元レフェリー・家本政明が感銘を受けた選手たち 日本代表編「外国人Jリーガー編」はこちら>>Jリーグで最多試合数を担当し、…

元レフェリー・家本政明が感銘を受けた選手たち 日本代表編

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Jリーグで最多試合数を担当し、2021シーズンいっぱいで審判を引退した家本政明さんが、「レフェリー視点」でこれまで見てきた選手たちを語る企画。大好評だった前回のJリーガー編(現役・OB)を受けて、今回はJリーグから海外へ渡った現役日本代表のなかから、「これはすごい!」と思った選手5人を挙げてもらった。

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家本氏が

「ブラジル人のようだった」と言う三笘薫

ドイツで水を得た魚のように

遠藤航(MF/シュツットガルト)

 遠藤航選手のプレーは、Jリーグ時代もたくさん見てきましたが、当時からここまでの飛躍を想像できたかと言われたら、大変失礼ながらまったく想像できませんでした。

 もちろん当時からすばらしい選手と思っていたのですが、それほどサイズがあるわけでも、すごくスピードがあるわけでもなかったので、突出してスーパーな選手という印象は受けていませんでした。

 例えば、同じボランチのポジションだと、長谷部誠選手(フランクフルト)は海外に行く前から浦和レッズでスーパーな活躍をしていました。そこまでのすごさを遠藤選手に感じていなかったのは、本当に私の見る目がなかったということです。

 それでも当時から他の誰よりも突出して優れていると思っていたのは、状況判断の速さと的確さです。それに裏打ちされたポジショニングのよさや、相手を抑えにいくタイミングの良さ、危機察知能力もすばらしかった。これは今の彼にも共通するところだと思います。

 そしてもう一つ。今思い返してみると、Jリーグでは彼がボール奪取を狙って、インターセプトやあるいは相手に激しく寄せにいく場面で、よくファールになっていた印象があります。

 これは、ボールホルダーの選手が彼の寄せに耐えられず、ふらついたり、倒れたりして、それを見てレフェリーが笛を吹くケースがあったから。そうなると、遠藤選手は強度が発揮できないわけです。言い換えれば、遠藤選手に問題はなかったということです。

 彼はもともと向こうで活躍できるだけの能力の高さと球際の強さを持っていたけれど、日本では発揮できる土壌がなかった。つまり「Jリーグのフレームのなかでは、彼の能力を100%発揮できる状況にはなかったけれど、ヨーロッパでは存分に発揮できたから今に至っている」というのが、私の仮説です。

 より高い強度で行ってもヨーロッパでは相手が倒れないので、レフェリーも笛を吹かない。そうなれば彼は水を得た魚のように、もっと速く、もっと強く、もっと前へ行くようになりましたし、遠藤選手のボール奪取でピンチからチャンスになる機会が圧倒的に増えました。彼がもともと持っているスキルがより生かされる環境が、ヨーロッパや日本代表だったということなのだと思っています。本当にすごい選手です。

2、3歩での爆発力が強烈

古橋亨梧(FW/セルティック)

 古橋亨梧選手は、こう言ったら本当に失礼な話なんですが、会うたびにうまくなっているなと毎回驚きながらもすごくワクワクさせられた選手です。

 会うたびにスピードが増して、トップスピードのなかでのボールコントロールに磨きがかかり、さらにシュートの精度もどんどん上がっていきました。本当に試合ごとにうまくなっていて、この選手はどこまですごい選手になっていくのだろうと思っていました。

 セルティックへ移籍した昨年は、途中までプレーしたJリーグのなかでは、完全に助っ人外国人選手と同じような格の違うプレーを見せつけていました。

 それは、本人の努力はもちろんですが、ヴィッセル神戸時代にアンドレス・イニエスタ選手やダビド・ビジャ選手など、世界的な超一流選手とともにプレーできたことも大きいのだろうなと想像しています。

 スピードがある選手にもいくつかタイプがあって、長い距離が速い選手と言えば、浅野拓磨選手(ボーフム)や永井謙佑選手(名古屋グランパス)が挙げられると思います。古橋選手はとにかく初速が速い。2、3歩での爆発力が強烈で、DFとの駆け引きでは初速の速さで簡単に置き去りにしてしまう印象がありました。同じタイプで言えば、今はチームメイトの前田大然選手がそうですね。

 そんな彼らのスピードに、レフェリーがついて行くのは大変だと思う人もいるかもしれません。もちろんすごく大変なんですけど、対応する術はあります。私の場合は古橋選手に加え、イニエスタ選手、山口蛍選手など3人くらいを常に視野に入れて、受け手7割、出し手3割くらいの感覚で見ていました。

 その3人の動き、とくに古橋選手のステップバックとか、目線、体の向き、DFとの間合いで、いつ走り出して、いつパスが出てくるかがわかりました。出し手のところでつぶされたり、接触がありそうな場合は、それが見える位置に残ります。

 でもその心配がない場合、私はスッと前へ出ていって、カウンターに備えて次の展開が見えやすいポジションへ向かっていました。そういったレフェリーと選手の駆け引きみたいなところもあって、古橋選手との試合は本当に楽しかったですね。

ボールを持った状態でも本当に速い

伊東純也(FW/ゲンク)

 今の日本代表でもそうですが、柏レイソル時代も彼のところにボールが来ればなにかやってくれると思わせてくれる、すごく魅力的な選手でした。彼の持ち味はみなさんも知ってのとおり、圧倒的なスピードです。

 彼は素のスピードの速さはもちろんですが、運動量も非常に豊富で、ボールを持った状態でも本当に速い。先程挙げた浅野選手や永井選手、古橋選手ともまた違った類いのスピードスターだと思っています。

 柏時代は右サイドをドリブルで切り崩し、クロスを入れたり、時折カットインからシュートを狙う、どちらかと言えばチャンスメーカーに徹していたと思います。でもベルギーに渡って今ではチャンスメーカーであり、ゴールゲッターでもある。非常にプレーの幅が広がった印象で、DFにとって本当に脅威を感じさせる存在になっていますよね。

 あれだけのスピードがあって、ドリブラーなので、当然DFとのコンタクトは多い選手でもありました。ただ、柏やベルギーでの活躍を見ていても、相手に球際でガチャっとやられる場面はあまり見た記憶がありません。

 フィジカルが弱いという選手ではなくて、ボディバランスがよく、相手のコンタクトを無駄に受けず、かわすうまさがありました。

 彼は足元やうしろからタックルされると、スピードという翼をもがれてしまうことをよくわかっています。ですので、そうならないように、相手のかわし方や接触回避の仕方をすごく考えながらプレーしていたように見えました。

 彼の人間性の部分は、おとなしい印象を持っています。同じくおとなしい印象のある古橋選手は内なる負けん気の強さ、熱さを感じていましたが、伊東選手にそういうものはあまり感じていませんでした。それよりも、純粋にフットボールを楽しんでいる選手という印象です。

 今では日本代表で確固たる地位を築いていますが、Jリーグでプレーしている時はピンポイントアタッカーで活躍するとは思っていましたが、ここまで主軸として代表を引っ張る存在になるとは想像していませんでした。本当に僕の見る目はありませんね。

 ヨーロッパに行ってからは、得点能力だけでなく、縦横無尽さやスピードにもさらに磨きがかかり、ドリブルのタイミング、持ち出しのオプションも増えて、すべてにおいてスケールアップしたと思っています。伊東選手は昔も今も、ボールを持つととにかく私たちをワクワクさせてくれるすごい選手です。

ウナギのようなドリブル

三笘薫(MF/ブライトン)

 三笘薫選手を最初に見たのは映像でした。「なにこの選手!?」と、とんでもなくすごい選手が出てきたなと、思わず前のめりになってしまいました。

 実際にレフェリーとして彼を目のあたりにした時も、独特なオーラをまとっていました。ついこの前まで大学生だったとか、ルーキーだとか、そんなことをまったく感じさせない雰囲気をすでに持っていましたね。

 彼の何に一番驚いたかと言えば、ウナギのように誰かが捕まえようとしても簡単に捕まえることができない、あのヌルヌルドリブルです。体の使い方やボールの運び方が、日本人のイメージにはないもので、まるでドリブルのうまいブラジル人選手を見ているような感覚でした。

 対峙するDFが「なんでそんなタイミングで突っ込んじゃうんだ!?」という対応をしていて、おそらくタイミングがわからないからつい飛び込んでしまうし、彼がそれをうまく誘っているんでしょうね。

 スピードに関しては、素の速さで言えば特別速いわけではないと思います。でも圧倒的にかわしていく。独特の間合い、タイミングと爆発的な初速の速さ、ボールの運び方とテクニックのレベルは、Jリーグのなかでは突出したものがありましたし、今まで彼のようなタイプを日本人で見たことはありません。

 一方で、体を当てられた時に脆さがありました。実際に私が担当した試合でもあったのですが、タイミングをずらせなくて相手に懐に入られて、体を当てられたことでボディバランスを崩して倒れたり、ボールを奪われてしまう場面が何度かありました。

 彼は「ファールでしょ!」という表情をするわけですが、「いや、それはファールじゃないよ」というやり取りも何度かありました。今季はプレミアリーグでプレーをするので、そこが今後の課題になってくるかもしれないですね。

 彼のもう一つの魅力と感じているのが、シューターである点です。左サイドからのドリブル突破で決定機を作る彼はチャンスメーカーであり、シューターであるというイメージを持っている方もいるかもしれませんが、私にとってのイメージは逆です。

 彼の選択肢にはまずシュートがあって、状況やタイミング、味方の位置関係を見ながら自分より確率が高いと判断した選択肢が出てきた時に、パスの選択になるイメージです。

 ペナルティーエリアに入る前から入ったあたりは、彼の聖域というか、もっとも力を発揮するエリアで、レフェリーにとっても見ていてワクワクさせてくれます。本当に華があって、まさに「お金を払ってでも見たい」と思わせてくれるすごい選手です。

頭の回転が速いオールラウンダー

田中碧(MF/デュッセルドルフ)

 田中碧選手は「本当にすごく賢い選手だな」とずっと思っていました。ゲームメイクもできるし、点を取ることもできるし、守ることもできる。それだけでなくて、危機察知能力も高いので、今どのエリアがよくなくて危ないのかも瞬時に判断して、カバーしたり、味方に任せたりもできる。

 そうやってうまくバランスを取り、チームとして攻守に渡って中盤のスペースをどう活用するのかを常に考えながら、プレーしているんだろうなと感じさせる選手です。非常にバランス感覚がよく、頭の回転が速いオールラウンダーという印象を持っています。

 川崎フロンターレの試合はいつも楽しいものですが、彼が入った川崎はより「なにをしてくるんだろう」とワクワクしていました。川崎の経験豊富な選手に囲まれて非常にのびのびと、楽しそうにプレーしていたのも印象的でした。

 今回5人のなかに入れるか迷った守田英正選手(スポルティング)との関係も、非常にいいものでした。田中選手は私のイメージでは中央から前のエリアで力を発揮できる選手で、それに対して守田選手はフィジカルが強くて相手をつぶせて、中央からやや後ろのエリアで力を発揮できる選手というイメージです。

 なので、2人の中盤での関係性は非常にバランスがよくて、代表でも遠藤選手を含めてポジションバランスは抜群に相性がよく、互いの能力を引き出し合える3人だと思っています。

 人間的にも「とてもいい人」という印象を持っています。ポジションを邪魔してしまって「ごめん、ごめん!」と言ったら「大丈夫っす!」と笑顔で返してくれましたし、物腰はいつも柔らかく爽やかです。川崎はクラブの特色的にも、選手たちはみんないい人という印象を持っていますね。

 デュッセルドルフでのプレーを全部見ているわけではありませんが、個人的にはもっとできる選手だと思っているので、今後のさらなるステップアップに期待していますし、楽しみにしています。