高木豊の前半戦総括と後半戦展望セ・リーグ編 セ・リーグはオールスター前の時点(以下、数字は7月24日時点)で、ヤクルトが…
高木豊の前半戦総括と後半戦展望
セ・リーグ編
セ・リーグはオールスター前の時点(以下、数字は7月24日時点)で、ヤクルトが同率2位の阪神と広島に11ゲーム差をつけて首位を独走。大差をつけられている他のチームが、後半戦でいかに巻き返すかに注目が集まる。
かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、セ・リーグで首位を独走するヤクルト、苦しむ巨人と中日の現状、後半の"台風の目"となりそうなチームなどについて聞いた。

前半戦7勝のDeNA・大貫(左)と、リーグトップの11勝を挙げている阪神・青柳
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――まずは首位のヤクルトから。独走できた主な要因は何だと思いますか?
高木豊(以下:高木) 開幕戦で阪神をひっくり返した(最大7点のリードを許すも逆転して10-8で勝利)ことが大きかったと思います。そこから、塩見泰隆、長岡秀樹のスタメン固定、田口麗斗の配置転換、捕手の競争、(ドミンゴ・)サンタナが離脱した後の山崎晃大朗の活躍......すべてうまくいった印象です。
――投手陣の印象はいかがでしょうか?
高木 それぞれの投手に"任せる回"が決まっていますよね。そうした中で、清水昇が負傷離脱しても今野龍太がその役目を果たすなど、調子が悪かったらこの投手を出す、打者の左右でこう考える、といったことも明確です。
ただ、田口だけは投げる回を決めず、いつでも行けるようにスタンバイしています。登板するのは決まって大ピンチの時ですよね。それがハマったのは大きいですし、そういった起用をしているチームはそんなにないと思うんです。
――首位を独走する中で、後半戦に向けて課題を挙げるとすれば?
高木 コロナ禍での主力選手の離脱によって、若手が活躍するといった思わぬ"副産物"もありましたが、村上宗隆など離脱せずにプレーしていた選手たちの疲れが気になります。特に村上は、「自分がいない選手たちの分まで」と考える気骨のある選手ですから、心身の疲れが出なければいいのですが。
投手陣では、開幕から好調だったクローザーの(スコット・)マクガフが打たれるケースが目立ってきています。あと、コロナで離脱した選手が戻ってきた後は、再びチームのバランスを整える時間が必要になるはず。強いて課題を挙げるならそういったことでしょうか。
阪神は10試合くらいが勝負
――次に阪神。開幕からつまずき、借金が最大で「16」まで膨れ上がりましたが、勝率5割まで巻き返してきました。
高木 ヤクルトとは逆の形で、開幕戦の大逆転負けの影響が出ましたね。「矢野燿大監督が開幕前に『辞める』と発表するからモチベーションが下がった」と言われるなど、一気にどん底まで落ちた。でも、もともと投手陣はいいですし、力のあるチームなのでこのままで終わらないとは思っていました。
後半戦は最初の10試合くらいがすごく大事です。監督が辞めることが決まっている中で、完全にBクラスに沈んで目標がなくなると、モチベーションが上がってこなくなりますから。青柳晃洋という投手陣の柱もいますし、簡単には落ちないと思いますけどね。
――打線はどうでしょうか?
高木 選手は揃っていますね。中野拓夢と近本光司がいいですし、1番や2番で起用されている島田海吏も含めて足が使えます。そして4番の佐藤輝明、5番の大山悠輔を迎えられる。外国人助っ人は機能していませんが、足も使えて長打もある打線はバランスがすごくいいです。前半戦であれだけ巻き返してきたわけですから、後半戦でもう一度その勢いをつけられたら、リーグを大いに盛り上げてくれるでしょう。
――次に広島ですが、前半戦の戦いぶりはいかがでしたか?
高木 自分も含めて解説者たちの下馬評はあまりよくなかったですが、すごくよくやっていました。まずは先発投手陣の充実。大瀬良大地、森下暢仁、九里亜蓮、床田寛樹、(ドリュー・)アンダーソンらが試合を崩さなかったですね。
攻撃面では確実性を重視していました。犠打がリーグトップの88個であることからもわかるように、『得点圏に走者を進めて、あとは任せた』という戦い方でした。打線もつながりを見せていましたし、本当に善戦したと思います。
――秋山翔吾選手の加入も大きい?
高木 一気にチーム全体のモチベーションが上がったというか、野手は競争心が高まってチームが活性化した印象があります。何よりも、秋山の獲得に動いたことで「上位に行きたい、優勝したい」というチームの本気度が選手に伝わったんじゃないかと。投手陣も「より多く点を取ってくれるんじゃないか」と期待感が高まりますし、いろいろな部分に好影響を与えたと思います。
――後半戦でさらに調子を上げていくために必要なことは?
高木 中継ぎがちょっと手薄で不安が残ります。例えば、森浦大輔はボールが先行しがち。変化球が2球続けて外れたら、次に真っ直ぐというパターンができあがってしまっているので、ちょっと危険だなと。
(ニク・)ターリーという左腕の外国人助っ人をもっとうまく使ってもいいと思うんですけどね。球質はいいですし、彼が中継ぎの中心になってくると安定するんじゃないかと思っています。
DeNAは「台風の目」
――続いてDeNAは、昨年に続いて(タイラー・)オースティンと(ネフタリ・)ソトが開幕に間に合わず、コロナで離脱者もあったりとなかなか戦力が揃いませんでした。
高木 いまだ二軍調整中のオースティンは、右肘の手術で開幕後の4月にアメリカに帰国しましたが、「もっと早くやれなかったの?」って感じですよね。大型契約(3年総額8億5000万)を結んだ後にそういうことになると、白けてしまう。
ソトは4月中旬に復帰してから一生懸命やっていますが、この2人が開幕にいなかったのはやはり痛かった。加えて、1番に固定しようとしていただろう桑原将志の状態も悪く、レギュラーが3、4人くらい抜けているような状態でのスタートでしたから、大輔(三浦大輔監督)もやりくりが大変だったと思いますよ。
ただ、ここにきてやっと打線がつながるようになりましたし、さらにオースティンが一軍に戻ってきら、すごく嫌な打線になる。後半戦は期待しています。
――チーム防御率はリーグ4位の3.57ですが、開幕当初から徐々に改善し、7月の月間防御率は2.87と安定してきました。
高木 今は大貫晋一が中心で、左では今永昇太、濵口遥大、右では(フェルナンド・)ロメロもよくなってきている。先発陣が試合を作ってくれるので、つながりが出てきた打線とうまくハマれば、勝ちを拾っていけると思います。中継ぎ陣も、(エドウィン・)エスコバー、伊勢大夢、山﨑康晃、そこに差し込む田中健二朗などもいますし、充実してきましたよね。後半戦は"台風の目"になると思います。
――前半戦を5位で終えた巨人は、12球団最速で20勝に到達するなど開幕ダッシュに成功したものの失速。現在は借金5と苦しい状況です。
高木 先発投手陣は、戸郷翔征、菅野智之、(C.C.)メルセデスに加え、山﨑伊織、赤星優志、直江大輔、堀田賢慎といった投手を起用していました。半分が経験豊富な投手で、もう半分が若手という構成で最初は回しましたよね。
序盤に今年初勝利を挙げる若手が何人か出てチームを勢いづけたことは確かですが、その勢いが続かないのは誰もがわかること。実績や経験がない選手が、1年間活躍を続けられることは稀ですから。
山﨑や堀田などはトミー・ジョン手術も受けていますから球数を制限しますし、そこで中継ぎ陣に負担がかかった。その疲労が一気に出てきた印象です。クローザーの大勢がいなかったらと思うとゾッとしますね。
巨人の大失速の原因
――開幕前に高木さんにお話を伺った時も、「巨人は先発投手陣が弱点」と言われていましたね。
高木 そうなんです。エースの菅野は"らしさ"を見せることもあれば、その面影がまったくないようなピッチングをする時もある。メルセデスは不安定ですし、赤星は中継ぎに回った。ある程度安定しているのは戸郷ぐらいですよ。期待していただろう山口俊もまったく上がってこないですし、これでは戦えません。
――打線の状態はどう見ていますか?
高木 基本的にホームランで勝つチームなので、それが出ないと苦しい試合になります。苦しい中で1点をもぎ取れる器用さを持った打者はそんなにいない。
あと、リーグワーストのエラー数(失策数はリーグワーストの61)からもわかるように守備がよくない。(アダム・)ウォーカーは打撃に比重をおくとしても春先は特にひどかったですし、バッテリーのミス、内野のエラーも多いです。
今までの巨人にはホームランで派手に勝つイメージがあったと思いますが、守備もよかったんですよね。ミスがあっても投手陣がカバーしてくれていたのが、今はできないことが多い。それが引き金でゲームを壊してしまうことも目立つので、非常に苦しいと思います。
――どこにテコ入れするべきだと思いますか?
高木 ホームランを量産すること、一気に打率を上げることは難しいですから、やはり投手を含めたディフェンス面を立て直さないと。クローザーの大勢が頑張っているうちに、先発と中継ぎを整備したいですよね。これから夏場で疲れが溜まってくる時期ですからなおさらです。
――最後に、借金12で最下位に沈んでいる中日についてお願いします。
高木 ケガ人が多すぎます。石川昂弥や高橋周平、阿部寿樹もコロナで離脱。春先は(ダヤン・)ビシエドがまったくダメで、京田陽太が2度にわたってファームに落ちるなどいいところがなかったですね。コーチ陣でも、中村紀洋が一軍打撃コーチから外されたりと、チームが落ち着いていない印象です。
――ルーク・ワカマツ選手や、トレードでオリックスから移籍してきた後藤駿太選手などを一軍に昇格後にすぐにスタメンで起用するなど、選手のやりくりに苦労しているように見えます。
高木 今はチームの形を成していないというか......根尾昂が野手から投手に転向したことがその一例ですが、いろいろな部分でチームの形作りに追われていますよね。ただ、"1度壊す"という感じではなく、「建て替えではなくリフォームしている」という感じですね。
中日、浮上のカギは?
――就任1年目の立浪和義監督の采配や起用法など、ここまでどう見ていますか?
高木 オーソドックスだと思います。ただ、それをやろうにも選手がいない。レギュラーと言えるのは、ビシエドと大島洋平、木下拓哉の3人くらいです。岡林勇希は出続けていますが、まだ1年間戦いきれた経験がないですから。
だから、まずはレギュラーを作らなきゃいけないんですけどね。外そうと思っていた阿部が高橋のケガによって使わざるを得なくなって、使ってみたらよく打つのでクリーンナップを打たせたりと、まだチーム全体を把握できてないんだと思います。
――本来は主力として期待される選手のひとり、京田選手はどうですか?
高木 京田に何を求めているのか、ということを明確にしてあげたほうがいいと思います。具体的に「どのくらいの数字を求めているのか」を伝えたほうが、それに向かってやりやすくなるんじゃないかと。
――若手の土田龍空選手がショートに起用されていますが、どう見ていますか?
高木 けっこうセンスがいいですし、守備はいいものを持っていますね。現時点では京田のほうがいいと思いますが、将来的に面白い選手です。
ヤクルトの場合は、コロナで主力が大量に離脱した時に、若手の武岡龍世などが出てくるなど若手も多いんですけど、中日はそういう選手が出てこない。長年のドラフト失敗のツケが回ってきた、という見方もできますね。
――チーム防御率はリーグ4位の3.57。投手陣の印象はどうですか?
高木 バンテリンドームではいいんですが、他の球場だと1点近く悪化する。それでも投手陣は悪くはないと思うんですけど、ある程度打てないと投手たちも疲れてしまいますよ。
――ヤクルトが独走状態ですが、対抗馬を挙げるとすれば?
高木 阪神とDeNAですね。先ほども話したように、阪神は後半戦最初の10試合がキモ。投打のメンバーが揃いつつあるDeNAも、どれぐらい巻き返していけるかに注目です。
(パ・リーグ編:「最も優勝の可能性を感じる」チームは?>>)