サッカー日本代表「パリ世代」インタビュー03田中聡(湘南ベルマーレ/MF)前編 それは2年前、2020年シーズンのことだ…
サッカー日本代表「パリ世代」インタビュー03
田中聡(湘南ベルマーレ/MF)前編
それは2年前、2020年シーズンのことだった。
J1で最下位に低迷していた湘南ベルマーレにあって、未来を照らすひと筋の光明とも言うべき18歳の俊英がJ1デビューを飾っていた。現在、湘南でボランチを務める田中聡である。
当時の田中はユースチーム所属で、まだまだ経験に乏しい2種登録。ところが、ひとたびピッチに足を踏み入れるや、まるで気おくれした様子を見せず、果敢に相手選手に体を寄せてはボールを奪い取った。
気がつけばその年、"高校生ルーキー"のJ1出場試合数は17を数えていた。以降、湘南の守備の要となった田中は、今季プロ2年目、J1デビュー年から数えると3年目となるシーズンを送っている。
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田中聡(湘南ベルマーレ)2002年8月13日生まれ
---- 田中選手は湘南ベルマーレU−18からトップチームに昇格していますが、もともとは長野出身なんですか。
「そうですね、今も家族は長野に住んでいます。サッカーを始めたのも長野市内のクラブ(長野FCガーファJr)で、兄が通っていたので自分も同じところに入った、という感じです。練習場も近かったし、通いやすい環境でした」
---- 中学時代は長野パルセイロU−15に所属していますね。
「一番身近なJクラブがパルセイロでしたから、毎週のように(トップの)試合を見に行っていましたし、憧れがありました。小学生の時のクラブの先輩も、上手な選手はパルセイロのセレクションを受けていたので、自分も受けたいなって思いました」
---- その後、なぜ地元を離れ、湘南U−18に入ったのですか。
「中学生の時から、高校生になったら県外に出たいな、という思いがありました。いろんなところのセレクションを受けるつもりだったんですけど、パルセイロで指導してもらっていたコーチが湘南のコーチになった伝手(つて)で湘南の練習に参加できて、合格をもらったので即決というか、ほかのクラブは受けずにすぐ決めました」
---- 当時、湘南についてはどのくらいの知識がありましたか。
「当時はJ2で独走していた時だったので、来季はJ1に上がんるだなっていうくらいで......。そんなに詳しくは知らなかったです(笑)」
---- 知っている選手はいましたか。
「過去に遠藤航選手(現シュツットガルト)がいたとか、中田英寿選手(元ローマなど)が昔所属していたっていうのは知っていました」
---- 田中選手は今年から中田選手と同じ背番号7をつけていますね。
「特に意味はなくて(苦笑)......、チーム側から『7番が空いているからつけるか』と言っていただいたので、『はい、つけます』って、そんな感じです」
---- ポジションは小さいころからボランチだったのですか。
「パルセイロの時は中盤やFWをやっていて、湘南でもはじめの半年くらいはFWをやっていました。中学の時までは、右からカットインしてシュートとか、左利きっぽいことをやっていたんですけど(笑)。
でも、FWではなかなか通用しなくて、ボランチに下がったことで自分の特長も変わったので、すごく守備が得意になりました。湘南スタイルというか、対人だったり球際だったりを、監督やコーチから教わったことで習得できたのかなと思います」
---- 湘南U−18時代の2020年には、早くも2種登録でトップチームの試合に出場しています。
「高2の時にお世話になった浮嶋敏監督がトップの監督になったことで、自分が高3になった時に試合で使ってもらうようになりました。
練習でも、練習試合でも、特にパフォーマンスがよかったわけではないと思うので、チーム内にはたぶん、『なんで聡が出るんだ?』みたいな雰囲気もあったと思いますが、そんななかでも敏さんに使ってもらって、すごく感謝しています」
---- 自分はまだそのレベルにはないのに使ってもらっていた、と。
「練習ではミスばかりで、紅白戦でも全然目立たないという感じでした。それでもベンチに入れてもらいましたし、シーズンの最後のほうはほとんどの試合に出させてもらいました。
そのおかげで経験を積めたと思いますし、自信もついてきました。当時は(ボランチではなく)DFで出ていましたけど、自分なりに自信をつけるきっかけになったのかなと思います」
---- 当時は主に3バックの左で出場していました。
「DFラインの選手がほとんど全員ケガをして、試合が成り立たないくらいにメンバーがいなくなったので、急遽自分が出ることになったんですけど、それが意外としっくりきて。特に違和感はなかったです。
うしろからでも攻撃参加できますし、何も考えずに楽しんでいたっていう感じです。そこから試合に出られるようになり、パフォーマンスも上がってきました。若い時はポジションどうこうではなく、試合に出ることが一番大事だと思ってやっていました」
---- 昨季は晴れてトップチーム昇格。リーグ戦36試合に出場しましたが、主力として自信を持ってプレーできましたか。
「やってやろうっていう気持ちはありましたけど、開幕してから自分のパフォーマンスがそんなにいいわけではなく、チームもなかなか勝てない状況だったので、けっこう壁にぶつかった感じでした。2種登録のころに比べたら自信を失っていて、ボールに触るのが怖かったくらい。特にシーズン序盤はすごく苦戦してました」
---- 昨季は主にボランチでプレーしました。
「いざやってみると、DFよりプレッシャーがかかりますし、ボランチとしてはまだプロでは通用していないなって思い知らされました」
---- チームがなかなか勝てず、残留争いを強いられたことも自身のプレーに影響しましたか。
「勝てない時期はみんなすごくピリピリしていましたし、チームの雰囲気もJ2降格がなかった年(2020年)とは全然違いました。シーズン終盤には、精神的にも本当に厳しい時期がありましたから。でも、今考えると、すごくいい経験だったのかなって思います」
---- その間には浮嶋監督が解任され、新たに山口智監督が就任。プロの世界の厳しさを目の当たりにしたのではないですか。
「敏さんが解任された時、自分は(U−20の)代表活動へ行っていたので電話で知ったんです。敏さんが監督をやった最後の試合(2021年J1第27節・浦和レッズ戦)は引き分け(0−0)でしたけど、内容もそこまで悪くなかったと自分では思っていたので......。
それでも解任されてしまって、(山口)智さんが新しく監督になって、厳しい世界だなっていうのをすごく感じました」
---- 少し話がそれますが、山口監督のことは「さとしさん」と呼ぶのですか。
「はい。(同じ名前の呼び方なので)違和感はもちろんあります(笑)。もう慣れましたけど」
---- 山口監督は田中選手を何と呼ぶのですか。
『「さとし」って呼びます。ややこしいです(笑)』
---- 話を戻しましょう。先ほどボランチとしてプロでは通用していないと感じたという話がありましたが、どこに課題を感じていますか。
「最近も、ビルドアップの時に自分が狙われることがけっこう多いので、そこでの状況判断がもっとできるようにならないといけないと思っています。自分は戦術的な話が全然理解できないので......」
---- というと。
「敵がマンツーマンで来てるからこうしよう、とか、選手同士でサッカーの話をしていてもついていけないというか......。話はちゃんと聞いてるんですけど、何を言っているのか全然わからなくて(笑)。
自分はけっこう感覚でサッカーしているので、そういう話になると混乱してしまいます。もうプロ2年目ですけど、サッカーIQというか、そういう部分は全然足りないなって思います」
---- 戦術理解力を高める必要がある、と。
「自分が出た試合を見て振り返るだけでなく、たとえば川崎フロンターレとかほかのチームの試合もたくさん見て、そのなかで気づけることがあるか探っている感じです」
---- 逆に、ここは通用していると感じるのはどこですか。
「守備で相手を潰したりとか、1対1のところというのは......はい、そうですね」
---- やはり、自分の武器は守備。
「どっちかって言ったら、守備っていう感じです。攻撃も好きですけど、試合を見返した時に、ドリブルで相手をはがせたり、いいパスを出したり、自分が局面を打開しているのを見ても、それを意図的にはやっていないので、『あ、俺、こんなプレーもできるんだ』みたいな感じに思ってしまいますから。
それに比べると、守備でボールを奪ったり、カウンターを阻止したりというのは、それが当たり前というか、自分の特長だと思います。もちろん1対1で負けることもありますけど、自分的には自信があるというか、そこが一番通用しているんじゃないかなという気持ちはあります」
---- 今後、さらに成長していくために必要なことは何だと思いますか。
「もちろん、守備ももっと伸ばして、誰にも負けないっていうところまでいければいいですし、課題である戦術理解を上げていければ、もっと上のステージに上がれるのかなと思っています」
「正直に言うと、勝ってほしいと素直には思えませんでした」
【profile】
田中聡(たなか・さとし)
2002年8月13日生まれ、長野県長野市出身。AC長野パルセイロU−15を経て湘南ベルマーレU−18に加入。2020年7月、横浜F・マリノス戦でJリーグデビューを果たす。2021年からトップチーム所属となり、同年4月にプロ入り初ゴールを記録。各カテゴリーでの日本代表では、2019年のU−17ワールドカップメンバーに選出されてベスト16進出。今年3月に参加したドバイカップU−23ではU−21日本代表の優勝に貢献した。ポジション=MF。身長174cm、体重70kg。