宮里藍も指導した担当トレーナー鎌田貴氏の証言とは 女子ゴルフの全米女子アマチュア選手権で日本人として37年ぶりの優勝を飾った馬場咲希(日本ウェルネス高2年)は、1年半前から始めた本格トレーニングでレベルアップしていた。かつて宮里藍を担当した…

宮里藍も指導した担当トレーナー鎌田貴氏の証言とは

 女子ゴルフの全米女子アマチュア選手権で日本人として37年ぶりの優勝を飾った馬場咲希(日本ウェルネス高2年)は、1年半前から始めた本格トレーニングでレベルアップしていた。かつて宮里藍を担当した鎌田貴トレーナーの指導で、主に体幹を強化。さらに臀部、太もも裏を太くしたことで腰の回転がより速くなったという。もっとも、鎌田氏は「フィジカルの完成度はまだ3割程度」とし、現在270ヤード平均のドライバーショットはさらに伸びると明言。その恵まれた素材から、馬場のことを「神様から選ばれた人」と表現した。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 鎌田氏は、馬場の快挙を滞在先の仙台で知ったという。

「仕事が終わった翌日に残って、ゴルフをしていましたが、咲希のことが気になって、自分のプレーどころではありませんでした(笑)。本当にすごいことをやってのけたと思います。長丁場もよく乗り切りました」

 馬場との出会いは2021年の春だった。鎌田氏と契約している男子プロゴルファーの内藤寛太郎に近い関係者が、馬場の父・哲也さんと接点があったことがきっかけだった。宮里をリスペクトする哲也さんは、鎌田氏がかつて宮里を指導していたことを知り、「ぜひ、うちの娘を見てほしい」と依頼。若手アスリートの育成に尽力している鎌田氏も快諾した。

「咲希が最初に来た時は高校入学の直前で、今よりも細い状態でした。まずは、その長い手足を生かせるようにと考え、しっかりとしたコア(体幹)を作ることにしました。体の動きは全てが連鎖しているのですが、最も大事なのはコアです。車で言うなら、エンジンの動力を伝えるドライブシャフトの部分です。そのために、股関節、肩甲骨を含めたコアを強化するトレーニングを重ねていきました」

 その上で昨秋から今春にかけて、下半身、臀部、ももの裏側を中心に筋力を強化したという。結果、臀部は6センチ、大腿部は4.5センチほど太くなり、腰の回転がスピードアップ。スイングの安定感も高まり、ドライバー飛距離が伸びたという。この点は、馬場自身も6月に「THE ANSWER」のインタビューで証言している。

「飛距離は小6で200ヤードぐらいでしたが、同世代ジュニアの中では、飛ぶ方ではありませんでした。ただ、中2になって体重を増やしたり、高校に入る少し前から本格的にトレーニングを始めて、飛距離がすごく伸びてきました」

普段は天真爛漫な17歳「制服を着る機会を増やしたいんでしょう」

 現在のドライバー平均飛距離は、世界トップレベルの約270ヤード。スイングコーチの指導により、長い手足でも振り遅れない浅いトップで効率良くミートする「技」を習得したことも要因だが、鎌田氏は「咲希の飛距離はこれからもっと伸びます」と言った。

「筋力は縦断面積がある方が強いとされ、咲希にも長い手足でもともとの強い筋力があります。そして、これを徐々に太くしていけば、さらに筋力はアップします。彼女が憧れる(東京五輪金メダリスト)ネリー・コルダも、細身に見えて実は太い筋力を持っていますし、そのレベルを目指します。そして、今はほとんど使っていない地面反力を生かすことができれば、咲希は男子プロ並みの飛距離を手にすることができるでしょう」

 哲也さんは「娘はもともとスタミナはあるタイプ」といい、馬場は長丁場の全米女子アマチュア選手権も見事に戦い抜いた。それに加え、頑丈でバネのある体を作るトレーニングは、鎌田氏が横浜市内で経営するTK LABOで行っている。馬場は東京・日野市の自宅から同所に通っているが、制服姿で来ることもあるという。

「登校することが少ない通信制の高校生なので、制服を着る機会を増やしたいんでしょうね。そういうかわいらしい面もあります。トレーニング中は1時間半のメニューをゆっくり、2時間半かけたりしますね。その辺は黙々と取り組んだ藍さんとは真逆のタイプで、途中でおしゃべりもするし、野菜スティックを食べたりもします。でも、それが彼女にとってのストレスのないマイペースなんです。ただ、1度行ったトレーニングのルーティンを覚えるなど、記憶力が抜群なことにも驚きました」

 素顔は天真爛漫で愛されキャラの17歳。注目され、ギャラリーが多い程、力を発揮できるメンタル面も含め、鎌田氏は馬場を「まさに神様から選ばれた存在」と表現した。

近い将来は「藍さんと同じく米ツアーで…」

「藍さんも最終18番でよくバーディーを取っていましたが、咲希もそうしたプレーを見せていくことでしょう。そして、近い将来には藍さんと同じく米女子ツアーでプレーすると思いますので、それまでには、フィジカルの完成度を6割程度には持っていければと思います」

 5月のブリヂストンレディスでは、表彰式でブリヂストン契約プロの宮里が大会ロ―アマの馬場にトロフィーを渡したが、会場でそのシーンを目にした鎌田氏は「感慨深いものがありました」と言った。時代をまたいでアスリートを指導してきた名トレーナー。今後も、馬場にとって欠かせない存在になりそうだ。

〇…馬場は16日午後、成田空港着の航空機で米国から帰国した。さすがに長旅と激戦の疲れがあったようで、哲也さんは一夜明けて、「咲希は昼まで寝ていました」と明かした。次戦は、フランスで開催される世界女子アマチュア選手権(24~27日)で、出発までは国内で調整し、鎌田氏の指導も受ける予定だ。9月以降は、国内女子ツアーに参戦予定。今季、既に2試合に出場している馬場は主催者推薦で残り6試合の出場が可能で、数あるオファーから選択することになる。また、同月29日開幕の国内メジャー・日本女子オープンには特別承認で出場する可能性が高まっている。

■鎌田貴(かまた・たかし)
 1962年4月15日、山形県新庄市生まれ。東海大学大学院体育学研究科修了(体育学修士)。プロアスリートのフィジカルトレーナーとして、幅広いジャンルのアスリートの体作りを担当。これまで、ホンダレーシングの専属トレーナーとして、ロードレース、モトクロス、トライアルで20人を超える多くのライダーをチャンピオンの座に導き、F1レーサーの角田裕毅も指導。女子ゴルフでは、宮里藍をプロ転向して間もない2004年から、米女子ツアーに参戦して3年目まで指導した。現在はモータースポーツ、ゴルファーに加え、野球、陸上選手らを指導。次世代を担う若手アスリートの育成にも力を入れている。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)