昨季チームを救った冨安 冨安健洋のプレミアリーグにおけるデビューシーズンは、見事なものだった。アーセナル加入直後にライト…

昨季チームを救った冨安

 冨安健洋のプレミアリーグにおけるデビューシーズンは、見事なものだった。アーセナル加入直後にライトバックのレギュラーに抜擢され、昨年9月にはチームの月間最優秀選手となり、中盤戦まで主力を担った。



プレシーズンのトレーニングに臨む冨安健洋 photo by Getty Images

 その後にふくらはぎを負傷して3カ月の離脱を強いられ、春に復帰するも、万全の状態には見えなかった。実際、第37節のニューカッスル戦では、強行出場したようにも感じられ、前半のうちに交代を余儀なくされてしまった。

 代役のセドリック・ソアレス(ポルトガル)は相手の突破を次々に許し、それまでは冨安が踏ん張っていた右サイドが崩壊。そこから侵入されて2失点を喫し、結果的にその敗北によって、アーセナルはチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逃してしまった。皮肉ながら、冨安の重要性があらためて証明された一戦だったと言える。

 ミケル・アルテタ監督も、冨安に救われたところがある。昨季開幕戦から3連敗を喫した時、このスペイン人指揮官の解任も近いと思われたが、第4節から冨安が加入して、そこからリーグ戦で8試合にわたって敗北を免れたのだ。

 GKアーロン・ラムズデール(イングランド)、センターバック(CB)ガブリエウ・マガリャンイス(ブラジル)と共に、冨安もチームの復調の立役者のひとりだった。

 指揮官もボローニャ(セリエA)から加わった日本代表CBについて、当初から賛辞を惜しまなかった。

「パフォーマンスはもちろん、彼の適応ぶりがすばらしい。チームメイトは早くも彼を認めている」

 また別の機会には、冨安のその順応性が新たなオプションをもたらしてくれると称えた。

「彼は私たちに、多くの解決法をもたらしてくれる。両足を遜色なく使えるだけでなく、最終ラインならどこにでも対応できるからだ。これまでによい指導を受けてきたことの証だ。彼にとって、右足と左足は同じだ」

「完璧に英語を理解している」

 今夏、アーセナルは移籍市場で新たなCBを物色しているが──追っていたアヤックスのリサンドロ・マルティネス(アルゼンチン)は宿敵マンチェスター・ユナイテッドへ移籍──、ベン・ホワイト(イングランド)とガブリエウを欠くことになっても、ロブ・ホールディング(イングランド)と冨安、そして充実したローン期間を終えたウィリアム・サリバ(フランス)がいるため、ターゲットを取り逃がしても、さほど痛くはないはずだ。

 加えて今季は、エクトル・ベジェリン(スペイン)がベティス(ラ・リーガ)での1年の期限付き移籍を終えて帰還しているので、冨安を中央に回しても、右サイドに穴は空かないだろう。さらに、マンチェスター・シティからオレクサンドル・ジンチェンコが加入。このウクライナ代表主将は、レフトバックと中盤にさらなるクオリティをもたらしてくれるはずだ。

 冨安はすでにチームメイトやファンに"トミー"の愛称──英国人によくいる名前だ──で親しまれている。この23歳の日本代表のことを、隣でプレーする機会の多いホワイトは、次のように評価する。

「トミーはシンプルなことをワールドクラスのレベルでこなす。常に集中を切らさず、ケアレスミスは絶対にしない。それに加入当初から、完璧に英語を理解していたし、僕とも英語で会話している」

 冨安のアーセナルでの2シーズン目となる今季、チームは攻撃面の補強にも勤しみ、シティからガブリエウ・ジェズス(ブラジル)、ポルト(プリメイラ・リーガ)からファビオ・ビエイラ(ポルトガル)と、前線と中盤の即戦力を獲得した。

 昨季、プレミアリーグで4位に滑り込んだトッテナムと5位のアーセナルの間には、8ゴールの差があった。当然、ジェズスには決定力、ビエイラ──昨季のポルトで計16アシストを記録──には創造性が期待されている。獲得候補に挙がっていたラフィーニャ(ブラジル)は、リーズからバルセロナ(ラ・リーガ)へ移籍したため、この2人には1年目から真価を発揮してもらう必要がある。さもなければ、リーグ優勝はおろか、またしてもCL出場権を逃すことにもなりかねない。

シーズンを通しての活躍に期待

 生え抜きのブカヨ・サカやエミール・スミス=ロウ(以上イングランド)をはじめ、マルティン・ウーデゴール(ノルウェー)、ガブリエウ・マルティネッリ(ブラジル)など、アーセナルには若くてエキサイティングなタレントが揃っている。

 けれども、彼らに昨季と同等以上の数字(昨季リーグでサカは11得点7アシスト、スミス=ロウは10得点2アシスト、ウーデゴールは7得点4アシスト、マルティネッリは6得点6アシスト)を求めても、若手には浮き沈みが起きやすい。そう考えると、やはり何よりももっとも重視すべきは、守備の安定と言えるか。その意味でも、冨安にかかる期待は大きい。

 アルテタ監督には戦術的な柔軟性があるものの、おそらく彼は現在のスカッドに適した形を見出したはずだ──4-2-3-1か、4-1-4-1だ。マイボールを最後尾からつなぎ、攻撃は主に右サイドを経由する。ホワイトから冨安、ウーデゴール、サカと連なっていく得意のパターンだ。プレシーズンでも、その練度を高めていることだろう。

 シティ、リバプール、チェルシーの3強はもちろん、アントニオ・コンテ監督が初のフルシーズンに臨むトッテナム、智将エリック・テン・ハフを迎えたユナイテッドと、ライバルたちも実に強力だ。

 若手の多いアーセナルの現実的な目標は、今季もCL出場権が手に入るリーグ4位となるだろう。ただし昨季に証明されたように、それさえも簡単ではない。そのためにも、守備の要のひとりに成長した冨安がシーズンを通して健康体を保つことが重要になる。