高木豊の前半戦総括と後半戦展望パ・リーグ編 前半戦を終えた時点(以下、数字は7月24日時点)で、パ・リーグは首位のソフト…
高木豊の前半戦総括と後半戦展望
パ・リーグ編
前半戦を終えた時点(以下、数字は7月24日時点)で、パ・リーグは首位のソフトバンクから5位のオリックスまでが2.5ゲーム差と、史上稀に見る大混戦。後半戦も目が離せない状況が続きそうだが、高木豊氏に各球団のここまでの戦いと、優勝争いをリードしそうなチームについて語ってもらった。

パ・リーグでホームラン数トップの西武・山川(左)と盗塁数トップのロッテ・髙部
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――まずは首位のソフトバンクですが、前半戦の印象は?
高木豊(以下:高木) 相変わらずケガ人が多いですね。その中でやりくりしながら首位を守っていますが、今年は特に、負ける試合に関してはあまり"追いかけない"。千賀滉大らでキッチリ勝つ試合もあれば、楽天に17点取られた試合もあったように派手に負ける試合もある。3連続日本一になった時のような強さは感じないですけど、いつの間にか首位にいるという感じです。
パ・リーグは「投高・打低」の傾向がより強い中でソフトバンクはチーム打率がリーグトップ(.255)ではありますが......そこまで得点にはつながっていない印象もあります。
――先発投手陣の印象はどうですか?
高木 いい時のソフトバンクと比べると盤石ではないですね。安定しているのは千賀ぐらいで、春先から好調だった東浜巨もここ最近は勝てていませんし、石川柊太もまだ3勝。昨年に育成選手から支配下登録されて、今年は6勝と頑張っている大関友久も打ち込まれるようになりました。
ただ、中継ぎ陣には相変わらず力があるので、先発投手がそこそこ試合を作ってくれたらそこからは崩れないという試合展開が多いです。勝ちを"拾っている"という感じでしょうか。
―― 一方で、ルーキーの野村勇選手や4年目の野村大樹選手、大砲候補のリチャード選手など若手の起用も目立ちます。
高木 特に野村勇はいいですよね。前半戦でホームランを8本打ったパンチ力と、盗塁も6個記録したスピードを兼ね備えた選手だと思います。ケガで離脱してしまいましたが、1番を任されていた三森大貴もよくやっていました。
経験がある選手では今宮健太の状態がいいですが、柳田悠岐は"悪いなりに頑張っている"という感じですね。やはり柳田が打たないことには得点力は上がらない。出塁率.341も柳田にしては低いですし、いかに復調できるかが後半戦の大きなポイントになるでしょう。ランナーを返す打者としては他に、(アルフレド・)デスパイネと(ジュリスベル・)グラシアルも、もう少し仕事をしないといけませんね。
西武は中継ぎ陣が向上
――次は、高木さんが開幕前に優勝を予想していた西武。その予想の理由として投手陣の安定と、山川穂高選手の活躍を示唆していましたが、その通りになりましたね。
高木 ルーキーの隅田知一郎(1勝7敗)、佐藤隼輔(3勝3敗)がもう少し勝ち星を伸ばせると思っていたんですが、相手チームのローテーションや巡り合わせなどを考えるとちょっと苦しかったなと。ただ、2人とも試合はある程度作っていましたし、後半戦のキーマンになる可能性はあります。
山川は復活するとは思っていましたが、予想以上でしたね。源田壮亮が右足骨挫傷、森友哉が右手骨折とソフトバンクと同じようにケガ人が多く、1番が固定できないままなのは厳しいですが、山川がドシッと4番に座ってくれているので打線を組みやすくなっていると思います。
――チーム防御率2.51はリーグトップ。ここ数年は打線が目立つチームでしたが、今年は投手陣が頑張っています。
高木 特に中継ぎがよくなりましたね。平良海馬や増田達至を筆頭に、本田圭佑、水上由伸、森脇亮介、佐々木健らが頑張っていて安定感があります。疲れもあってか、平良が調子を崩して3試合連続で失点することもありましたけど、増田が戻ってくるでしょうし、大きく崩れることは考えにくい。
少し気になるのは、一度首位に立った時に中継ぎが崩れたこと。今後の優勝争いによる精神的な負担に耐えていけるかが課題です。
――中継ぎがいいだけに、先発投手陣の出来が勝敗のカギを握りそうですね。
高木 そうですね。髙橋光成、與座海人、(ディートリック・)エンスらはもちろん、後半戦は7月に戻ってきた今井達也に期待したいです。復帰後の3試合はまずまずの内容でしたし、そこに隅田と佐藤が絡んでいければ安定感が増すと思います。
――次に楽天。4月から5月にかけて球団記録の11連勝をマークし、貯金は一時「18」まで膨らみましたが、その後に失速。現在は貯金「2」のリーグ3位です。
高木 田中将大になかなか白星がつかず、則本昴大と岸孝之もここ最近は勝てなくなり、早川隆久がコンディション不良と、計算していた投手たちが思うように白星を重ねられていませんね。あとは、チーム構成のバランスが悪い。左打者が多すぎますよ。
7月17日のオリックス戦では、相手の左腕・田嶋大樹と炭谷銀仁朗の相性がいいということで、炭谷を7番DHで先発起用しました。ただ、使うのであれば、腹をくくってクリーンナップの5番あたりを打たせるなどしないと点が入りません。炭谷はその試合で3安打だったものの、8番に入っていた左の辰己涼介がチャンスを活かせませんでした。
楽天の選手育成の意識に違和感
――開幕当初にチームを牽引していた西川遥輝選手のスランプが長引いているのも痛いですね。5月以降は、3カ月連続で打率1割台です。
高木 西川の調子がそんなに落ちると思っていませんでしたし、楽天が失速した要因のひとつであることは間違いありません。7月にグッと状態を上げてきた島内宏明は、逆に春先が悪かった。(クリス・)ギッテンスと(ホセ・)マルモレホスの両助っ人外国人も打線にいませんし、鈴木大地も起用されない試合が増えるなど打線の形が落ち着きませんね。
他にも、当初はショートで予定していた山﨑剛がダメで小深田大翔に代えたり、代打で使っていた銀次を今はファーストで使っていたり。行き当たりばったりの印象です。首脳陣に「この選手はこのポジションで育てる」という意識を感じません。
――7月は6勝11敗1分け。なかなかチームが波に乗り切れませんが、巻き返しのポイントは?
高木 まず、チームの雰囲気があまりよくない。例えば、ヤクルトの塩見泰隆は「家族みたいな雰囲気の中でやっている。球場に来るのが楽しみでしょうがない」と言っていますが、そういう雰囲気にならないと苦しい夏は乗りきれないでしょう。投打ともに柱になる選手はいるわけですから、かみ合ってくれば勝ちが増えてくるとは思いますけどね。
――そんな楽天とゲーム差なしの4位につける、ロッテについてお聞きします。前半戦は借金が最大9ありましたが、貯金2で折り返しました。
高木 僕が最も優勝の可能性を感じるのはロッテです。パ・リーグは各チームの打者が苦しむ中で、ロッテの89盗塁は12球団でダントツ。代走起用が多い岡大海や和田康士朗なども含めて足を絡めて点が取れるのが大きく、打線がしつこいのもいいですね。
荻野貴司と髙部瑛斗の1、2番コンビが機能していますし、3番の中村奨吾、4番に戻ってきた井上晴哉がいい仕事をしています。安田尚憲を4番で起用することが引っかかっていたのですが、井上が復帰して打線が落ち着きました。
ロッテは「つながり」と「足」が武器
――投手陣の印象はどうですか?
高木 昨年10勝した小島和哉が1勝なのは誤算ですが、防御率は2.47。佐々木朗希はマメを潰すなどしてたびたび離脱しているものの、投げた時はしっかりと試合を作れます。
ただ、他の(エンニー・)ロメロや美馬学といった先発陣はしっかりしてほしいところ。先発が試合を壊さなければ、小野郁、東條大樹、タイロン・ゲレーロ、ロベルト・オスナ、益田直也らリリーフ陣が強力ですから。
――近年、得点源として機能していたブランドン・レアード選手とレオネス・マーティン選手の不振が続いているのは気がかりです。
高木 そこを期待しすぎるとストレスになるので、「打てたら儲けもん」くらいに考えておいたほうがいいでしょう。それに、外国人打者だと打たせるしかありませんが、井上や山口航輝だと右に打たせるといった指示も出しやすいと思いますし、今は中軸を外国人選手に任せなくても大丈夫なはずです。
ロッテはホームランではなく、つながりで勝つチーム。たまにホームランが出ればいい。上位打線は基本的に今のメンバーで固定し、レアードやマーティンが復調して下位を担うようになればベストですね。
――次がオリックスですが、5位とはいえ貯金が「1」。チーム防御率はリーグ2位の2.78と安定しています。主砲の杉本裕太郎選手も、3、4月は長打率が1~2割台だったのが、5月以降は5割前後まで向上するなど復調してきています。
高木 2020年までのオリックスだったら落ちていくだけだったかもしれませんが、そうなっていないのは昨年の優勝が自信になっているように思います。
春先は杉本がまったくダメで、紅林弘太郎や宗佑磨も不調、吉田正尚が不在という時期もありましたが、ここにきてメンバーが揃ってきましたね。中川圭太がいいですし、紅林の状態も上がってきた。途中から加入した(ジョー・)マッカーシーも日本の野球に慣れてきたように感じますし、打線につながりが出てきました。
投手陣はずっと踏ん張っていて、平野佳寿までつなげばしっかり抑えてくれる。山本由伸が7月の前半あたりに少し打たれましたが、それでも安定していますよね。
―― 一方で、昨年13勝を挙げた宮城大弥投手が、防御率3.70、7月は未勝利でした。
高木 確かに、あまりよくないです。ただ、椋木蓮が雰囲気を変えていくんじゃないかと。よく、「新星は彗星のごとく現われる」なんて言いますけど、あとひとり抑えればノーヒットノーランだった日本ハム戦は、まさにそういうピッチングでしたね。
あとは、田嶋、山岡泰輔もいい。先発投手が揃っていて中継ぎも力がある投手が多いので、そんなに心配いりません。打線がつながるようになってきたので、後半戦のオリックスは他球団にとって怖い存在になると思いますよ。
日本ハムの目指すべき打撃
――打線のキーマンは誰になりそうですか?
高木 紅林です。彼が打つ試合は勝つことが多い。そういうところは、阪神の大山悠輔とよく似ています。昨年、チームが苦しいときや優勝争いをしている時に3番を打っていましたが、そういう経験が今後に生きてくると思います。
――最後に、5チームに離されてしまった日本ハムについて。
高木 日本ハムは開幕前から「優勝は目指さない」という方針で、(新庄剛志)ビッグボスがチームを改革している最中です。意識改革もそうですが、選手の適性を見るためにもいろいろなポジションで起用したり、当初の宣言通りやっている印象です。
上沢直之が足の骨折で離脱中ですが、加藤貴之や伊藤大海など先発投手陣がけっこういい。ただ、後ろにいくにつれて弱くなっていっていくので、リリーフ陣が改善されると試合を作れる回数が増えると思います。
――足の骨折で離脱中ですが、松本剛は打率.355で首位打者を独走中。清宮幸太郎は前半戦で11本塁打を放っているほか、今川優馬、万波中正など若手が躍動しています。
高木 他にも野村佑希や上川畑大悟など、魅力のある若い選手は多いですね。中堅どころの松本がしっかりしてきて、近藤健介も健在。後半戦は、来年以降の基盤になるだろうメンバーを固定して巻き返しを......と期待していた矢先に上沢と松本が骨折と、ちょっとアテが外れてしまったかなと。ただ、来年以降に向けてのチーム作りは着実に進んでいくでしょうし、楽しみです。
――特に期待している選手は?
高木 清宮ですね。ホームラン20本を目指すより、打率を上げる努力をしていると、逆にホームラン数も増えていくと思います。ホームランを打つと打率が上がる西武の山川のようなタイプもいるのですが、基本的には逆だと思います。
――後半戦の注目は、やはりロッテ?
高木 そうですね。先ほども話したように足が使えて、つながりで勝負できる点が大きい。
投手陣が改善されて、山川が好調な西武も推したいですが、エラーの多さが気になります(失策数はリーグワーストの66)。これから緊迫した試合が続く中で、どう影響するか。ただ、パ・リーグは最後の最後までもつれる可能性が高いと思いますよ。
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