甲子園が盛り上がるにはスター選手の存在は不可欠。今大会、開幕前はスター不在が危惧されていたが、それを救ったのが高松商の浅野翔吾だ。初戦の佐久長聖戦で、2打席連続本塁打を放ち、翌日の関西のスポーツ紙の一面を独占した。その浅野を筆頭に、今夏の…

 甲子園が盛り上がるにはスター選手の存在は不可欠。今大会、開幕前はスター不在が危惧されていたが、それを救ったのが高松商の浅野翔吾だ。初戦の佐久長聖戦で、2打席連続本塁打を放ち、翌日の関西のスポーツ紙の一面を独占した。その浅野を筆頭に、今夏の甲子園でスカウトが注目した打者は? 4人のスカウトに聞いた。

夏の甲子園、スカウトが評価した10人の投手は?>>



高松商のスラッガー・浅野翔吾

浅野翔吾は1位確定!?

 まず冒頭でも触れた浅野翔吾(高松商)だが、スカウトたちは「ドラフト1位候補」と声を揃えた。

「正直びっくりしました。2本のホームランを見て、1位を確信しました。スイングの速さはもちろんですが、体に力があるのが一番の魅力。足も速いですし、将来的にはトリプルスリーを狙える選手になるのではないでしょうか」(パ・リーグスカウトA氏)

「身長は170センチと大きくありませんが、それが気にならない。筋肉が詰まっている感じで、バリバリのアスリートタイプ。あんなトップバッターがいたら嫌だなと思われる選手になると思いますね」(セ・リーグスカウトB氏)

「軸がぶれないし、毎打席自分のスイングができる。中途半端に当てにいくことがない。打球は速いし、インコースの球にもうまく対応できる。これはすごいなと思いました。全国の舞台でこれだけの活躍をしたら1位にせざるを得ないでしょう」(パ・リーグスカウトC氏)

 浅野に並んで上位候補に挙げられたのが、捕手の松尾汐恩(大阪桐蔭)だ。2回戦の聖望学園戦で2打席連続本塁打を放ち、史上10人目となる甲子園通算5本塁打に到達した。

「野球センスは松尾くんが大会ナンバーワン。バッティングでは再現性が高いですし、配球を読んでライト前にタイムリーを打つ場面もあった。球団によっては1位もあるんじゃないでしょうか。2位以内は確実でしょう」(セ・リーグスカウトD氏)

「リストの強さと柔らかさが魅力。大舞台で結果を出しているのも高く評価できます。この夏の活躍でさらに評価が上がり、2位までには消えるでしょう」(パ・リーグスカウトA氏)

 打者としての評価は上々だが、意外にも捕手としての評価は高くない。

「肩は強いですが、もともと内野手だったこともあって捕手の投げ方ではない。以前よりコンパクトになりましたが、捕手としての経験の少なさをどう見るかでしょうね」(セ・リーグスカウトB氏)

「体は大きくないし、性格も攻撃的な感じがするので、捕手としてはどうなのかなと......。個人的には内野のほうが向いているのかなと思います」(パ・リーグスカウトC氏)

 捕手としてではなく、内野手として考えている球団もあるようだ。

外野手に好素材の選手集まる

 上位候補はこの2人だが、今大会は外野手に好素材の選手が集まっていた。なかでもスカウトから評価が高かったのが海老根優大(大阪桐蔭)。182センチ、85キロの体格を生かしたパワーに定評があり、センバツに続きこの夏もホームランを記録。さらに俊足、強肩でもある。

「アウトサイドインのスイングは気になりますが、体に力があるし、リストが強い。それよりも魅力は走れて、肩が強いこと。足と肩があれば、試合に出続けられるんです。実戦を重ねることで、バッティングもよくなっていくのではないかと。素材的にはプロで見てみたい選手です」(パ・リーグスカウトA氏)

「正直言って、バッティングは穴だらけです。でも、人と違う感覚を持っている。とんでもないボール球を打ったり、みんなが打てないピッチャーを打ったり......。身体能力が高くて、スピードもあるし、パワーもある。個人的には好きなタイプの選手です」(セ・リーグスカウトD氏)

 黒田義信(九州国際大付)は自慢のバッティングでは結果を残せなかったが、セーフティバントを決めるなどスピードでアピールした。

「セーフティバントを決めて、『こんなこともできます』というところを見せた。足だけなら海老根くんよりも速いんじゃないかな。高卒2年目ぐらいから一軍に出てくるんじゃないかと思わされるほどです」(セ・リーグスカウトB氏)

「三拍子揃った選手です。一見、パワーがないように見えますが、パンチ力がある。練習試合では1試合4本塁打を打ったこともあります。練習試合とはいえ、そういう爆発力は大事。指名順位はわかりませんが、プロで勝負できる選手だと思います」(パ・リーグスカウトC氏)

 190センチ、92キロと堂々たる体躯の前田一輝(鳴門)は、近江の山田陽翔から右中間突破の三塁打を放った。さらにマウンドにも上がり、144キロをマークするなど肩の強さも見せた。

「まさにオリックス・杉本裕太郎のイメージですね。体格がいいので当たれば飛ぶし、肩は抜群。選手としての雰囲気がいい。時間はかかるかもしれませんが、プロが育ててみたいと思わせる選手です」(パ・リーグスカウトA氏)

 投打"二刀流"として活躍した石川ケニー(明秀日立)は、仙台育英戦で3安打を放つなどバッティングでアピールした。

「左投左打で、足も速くないので評価は分かれるところですが、バッティングはすばらしいです。4年後には、(今年のドラフトで上位候補と言われている)蛭間拓哉(早稲田大)ぐらいになるんじゃないかという期待が持てます」(セ・リーグスカウトD氏)

内野手は現時点では人材難

 また捕手にも人材が揃っており、松尾に続くキャッチャーとして2人の名前が挙がった。ひとりは山浅龍之介(聖光学院)だ。

「春はそこまで印象に残りませんでしたが、夏になってよくなっていました。バッティングは、右ピッチャーの膝もとのスライダーに空振りしていたのが、しっかり対応できるようになっていた。スローイングもよくなっていましたし、高卒のキャッチャーがほしい球団なら指名があるかもしれません」(パ・リーグスカウトC氏)

「強肩だし、スローイングの正確性もある。まだキャッチングに課題はありますが、バッティングも以前は左投手に対して全然ダメだったのですが、春の東北大会あたりからよくなってきました。これからの成長が楽しみですね」(セ・リーグスカウトB氏)

 もうひとりは野田海人(九州国際大付)。春夏ともに甲子園ではインパクトを残せなかったが、素材は高く評価されている。

「二塁送球の素早さは高校生屈指です。バッティングはまだ時間がかかりますが、キャッチャーとして育ててみたい逸材です。将来的に『この世代の高卒キャッチャーでは一番』になるぐらいの可能性を秘めています」(パ・リーグスカウトA氏)

 内野手は全体的に小粒な印象があったが、そのなかで名前が挙がったのが遊撃手の戸井零士(天理)だ。

「春はまだまだだなと思いましたが、すごく成長を感じました。バッティングはコンパクトに振れるようになったし、守備はスナップスローなど送球がよくなった。この夏で評価は高くなったと思います」(パ・リーグスカウトC氏)

 また、ヤクルトの村上宗隆の弟として話題の村上慶太(九州学院)についてはこんな声が聞かれた。

「大きな体は魅力。育ててみたい選手であるのは間違いないです。味方の打者や投手に声をかけるなどの姿勢は兄譲り」(セ・リーグスカウトB氏)

 ドラフトにかかるかどうかはわからないが、今後の成長に期待するという声が多数だった。

 この世代はコロナ禍により満足に練習できなかった選手が多い。現時点の評価は高くなくても、この先、一気に成長する可能性を秘めている。ひとりでも多くの選手がプロの世界で活躍することを願う。