パリ・サンジェルマン真夏の短期集中講座<第4回>〜ジャパンツアー直前プレビュー〜 新シーズン開幕に向け、7月5日に始動し…

パリ・サンジェルマン真夏の短期集中講座
<第4回>〜ジャパンツアー直前プレビュー〜

 新シーズン開幕に向け、7月5日に始動したパリ・サンジェルマン(PSG)。チーム練習場「カン・デ・ロージュ(オレドー・トレーニング・センター)」でのトレーニング期間を終えたクリストフ・ガルティエ新監督と選手たちは、予定どおり7月17日に来日を果たした。

「(日本での)今回の3試合は、31日にテルアビブ(イスラエル)で予定されているナントとのトロフェ・デ・シャンピオン(フランス・スーパーカップ)に向けた、すばらしい準備になることを願っている」

 来日会見でガルティエ監督がそう語ったように、パリ・サンジェルマンにとって今夏に予定されているウォームアップマッチは、日本での3試合のみ。ジャパンツアー終了後にはフランスカップ王者ナントとのタイトルマッチを経て、8月6日にクレルモンとの開幕戦を戦うスケジュールになっている。

>>第1回はこちら>>「PSG激動の歴史。降格争い、借金まみれ、スポンサーもさじを投げた」
>>第2回はこちら>>「PSGスーパースター列伝。王様ズラタン、ピルロ後継者、ベッカム引退」
>>第3回はこちら>>「PSGの新体制にスター選手も戦々恐々。ネイマールさえも...」



攻撃のタクトを振るメッシ(左)とネイマール(右)

 そういう意味で、川崎フロンターレ戦(20日/国立)、浦和レッズ戦(23日/埼玉)、そしてガンバ大阪戦(25日/吹田)の3試合は、チームにとって貴重な準備試合。とりわけ新監督の下でチーム戦術も刷新されるため、選手にとっては厚い選手層のなかでポジションを勝ち取るためにも、気を弛められない試合になるだろう。

 気になるのは、ガルティエ監督率いる新生PSGが、どのフォーメーションで、どんな戦術を採用するつもりなのか、という点である。

 そのヒントとなり得るのが、来日直前の7月15日に練習場で行なわれたUSクヴィイー(2部)との新シーズン最初のトレーニングマッチだ。

川崎戦のスタメンを予想する

 USクヴィイーとの試合では、遅れてチームに合流したFWキリアン・エムバペ、DFアクラフ・ハキミ、DFプレスネル・キンペンベ、MFマルコ・ヴェラッティ、DFヌーノ・メンデスといった主力数人と、臀部を痛めて大事をとったFWネイマールは欠場したが、それ以外のメンバーたちはそれぞれ45分間プレーしている。

 その試合でガルティエ監督が採用したフォーメーションは「3−4−1−2」。スタメンは、GKジャンルイジ・ドンナルンマ、最終ラインは右にセルヒオ・ラモス、中央にマルキーニョス、左は移籍が噂されるアブドゥ・ディアロの3人。ウイングバックは右にエリック・ジュニオール・ディナ・エビンベ、左にフアン・ベルナト、ボランチは新加入のヴィティーニャとレアンドロ・パレデスのコンビ。そして前線は、トップ下にリオネル・メッシ、2トップはマウロ・イカルディとアルノー・カリムエンドだった。

 後半は全員が入れ代わり、来日メンバーには入っていないデビュー前の若手中心の編成になったため、フォーメーションも4−3−3に変更したが、おそらくガルティエ監督が頭に描く基本フォーメーションは、現時点では3バックシステムと見ていい。

 実際、来日2日目の18日夜に行なわれた公開練習におけるゲーム形式のトレーニングでも、指揮官は3バックを採用。最終ラインからのビルドアップやプレス回避など、新しい戦術の落とし込み作業を行なった。

 レギュラー組でプレーしたのは、GKドンナルンマ、3バックは右からセルヒオ・ラモス、マルキーニョス、キンペンベ。ウイングバックは右にハキミ、左にヌーノ・メンデス、ダブルボランチはヴィティーニャとイドリッサ・ゲイェのコンビ。そして前線は、右にメッシ、左にネイマール、1トップにエムバペという「MNMトリオ」が形成された。メッシは2トップ下でプレーすることもあるため、変則的な1トップ2シャドーとも言える。

 いずれにせよ、攻撃は3人のアドリブを優先する格好で、おそらく20日の川崎戦もこの11人がスタメンを飾る可能性が高いと思われる。

得意の4バックはなぜ封印?

 問題は、この3バックシステムはまだ着手したばかりの戦術であり、機能するまでには時間を要するということだろう。USクヴィイー戦にしても、公開練習のトレーニングにしても、ビルドアップからスムースに前線にボールを配給することさえままならず、当然だが、現段階においては試行錯誤の状態であることが見て取れた。

 そもそもガルティエ監督は、過去に指揮したサンテティエンヌとリール時代の3年目までは、ほぼ一貫して4−2−3−1を採用した指導者で、リール時代の4年目に基本フォーメーションを4−4−2に変更してリーグ優勝に導き、昨シーズンもニースで4−4−2を継続。柔軟にシステム変更をしながら戦うタイプの監督ではなく、しかもメンバーをほぼ固定しながらチーム作りを行なう傾向が強かった。

 しかし、控え選手にもワールドクラスが名を連ねるPSGでは、同じ手法は通用しないと判断したのか、自分のやり方を貫くことはせず、選手の能力を最大限に生かすための方法を考え、これまで採用してこなかった3バックシステムに着手した。そのうえで、ほぼ同じチーム力を持つ2チームを作って、超過密日程となっているシーズン前半戦を乗りきりたいという意向も公言している。

 要するに、ガルティエ監督は未知数な部分を多く抱えたまま、シーズン開幕を目指すことになるわけだ。

 ジャパンツアーの対戦相手となる川崎、浦和、G大阪はシーズンの真っ只中であり、チームの成熟度、選手個々のコンディションなどを考えると、PSGにとっては難しい試合になることは必至だ。

 しかしガルティエ監督としては、今回の3試合は勝敗よりもチーム戦術の植えつけや選手のコンディションを上げていく作業を重視しながら、開幕戦に照準を合わせたチーム作りを進めていくことになるだろう。

 ジャパンツアー初戦となる川崎戦の注目は、いかにしてPSGが川崎のプレスを回避し、前線の「MNMトリオ」にボールを配給できるかという点だ。

武器は超高速カウンター?

 もちろん、たとえチーム戦術が浸透していない状況であっても、PSGの選手たちにはハイレベルな個人戦術とグループ戦術が備わっているため、たとえばロングパス1本によってエムバペのスピードを生かし、川崎の最終ラインの背後を突くことはできる。つまり、PSGの超高速カウンターが最大の見どころになるかもしれない。

 果たして、ガルティエ監督率いるPSGの船出はいかに。長いシーズンを見ていくうえでも、ジャパンツアーの初戦は今シーズンの試金石となるはずだ。

>>第5回につづく>>