トレードマークの金髪に、独自の世界観を持ったモノマネやコントで人気のお笑いコンビ、ガリットチュウの福島善成さん。昨年から本格的に取り組んでいる「ブラジリアン柔術」だが、今年の2月に開催された『全日本マスター選手権』に初出場で優勝を飾り、9月…

トレードマークの金髪に、独自の世界観を持ったモノマネやコントで人気のお笑いコンビ、ガリットチュウの福島善成さん。昨年から本格的に取り組んでいる「ブラジリアン柔術」だが、今年の2月に開催された『全日本マスター選手権』に初出場で優勝を飾り、9月1日からアメリカ・ラスベガスで開催される『ワールドマスター柔術選手権2022』への出場権を手にした。今回は、ブラジリアン柔術の魅力から、世界大会に向けての意気込みまで、アスリートとして語ってもらった。



9月の世界大会に向けて日々練習を積んでいるという福島善成さん

――『ワールドマスター柔術選手権』まであと1カ月をきりました。青帯ライト級に出場し、「世界チャンピオンを目指す」と公言していますが、現在の心境はいかがですか?

福島善成(以下、福島) いやもうワクワクですよ! 絶対に世界チャンピオンになりたいし、どんな選手と対戦できるのか今から楽しみなんです。ただ、試合は地獄になると思いますよ~。20~30人のトーナメント戦で、優勝まで最低でも6試合は考えないといけないし、それを1日でこなすので、試合間隔が短いみたいなんです。

7月の『第5回全日本マスター柔術オープントーナメント』で外国人選手相手に3試合ポイントをひとつも取られずに優勝できたことは自信になったんですけど、試合間隔が短いこともあって、回復しきらないままの対戦は本当にきつかった。だから今回も相当な覚悟で挑まないといけないと思っています。

――顔つきが完全にアスリートですね。そもそも福島さんがブラジリアン柔術(BJJ)を始めたきっかけって何だったんですか?

福島 2020年10月に開催された寝技や組み技だけの格闘技イベント『QUINTET』を観に行って面白そうだなって思ったんです。43歳でしたけど、関節技だったら今からでもできるかなって。中学高校で6年間柔道をやっていたこともあって、柔術でフィニッシュまで極められたらカッコいいなあって。で、近所で道場を探して実際に始めてみると、これは面白いなと思ったんです。ただ、すぐその道場が解散しちゃったんですよ。じゃあ野良柔術家として強くなろうと同好会とかいろんなところで練習するようになったんです。

野良から本格的な柔術家へ

――以前と比べると、ずいぶんお痩せになって、肉体がシェイプアップされましたね。

福島 柔術を始める前はMAXで108kgあったんですけど、今は72kgですかね。柔術はむちゃくちゃ体力使うんですよ。スパーリングを1ラウンドやるだけで汗だくになります。ウェイトトレーニングとかもまったくやってなくて、スパーリングだけでここまでバランスの取れた美しい肉体になれました(笑)。ただ最初の1カ月は全身筋肉痛でベッドからしばらく立ち上がれないほどだったんですよ。でも不思議ですよね、そうこうしていたら翌年の『QUINTET』から声が掛かって出場できたんですから。まさか自分がって。

――2021年7月の『QUINTET』ではエキシビジョンマッチでレジェンドの桜庭和志さんとその息子さんとも対戦して、極められまくってましたね。

福島 いやもうボロ負けでしたね......。腕もバキバキいわされて。エキシビションといっても本当に情けなさすぎて、悔しくてケガが治ってないのに練習を再開したんです。週5~6回は練習していました。

――そこで完全に火が点いた、と。

福島 はい。で、試合に出場してみようと調べてみると、所属先がないと大会にエントリーできないと知ったんです。僕は野良でしたからね。そこで昨年の11月から、ここ『トライフォース柔術アカデミー池袋』に入門してお世話になっているんです。

――『トライフォース』といえば、全国に直轄や提携スクールのある日本BJJ界の老舗であり名門ですね。

福島 僕は本業のお笑いでは『吉本興業』に所属していますから、やっぱり柔術も大手に入って荒波にもまれたいなって(笑)。吉本には芸人が6000人もいて、いろんな人を見て研究できるわけですけど、同様にトライフォースも会員数も多いし選手層も厚いので、いろんな人と組み合うことで強くなれるかなって。今はここに週3~4回通って、あとは住まいのある地元の同好会で練習しています。トライフォースにきて、下駄箱が一杯だと「あ、いろんな人と組める!」って興奮するんですよ。あと体重の近い初めてお会いする出稽古の方がいたりするとテンション爆上がりしちゃったり(笑)。

国内大会で優勝→世界へ

――ワクワクが止まらない感じですね(笑)。そんな柔術ガチ勢の福島さんを見て、相方の熊谷茶さんは応援してくれているんですか?

福島 アイツは人のことに興味がないんで無関心ですね(笑)。ただ僕が柔術をやることで、これまでとはアプローチの違う格闘技がらみの仕事が増えてきているので、棚ボタみたいな感じでラッキーって思っているんじゃないですかね。ホント、クズ野郎なんで(笑)。



©JIU-JITSU NAVI/Shiho Yaginuma

――あはは。BJJのおかげで仕事の幅の増えてきたんですね。

福島 はい。筋肉関連で『アメトーーク!』に呼んでいただいたり、あとは大会の密着とかですかね。それと「グアム大好き尼さん」という護身術を教えるキャラクターを作ってコントをしたり。これでネタ番組に3回出たんで、ハネたも同然かなと(笑)。

――芸人の方は格闘技好きが多いですよね。例えば自身もジムに通っている今田耕司さんとか。

福島 そうですね。今田さんは大会で優勝するたびにLINEを送っていただいて、うれしいですし本当にありがたいです。ただ問題は嫁さんですよね。

――ご家族の理解はどんな感じなんですか?

福島 40歳を過ぎて始めたので最初は「ケガするんじゃないの?」「死ぬんじゃないの?」って心配していました。でも、柔術は打撃系とは違って、加減さえ間違えなければケガをすることはあまりないんです。あとは週5も練習に行っていると、機嫌を取るのが大変で(苦笑)。「なんか今日、試合やっているみたいで暇だからちょっと見てくるわ~」とか「時間空いたから道場の様子見てくるわ~」とかバレバレの嘘をついて丸め込んでいます。もちろん柔術衣は毎回自分で洗ってますよ(笑)。

――なるほど(笑)。福島さんは今年2月の『全日本マスター選手権』を皮切りに、5月の『東日本柔術選手権』、そして7月の大会と3大会連続制覇しています。BJJは大きく選手の特性を分けると"上から攻めるタイプ"と"下から引き込んで攻めるタイプ"だと思うのですが、福島さんはどちらのタイプですか?

福島 最初は柔道をやっていたこともあって、上から攻めるパワー系だったんです。袈裟固めや上四方固めを使ったり。けど、ある時道場のほうから「下からもできたほうがいいよって」と言われて練習を始めてみると、僕は寝っ転がっての攻防が好きなのでハマっちゃったんですよ。なので、今は下から引き込む戦い方が多くなりました。まあでも基本的には両方いけるようにしています。

――BJJはバックやマウントを取ることでポイントが発生する競技ですが、やはり福島さんとしては相手を極めて一本勝ちを狙いたい。

福島 もちろんです。やっぱり最後は一本極めたい。極め切る最後の「んふふふふーん!」って瞬間はパワーもいるし、めっちゃきついけど、極まった時は最高にうれしいんです。

――ちなみに得意技は?

福島 キムラロック(腕固め)や、あと好きなのは下からの腕十字とかですかね。

世界大会は楽しみしかない

――試合場の雰囲気というのはいかがですか。

福島 むちゃくちゃ緊張しますよ! それにマスタークラスの選手ってうまいし強いから、本当に勝つのが大変なんです。

――本業のステージである『ルミネ the よしもと』と比べると?

福島 あー、ルミネのほうが圧倒的に楽ですね。本番ぎりぎりまで寝ていますし、何も緊張することないですから(笑)。

――ここまでハマったBJJ。やってみて知ることのできた魅力は何でしょうか。

福島 さっきも言いましたけど、僕の年齢から始めてもケガのリスクが少ないことと、ウェイトをやらなくても練習するだけでバランスのいい理想的な肉体になれるということですよね。あとはやればやるほど答えが出る。テクニックなども多彩で選択肢は多いし、自分に合った戦い方を見つけられるので、老若男女問わず、いろんな人に勧めたいですね。たぶん、もう少しすれば爆流行りするんじゃないですかね。道場を見てもわかるようにすごく清潔でぼんやりとオシャレなんですよ。例えばBMXやボルダリングみたいにスマートな感じでやる人が増えるんじゃないかなって。

――さて『ワールドマスター柔術選手権』では、世界チャンピオンになることが目標ということですが、ほかにモチベーションにしていることはありますか。

福島 大会で優勝するたびに、いろいろな社長さんにキャバクラをおごってもらっているので、ワールドマスターで優勝したらどうなるんだろうって期待しています(笑)。最初、キャバクラは冗談で言っていたんですけど、いつの間にかモチベーションになっていますね。

――そういうのも大事ですよね(笑)。さあいざ本番、相手選手の研究などをして挑む予定ですか。

福島 いいえ、僕は試合する時に相手の情報を一切入れないようにしているんです。だから対戦前の試合もほとんど見ませんね。相手の情報を入れすぎてしまうと、逆に(その情報に)とらわれて自分のリズムが崩れちゃう。ワンマッチならまだしも、初めて対戦する選手がほとんどなのでちょっと見ただけで相手のことがわかるはずない。あくまでも組み合ってからの勝負だと思います。パワー負けすることはないと思っているので、あとはトーナメントを戦い抜くスタミナを本番までに準備することが大事だと思っています。

――世界大会での戴冠、期待しています!

福島 目標は1ポイントも奪われることなく圧倒的な優勝をすること。柔術は元々日本のモノですし、やっぱり外国人選手には負けたくないですからね。いや~ホント、今から楽しみで仕方がありません!

撮影協力:トライフォース柔術アカデミー池袋