馬場は全米女子アマで日本勢37年ぶりV、解説した井上透コーチが分析 女子ゴルフの全米女子アマチュア選手権最終日が14日(日本時間15日)、米ワシントン州のチェンバースベイGC(6541ヤード、パー73)で行われた。17歳の馬場咲希(日本ウェ…

馬場は全米女子アマで日本勢37年ぶりV、解説した井上透コーチが分析

 女子ゴルフの全米女子アマチュア選手権最終日が14日(日本時間15日)、米ワシントン州のチェンバースベイGC(6541ヤード、パー73)で行われた。17歳の馬場咲希(日本ウェルネス高2年)は、マッチプレー決勝で21歳のモネ・チュン(カナダ)を11アンド9で破って優勝。122回目の歴史ある大会で、日本勢では1985年に服部道子が同じ高2で優勝を飾って以来の快挙を成し遂げた。終了後、ゴルフネットワークで同大会を解説したプロコーチの井上透氏は「THE ANSWER」の取材に「今大会、誰が相手でも彼女に勝てなかった」と馬場の強さと能力の高さを証言した。

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――馬場選手、とても強い勝ち方でした。大会を通してみた印象は。

「終始、テーショットの精度、距離、セカンドショットの精度、ボールの高さ、アプローチ、パットに至るまで全ての分野で完成度が高く、相手を圧倒していました。私も全米女子アマを解説で長く見てきていますが、今までで最も支配的な勝ち方をしてきた選手と言えます。マッチプレーだと相手のコンディションによって結果が左右されますが、今大会は誰と対戦しても勝ったと思います。運ではなく、実力で勝ち切っていましたから」

――馬場選手は、背が高く、飛距離が出ることで知られていますが、総合的な良さとは。

「スイングはトップがコンパクトで、バックスイングでもクラブフェースが開かないようにしています。手足が長いので、手首を使わずにクラブが振り遅れないようにした工夫を感じます。その上で十分な飛距離があるからこそですが、持ち球のフェードでコントロールして打てるところやセカンドショットでボールの高さを出せるところも魅力です。今大会のグリーンはかなり複雑な形状で、ボールの落とし場所も狭かったのですが、馬場さんは正確なキャリーでそのポイントを攻めるシーンを多く見せていました。つまり、横と縦のコントロール性だけでなく、高さの精度もある。そこが今までの日本人には少ない強みであり、海外で活躍できる資質のある選手と言えます」

――パッティングに関しては。

「マッチプレーに入ってからは、ミドルパットも決まり始めて、バーディーを量産していました。それは、他の選手と比べても、馬場さんが圧倒的にピンの近くにボールを寄せていたこともあります。このコースはとても難しいので、あまり攻めていこうとするとボギーが出てしまうという特徴もあります。なのに、馬場選手はポコポコとバーディーを獲っていました。他の選手は安全な場所にボールを置くマネジメントを考えていたはずが、そうさせてもらえなかった。つまり、馬場さんが常に精神的なマウントを取っていた状況でした」

飛んで高さがあるショット、小技も巧み「隙がない」

――馬場選手は今年に入って急成長しています。

「彼女のショットが飛ぶことは知っていましたが、(4月の)全米女子オープン日本予選会を通過したあたりから、すごさを感じてきました。本大会でも、3日目を終えて2オーバーだったことに驚かされました。強烈にグリーンが硬くて速く、日本ではあり得ないセッティングでしたので」

――飛距離だけでなく、小技にも自信を持っています。

「確かにうまさを感じます。今回もパターでも打てるエッジからのアプローチでウェッジを選択し、2度チップインを決めています。これはアプローチが得意だという証しです。そういう意味でも隙がないですね。苦手分野がないんじゃないでしょうか」

――この快挙も踏まえ、馬場選手がどんな選手になっていくとイメージされますか。

「来年は多くのメジャー大会に出場できますし、オーガスタ女子アマからの招待状が届くでしょうし、今後は国内ツアー出場の機会も増えると思います。その中で最も勝つ可能性を感じるのは、日本女子オープンです。厳しいセッティングになるほど、彼女の飛んで曲がらず、高さがあって硬いグリーンで止められるショット、小技の巧みさが効いてきますし、他の選手との質的な差が出やすくなります。(2016年に)アマチュアだった畑岡奈紗選手が日本女子オープンを制した時のように、馬場さんが優位に立つ可能性は大いにあります」

――馬場選手は「注目される程、力が出る」と話しています。メンタルの強さも感じますか。

「実際、今日の試合でもマッチが進んで注目を浴びれば浴びる程、パフォーマンスが上がっていました。途中、わずかなミスがあっても切り替えが早いことも印象的でした。そういう意味でも、プロ向きな選手です」

――馬場選手は将来、国内外でプロとして活躍する可能性を抱かせますが、今後、日本女子ゴルフ界はどう変化していくでしょうか。

「今回、馬場さんが世界一の女子アマになったことで、彼女を目標にする選手も出てくることでしょう。実際、日本のジュニアには馬場さんに対抗できる選手がいますし、世界女子アマランキング50位以内で大会出場資格がありながら、今回は出場を見合わせた選手が7人います。ただ、こうして馬場さんが勝ったことで、『来年は私もチャレンジしたい』となるのは自然なことです。そうすれば、彼女たちが上位に進出する可能性は多いにあります」

■井上透(いのうえ・とおる)
 1973年4月3日、横浜市生まれ。法政二高野球部で甲子園出場を目指していたが、故障をきかっけに退部。その後、ゴルフを始め、法大2年修了後に渡米。21歳でプロゴルファーとなり、現地でゴルフ理論を学ぶ。97年からは国内初のプロコーチとして男子ツアーに帯同。佐藤信人、中嶋常幸プロ、加瀬秀樹、佐藤信人らをコーチングした。現在も成田美寿々、穴井詩、堀奈津佳、識西諭里らプロやアマ選手を指導している。11年には、早大大学院で「韓国におけるプロゴルファーの強化・育成に関する研究」の論文を発表し、最優秀論文賞を獲得。16年には、東大ゴルフ部の監督に就任した。データ分析の第一人者としても知られる。(THE ANSWER編集部)