7月のDAZN月間表彰、楢崎氏が選ぶベストセーブは飯倉大樹 スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」との連動企画で、元日本代表GKとして活躍した楢﨑正剛氏は2022シーズン…

7月のDAZN月間表彰、楢崎氏が選ぶベストセーブは飯倉大樹

 スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」との連動企画で、元日本代表GKとして活躍した楢﨑正剛氏は2022シーズンのJ1リーグ、7月の「月間ベストセーブ」にヴィッセル神戸GK飯倉大樹のファインセーブを選出した。どんなシーンに楢﨑氏の目が光ったのか。(取材・文=藤井 雅彦)

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 低迷するチームを救ったのは、プロキャリア18年目のGKだった。

 元日本代表GK楢﨑正剛氏が選んだ7月のDAZN月間ベストセーブは、ヴィッセル神戸GK飯倉大樹のファインセーブだ。

 第18節終了時点で神戸は最下位に沈んでいた。するとクラブは今季3度目の監督交代を決断。吉田孝行監督が通算3度目となる指揮を執ることになり、その最初のゲームで飯倉にゴールマウスを託した。

 苦しいチームを取り巻く状況とGK交代という荒療治について楢﨑氏が見解を述べた。

「それまで飯倉選手はどちらかといえばセカンドGKという立ち位置だったと思います。それが監督交代のタイミングで久しぶりに出番が巡ってきました。一般論として、GKを代えるというのはチーム状況が芳しくないとき。本来ならば1人のGKがシーズンを通して守るのが理想ですが、チェンジせざるを得ないチーム状況だったのでしょう。でも個人的にはどんなシチュエーションでも第1GKの交代は好きではありません……」

 そして第19節、神戸はサガン鳥栖とのアウェイゲームに臨む。

 0-0で迎えた前半40分、鳥栖はMF藤田直之の右CKからDFジエゴが頭で合わせてゴールを狙う。このシュートを飯倉が左手一本でセーブ。さらにバーに直撃したボールをすかさず捕球し、チームの危機を救った。

 キッカーとシューターの意図が点で結ばれたヘディングシュートへの対応は簡単ではなかったはず。CKだからこその混戦状態も判断を難しくさせた一因で、楢﨑氏は飯倉の落ち着いた対応に目を細めた。

「ボールの高さと合わせる側の入り方次第ですが、CKの場合はターゲットが多いのでシューターを把握するのはとても難しい。しかもアウトスイングのボールで、最初はそのボールへのアプローチを考えて少し高いポジションを取っていたはず。そこから今度はシュートに備えるということは修正の幅が大きくなるわけです。ポジションを修正し、構えて、反応する。シンプルな動作の連続ですが、要求されるレベルはとても高いシーンだと思います」

 ジエゴのヘディングシュートは、いわゆる“ドンピシャ”のタイミングだった。勢いよく走り込んでのジャンピングヘッドは叩きつけるような軌道で、目線で追うのが難しい。一瞬の判断を迫られた飯倉のプレー判断を、このように分析する。

「ボールに対して手や体がゴールとの間で壁にならなければいけません。体を倒して手を出す速さは反射レベルの話で、ゴールの外に弾くのかキャッチするのかを決める余裕はなかったはず。手や体に当たって失点するケースもありがちですが、この場面では飯倉選手がしっかり手を出してブロックしているからこそゴールを割らせませんでした。こぼれ球への反応も速く、セカンドチャンスを与えなかったこともポイントです」

 先制点だけは絶対に与えない。そんな覚悟が見え隠れするファインセーブは、技術点の高さもさることながら、この試合へのモチベーションと準備段階が透けて見えたことを楢﨑氏は強調する。

「彼がどのような準備をして、どれだけの覚悟を持ってピッチに立ったのか。それがこのワンシーンから伝わってきましたし、試合を通して安定していたからこそ神戸が2-0の勝利を収めました。リーグ戦に出場できない状況でも、常にプロフェッショナルでいる大切さをあらためて示してくれたと思います。7月はほかの選手でも素晴らしいセーブがたくさんあったのですが、チームの勝利と意味合いという点でプラスαをもたらした飯倉選手のプレーを選出させてもらいました」

楢崎氏も認める36歳ベテランのGKとしてのポテンシャルとは

 飯倉は横浜F・マリノスでプロキャリアをスタートさせ、2019シーズンの途中に神戸へ完全移籍。気がつけば36歳と、すっかりベテランの域に達した。

 若かりし日に何度も対戦経験のある楢﨑氏。飯倉のプレースタイルやGKとしてのポテンシャルを改めて解説した。

「年齢を重ねても印象があまり変わらない選手です。同時期に榎本哲也(現・横浜FMアシスタントGKコーチ)もいて、どちらもサイズはあまり大きくありませんでしたが、足がしっかり動いて守備範囲が広く、フットワークで守れるGKという印象でした。もしかしたら大先輩である川口能活さんの系譜かもしれません。

 さらに左右両足でしっかりとボールを蹴れて、守備面でもアグレッシブなスタイルが特徴。現代型のタイプのGKだと思います。細かい技術も高く、第21節のジュビロ磐田戦ではタイミングを合わせにくいトゥキックを、スリッピーなピッチコンディションでもしっかりキャッチしていました。経験と実力を兼ね備えているからこそ苦しい状況でポジションを託されたのだと思います」

 飯倉の活躍もあり、ようやく今季3勝目を手にした神戸。するとこの試合から3連勝を達成し、チーム状態は右肩上がりに。7月を終えていまだ降格圏内と苦しい状況に変わりはないが、一筋の光が差し込んだと言えるだろう。

 所属選手の顔ぶれや前評判を考えると、不本意なシーズンを送っているかもしれない。神戸が終盤戦に反攻、そして逆襲するために重要な要素とは。

「監督交代というショック療法がチームに良い影響を与えるという事例は過去にもあったと思います。本当の戦いはこれからでしょう。コンスタントに勝ち点を積み上げていくために、守備の安定は欠かせません。飯倉選手のような存在がいるのはチームにとっても監督にとっても心強いはず。前線には日本代表クラスやビッグネームの選手もいますが、だからこそ彼が果たすべき役割は小さくないと思います」

 円熟味を増した飯倉が、Jリーグ屈指のメガクラブを下支えしていく。(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)