ケンドーコバヤシ令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(5)前編(第4回:蝶野正洋に「ヒールの本性」を感じた不穏試合。武藤敬司と組んだIWGPタッグ戦で掟破りのパンチ攻撃>>) 子供の頃からあらゆる団体の試合を見続け、各メディアで"プロレス愛" …

ケンドーコバヤシ
令和に語り継ぎたいプロレス名勝負(5)前編

(第4回:蝶野正洋に「ヒールの本性」を感じた不穏試合。武藤敬司と組んだIWGPタッグ戦で掟破りのパンチ攻撃>>)

 子供の頃からあらゆる団体の試合を見続け、各メディアで"プロレス愛" を披露してきたケンドーコバヤシさんが、独自の目線で名勝負を語り尽くす連載。第5回は、2代目タイガーマスクが「勝負の一戦」で見せたサソリ固め封じの顛末について語る。



長州力(上)のサソリ固めを返そうとする2代目タイガーマスク(下)

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――ケンコバさん、今回語る名勝負はどうしますか?

「昭和のプロレスファンなら誰もが覚えていると思うんですが、意外に埋もれているというか、語られていない試合にしましょうか」

――その試合とは!?

「長州力vs2代目タイガーマスクです」

――1986年3月13日、日本武道館で行なわれた一戦ですね。

「そうです。この試合は当時、全日本プロレスに参戦していた長州さん率いるジャパンプロレスと、全日本プロレスとの対抗戦で実現したんですが......まずは、試合形式に対して『なんでや?』と思いましたね」

――どこが疑問だったんですか?

「対抗戦なのに6対6という形式だったので、俺も子ども心に『え、試合数が偶数?決着がつかなかったらどうするんや?』と不思議で。今では考えられないような試合形式ですよね」

――この対抗戦は7対7の予定だったのが、ジャイアント馬場さんと対戦するはずだったジャパンプロレスの寺西勇さんが、試合前に右ろっ骨を骨折して欠場したんでしたね。

「寺西さんの欠場が決まった時に、代役を立てて7対7でやるのかと思いきや、その試合をナシにしただけ。軽い衝撃を覚えました。試合はテレビで見ましたが、『3勝3敗になったら、全日本とジャパン、どっちの勝利なんや......』と混乱してしまって。そうしたら対抗戦が始まる前に、リングアナウンサーの仲田龍さんから『(3勝3敗になったら)そのまま引き分けとなります』という説明があったんです(笑)」

完全公開された「秘密特訓」

――ちなみに対抗戦の6試合は、サムソン冬木vs栗栖正伸、石川敬士vs小林邦昭、マイティ井上vsキラー・カーン、ジャンボ鶴田vsアニマル浜口、長州力vs2代目タイガーマスク、メインイベントが天龍源一郎vs谷津嘉章でしたね。

「いきなり1試合目に冬木vs栗栖という、まったくキャリアが違う選手同士の試合を組んだことも、今振り返ると不思議ですね。それで結果は、2勝2敗2分。思わず『ウソやろ!』と叫びたくなるくらいキッチリ割れた(笑)。ただ、そんななかで刺激的だったカードが、長州力vs2代目タイガーだったんです」

――2代目タイガーのデビューは、1984年8月26日に田園コロシアムで行なわれたラ・フィエラ戦。マスクをかぶったのは、メキシコに遠征中の三沢光晴さんでした。

「デビューからしばらくはジュニアでやっていたんですが、対抗戦が行なわれた頃はヘビー級に転向した時期で、ザ・グレート・カブキさんとの"同門マッチ"などもやってましたね。解説として試合を見ていた馬場さんも『ヘビー級でも可能性が見えますね』と評価を高めつつありました。そこで組まれた、ジャパンプロレスの大将である長州さんとの試合。ヘビー級としての真価が問われる試合でもあったわけです」

――2代目タイガーマスクにとって重要な試合でしたね。覚えているシーンなどはありますか?

「一番印象に残っているのは、試合そのものではないんです。どの新聞、専門誌の記事だったかは覚えてないんですけど、『タイガー、長州戦に備えて秘密特訓。ジャイアント馬場が直接指導』みたいな見出しの記事があったんですよ」

――「秘密」の特訓なのに、それが記事になっていたんですか?

「そうなんですよ(笑)。その記事の内容は『とうとう見つけたサソリ固め封じ』といった感じで、馬場さんが対策を伝授する様子が伝えられていました。写真まで載っていて、馬場さんが2代目タイガーに対して、サソリ固めをかけようとしている場面が写っていたんです」

サソリ固め封じは成功した?

――馬場さんが直々に指導することは珍しいですね。

「そう。だから俺も鮮明に覚えているんです。そのサソリ固め封じは、いい返し方でしたよ。文章だとイメージが伝わりにくいかもしれませんが、サソリ固めに入られたら両腕でプッシュアップをして、頭を体の内側に入れてクルンと回転するというもの。この秘密なはずの一連の動きが、ご丁寧に連続写真で載っていました(笑)」

――そのサソリ固め封じは、試合でも披露されたんですか?

「確か、2度トライしていますね。1回目はうまく返したんですが......2回目はプッシュアップして頭を内側に入れようとした瞬間に、長州さんが腰をグイッと落として押し潰されちゃったんです。その時、2代目タイガーの首が変なふうに曲がってしまって。そして最後はリキラリアットに散りました」

――サソリ固め封じを、逆に封じられてしまったんですね。

「俺は『せっかくサソリ固めの攻略法を見つけたのに、残念やな』と思って、試合後に馬場さんが指導した記事を見返してみたんです。そしたら気がついたんですよ。あのサソリ固め封じは、馬場さん相手だからこそ有効であるということに。

 身長2m9cmの馬場さんがサソリ固めに入ると、腰の位置が高い。だから頭を内側に入れやすいんです。だけど、長州さんは馬場さんより身長が20cmも低いから、当然腰の位置も低くて決めにくい......。そうして攻略法が実らなかった2代目タイガーを見て、『時間をかけて培った努力も、あっけなく崩れ去ることがあるんやな』と、人生の厳しさを教えられました」

(後編:長州力は2代目タイガーにキレていた?若き三沢光晴が見せた天才の片鱗>>)