合はNWAの認可する選手権試合であることを宣言する』と、NWAジュニアヘビー級の認定証を読み出したんです。

 それを、直前に乱闘していたコブラとスミスのふたりがおとなしく聴いているんですよ。乱闘後にセレモニーが行なわれて、バンピートの正体は『デイビーボーイ・スミス』なのに認定証では『ザ・バンピートは......』と読まれて......。ますます異世界の深みへとハマっていきました」

――乱闘後のセレモニーは、珍しいというか異常事態ですね。

「その後にゴングが鳴ったんですけど、試合も異様でしたよ。スミスがコブラのドロップキックを横に流したり、徹底して技を受けないんです。俺は『試合も変なんかい!』と息も絶え絶えでしたが、とにかく必死で『今、コブラと戦っているのはバンピートやない。デイビーボーイ・スミスというレスラーなんや』と自分に言い聞かせていました。

 ところが、そんな俺をあざ笑うかのように、悪ふざけした観客がまた『キッド!』とコールをする。しかもコブラに対しては、『ジョージ!』というコールが起こったんです。笑いを取るために、『行けぇ!ジョージ!』と。スミスへのキッドコールだけでも混乱しているのに、(コブラの正体が当時わかっておらず)『ジョージって誰や?』という疑問も追加された。子供だった俺の脳は完全に容量オーバーです。テレビ画面がゆがんで『今、俺は何を見ているんだ?』と放心状態でした」

――そんな状態では、試合が現実のものとは思えなくなりますね(笑)。

「ただ......もうええ加減にせぇって感じなんですけど、さらなるありえないことが起こったんです」

(後編:放送がいきなりストップ。プロレス史に残る迷勝負は「時空を歪ませた」>>)