前橋育英高サッカー部は中学生とほぼ毎週、プロとは年間10試合程度試合を実施 野球界では考えられない光景がサッカー界では日…

前橋育英高サッカー部は中学生とほぼ毎週、プロとは年間10試合程度試合を実施

 野球界では考えられない光景がサッカー界では日常になっている。First-Pitch編集部がサッカーの有識者への取材から野球界の疑問や課題を考える連載。群馬・前橋育英高サッカー部の山田耕介監督にカテゴリーを超えた交流のメリットを聞いた。同校サッカー部では毎週のように中学生と練習試合を組んでいるといい、プロチームとの練習試合やプロ選手から直接指導を受ける機会も多い。

 野球とは競技特性や歴史に違いはあるが、サッカー界では世代を超えた交流は“当り前”。中学生が高校生と、高校生が大学生やプロと練習試合を組むことも多い。

 全国屈指の強豪校・前橋育英高では毎週のように中学生と試合を組み、長期休みには中学生が参加する練習会を開いている。プロに進んだOBが練習に訪れ、後輩たちに直接指導するのも珍しくない。最近は、ベルギーでプレーする坂元達裕が顔を出したという。

 チームを率いる山田監督は、カテゴリーに捉われない交流の大切さを実感し、積極的に交流の場を設けてきた。7月のインターハイで3度目の優勝を果たし、全国高校サッカー選手権でも頂点に立っている名将は、こうした交流なしにチームの強化や選手の育成はできないと考えている。これまでに100人以上のプロを輩出した実績も、世代を超えた交流が大きな要因になっているという。

「野球界で中学生と高校生が交流しなかったり、プロの指導者が子どもたちを指導するにはハードルがあったりするのは、おかしな話だと感じています。選手たちには、ものすごい刺激になります。メリットしかありません」

「プロだから伝えられることがあり、子どもたちの成長に繋がる」

 前橋育英高の選手たちはプロから指導を受け、大学生やプロと練習試合をすることで、知識や技術を吸収してきた。自分より上のカテゴリーの選手と直接体をぶつけて自分の課題を認識したり、モチベーションを高めたりする。高校サッカー界を長年けん引する山田監督であっても、プロの指導に勝てない部分があり、選手の成長に不可欠だと強調する。

「プロになった選手は様々な失敗を克服して、技術や知識を増やしています。プロの世界を実際には知らない私たち指導者は、同じ指導をできません。プロだからこそ伝えられることがあって、それが子どもたちの成長につながります。たった一言のプロの言葉が、子どものプレーや考え方を変えるきっかけになります」

 かつてより減ったものの、前橋育英高はプロ選手との練習に加えて、年間10試合ほどプロチームと練習試合を実施している。選手たちはプロに質問して指導を受け、直接目にしたプロのプレーを真似ている。山田監督は「野球でも投手と打者の駆け引きなど、プロとの交流から学ぶことは多いと思います。視野が広くなって、野球の奥深さが分かるはずです」と語る。

 カテゴリーが上の大学やプロだけではなく、中学生との交流も大切にしている。スカウティングのメリットに加えて、進路選択する中学生に有意義な時間になると考えているためだ。

「高校側にとっては練習試合や練習会は選手の勧誘につながりますし、中学生は高校生のスピード感や強度を知る機会になります。中学生はチームの雰囲気を分かりますし、寮も見てもらうので入学したらどんな環境でサッカーをするかイメージできると思います」

“越境入学”に理解「選手は成長に何が必要か、どんな環境が良いか考えている」

 スタジアムで試合を見たり、チームの評判を聞いたりする以上に、練習参加は進路を決める判断材料になる。入学してから「イメージと違った」と後悔するのは、中学生も高校側も幸せとは言えない。事前にチームの雰囲気や方針を知っておけば、より希望に合った進路を選択できる。

 高校野球では、越境して選手が集まった強豪校が批判されることがある。実際、圧倒的な強さで今春の選抜高校野球大会を制した大阪桐蔭に対しても賛否両論が巻き起こった。部員150人の前橋育英高サッカー部にも県外出身者は多い。山田監督は、こうした論調を一蹴する。

「どの高校に進むかは本人が決めること。本人が大阪桐蔭は嫌だと思ったら行かないはずです。選手は、より成長するために何が必要か、どんな環境が良いかを考えています。日本の野球のレベルアップを考えたら、高校側が選手を獲られたと言うのは馬鹿げた話です。うちも選手を勧誘していますが、他の高校とけんかになったことは一切ありません」

 中学と高校の交流は、私立の強豪にだけメリットがあるわけではない。前橋育英高の練習会に参加した結果、公立高校への進学を選ぶ生徒もいるという。これは、高校野球の連合チームの問題を解決するヒントになり得る。近年、地方を中心に公立高校は部員不足から連合チームで大会に出場する学校が増えている。日常的に中学と高校の交流があれば、公立高校ならではの魅力を中学生に伝え、部員獲得につながる可能性がある。

 山田監督は中学生との練習試合や練習会を「セレクションではなく、雰囲気を見てもらう場です。判断するのは本人。進路を決めるきっかけになればと思います」と話す。交流した高校を選んでも、別の高校を選択しても、双方に貴重な時間となる。(間淳 / Jun Aida)