女子格闘家ファイル(4)伊澤星花インタビュー 後編(前編:教員を目指す大学院生から「強すぎるRIZIN女王」になるまで>>) プロデビューから6戦6勝。DEEP JEWELSストロー級、RIZIN女子スーパーアトム級の2冠を保持する伊澤星花…

女子格闘家ファイル(4)

伊澤星花インタビュー 後編

(前編:教員を目指す大学院生から「強すぎるRIZIN女王」になるまで>>)

 プロデビューから6戦6勝。DEEP JEWELSストロー級、RIZIN女子スーパーアトム級の2冠を保持する伊澤星花。すでに"チート級"の強さを誇りながら進化の途中にある彼女が、プロ格闘家として戦う覚悟、"世界"への意識などを語った。



DEEPとRIZINのベルトを持つ伊澤星花

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プロ格闘家として意識する「面白い試合」

――RIZINで『国内に敵なし』だった浜崎朱加選手に連勝。その2戦目のタイトルマッチでベルトを獲りましたが、伊澤選手の強さが証明された2試合だったように思います。

「いやいや、まだまだですね。確かにチャンピオンにはなれたんですけど、練習させていただいているジムのK-Clannの中では弱いので"強い"という実感がないんです」

――「ジムの中で弱い」というのは、男子選手も含めてということですか?

「そうです。男女関係なしで」

――K-Clannといえば、RIZINフェザー級王者の牛久絢太郎選手も所属していますね。

「牛久さんはもちろん、強い選手がいっぱいいます。そんな選手たちと練習すると、『私は全然だな』と思います。女子選手と練習する時もありますが、その時は女子にしかない体の柔らかさなどに慣れることを意識しています」

――DEEP JEWELSとRIZIN、2本のベルトを獲ったことで意識は変わりましたか?

「自分がチャンピオンだという意識もなくて、『もっともっと強くなって相手を倒す』という気持ちしかないです。それでもチャンピオンという立場としては、もっと格闘技を広めないといけない責任もあると思っているので、メディアなどにも少しずつ出ていきたい。試合に関しては、まだ甘いところが多いです」

――「まだ甘いところ」とは?

「総合格闘技を始めて2年くらいですが、組み技の細かいところ、もうひとつ先の技術的な部分ですね。打撃も本格的にやるようになったものの、全然です」

――伊澤選手は、流れるように次々と寝技を仕掛けていく印象があります。それは柔道とレスリングの経験が生きている?

「それは意識の変化だと思います。柔道やレスリングをやっていた時は、私は"動かない選手"で、相手が来るのを待って返す、というスタイルでした。でも、プロの格闘家になったからには、見ている方に喜んでもらわないといけない。動きがある試合のほうが面白いと思うので、それを体現しようと思っています」

――技を仕掛け続けるには、かなりのスタミナも必要ですよね?

「普段から走り込みや追い込みの練習など、どこよりもキツイことをやっている自信があります。そのおかげで、試合開始からマックスで攻めていっても、最後まで動きが止まることはありません」

――伊澤選手が理想とする選手は?

「元UFCのハビブ・ヌルマゴメドフ選手(ロシア出身の男子選手。元世界ライト級王者。29戦全勝で2021年3月に引退)です。実績も素晴らしいし、常にアグレッシブに攻めていくスタイルも理想です。やはり積極的に攻めてお客さんを楽しませないと、プロの格闘家でいる意味がない。たとえ自分が勝ったとしても、つまらない試合をするようではダメだと思っています」

浜崎戦での妥協が「すごく悔しい」

――冒頭でも少し触れましたが、浜崎選手との2021年大晦日の試合(2ラウンドTKO勝利)と、今年4月のタイトルマッチ(判定3-0勝利)をあらためて振り返っていただけますか?

「2戦目は、1戦目より浜崎さんの本気度が違うことがすごく伝わってきました。かなり研究されているのを感じましたね。2戦目は3ラウンドをしっかり使って判定で勝つ作戦を立てていたので、一本で決められなかったことについては仕方ない。意地でも一本を取りにいく戦い方だけじゃなくて、どんな勝ち方もできるというところを見せたかったので」

――結果はその通りになりましたが、勝利後にはリング上で号泣していましたね。

「最後の3ラウンド目に妥協しちゃって......下になる場面が長くなったのがすごく悔しくて泣いてしまいました」

――浜崎選手が腕十字を狙って、伊澤選手が下になっていた場面ですね。

「そうです。下になった時に、本当はすぐに動いて抜け出さないといけないのに、ちょっと休んでしまって下になる時間が長くなってしまった。(2ラウンドまで優勢で)『このままでも判定で勝てる』という考えがよぎってしまいました。

 言い訳にはしたくないのですが、実は試合の1週間くらい前にカンピロバクターという胃腸炎みたいな症状が出て動けなくなってしまって。症状が回復してからの走り込みでも足に力が入らなくて、『うわ、これはヤバイな』とメンタル面でも不安が出てしまった。しっかり追い込めなかった分、普段だったら問題ない3ラウンド目に疲れが出たことが妥協につながったんだと思います」

UFCでも自分の階級を作れるくらい強くなりたい

――それでもRIZINのベルトを獲得し、ひとつの夢が叶ったと思います。新たな夢はありますか?

「1番になること、チャンピオンになることが目標だったんですが、なってみるとそんなに実感がないです。周囲に認められている感じもそこまでないので、まずはチャンピオンとして実績を上積みしていきたいです。競技は違いますけど、ボクシングの井上尚弥選手のような選手になりたいですね」

――将来的にはUFCなど、「世界で戦う」という考えはありますか?

「意識はあります。ただ、日本の総合格闘技の中心はRIZINだと思いますから、そこで名実ともに上に行ってからですね。私はプロでまだ6戦、RIZINでは浜崎選手としか戦っていませんし。そこで応援してくれる人をさらに増やしてから世界に目を向けたいです」

――DEEP JEWELSはストロー級(-52.2kg)、RIZINはスーパーアトム級(-49.0kg)ですが、どちらの階級が合っていると感じていますか?

「今のところは、スーパーアトムです。DEEP JEWELSでも、もうひとつ下のアトム級(-47.6kg)のほうが合っていて、ストロー級だとほぼ減量がない状態。まだ体が小さいということかもしれません。これからRIZINで戦っていく中で体を強化しながら、階級をどうしていくのかを考えていこうと思います」

――UFCは女子の最軽量級がストロー級(-52.2kg)になりますね。

「現状では、そこに合わせていくことになると思います。でも、私は今ある階級じゃなくて、自分に合った新たな階級を作りたい。それができるくらい強くて、結果が残せる選手になりたいです」

――伊澤選手思う強い選手とは?

「言葉としてはこれまで言ってきたことと真逆になるかもしれませんが、"敗けない選手"ですね。どんな試合をしても結局は勝っている、みたいな。『どうせ伊澤が勝つ』『敗ける試合が観てみたい』と言われるような、周囲を心配させずに勝てる選手になりたいです」

――伊澤選手が今後、自分の試合で一番見てほしいところは?

「やっぱりアグレッシブさです。柔道とレスリングをやっていた時は、相手がしてくることがだいたい予想できるので、相手の技を待っていても怖さがなかった。でも、総合格闘技ではパンチ、蹴り、タックルなど攻めの選択肢が多いので、待っていたらやられてしまいます。

逆に、自分から仕掛けられれば有利になる。だからこれまでもアグレッシブに行けていると思いますし、これから攻撃のバリエーションや技術も高めていくので、今後はそこに注目してほしいです」

 伊澤の次戦は、自らが望んだトーナメント「RIZIN WORLD GP2022 スーパーアトム級トーナメント」(7月31日(日)@さいたまスーパーアリーナ)。1回戦では、伊澤星花、浜崎朱加、浅倉カンナ、RENAの日本人4選手と、外国人4選手が激突。伊澤の相手となるブラジルのラーラ・フォントーラは柔術がベースで、総合格闘技では7戦全勝。寝技が得意な全勝の選手同士の対決となる。

 強豪が揃う中で、「絶対に私が優勝します」と宣言した伊澤。トーナメントの頂点を目指し、いざ出陣!

(取材協力:総合格闘技ジム K-Clann)

【プロフィール】
■伊澤星花(いざわ・せいか)
1997年11月1日生まれ、栃木県出身。身長160cm。幼少の頃に柔道とレスリングを始め、レスリングでは全国中学生選手権優勝、柔道では高校2年生の時にインターハイ3位に。東京学芸大学の大学院に進学後に総合格闘家へ転向。2020年10月にDEEP JEWELSでプロデビューを飾り、2021年6月の3戦目でタイトルを獲得する快挙を成し遂げた。RIZINデビュー戦となった2021年大晦日の「RIZIN.33」で当時の王者である浜崎朱加を2ラウンド TKOで下し、翌年4月の「RIZIN.35」でのタイトルをかけた再戦でも勝利を収め、第4代 女子スーパーアトム級のベルトを巻いた。