関東学生陸上競技連盟が、第100回東京箱根間往復大学駅伝(2024年1月2日、3日)の予選会に、全国の大学が参加可能になったと発表した。参加資格を「関東学生陸上競技連盟男子登録者」から「日本学生陸上競技連合男子登録者」に拡大したためだ。な…

 関東学生陸上競技連盟が、第100回東京箱根間往復大学駅伝(2024年1月2日、3日)の予選会に、全国の大学が参加可能になったと発表した。参加資格を「関東学生陸上競技連盟男子登録者」から「日本学生陸上競技連合男子登録者」に拡大したためだ。なお第101回大会以降の開催方法は検討するとしている。



現在、地方大学で指導する元早大の竹澤健介(左)と五輪のマラソンで活躍した尾方剛

 限定的とはいえ、関東ローカルの大会である箱根駅伝が全国化することになった。その予選会が行なわれるのは、例年と同時期ならば2023年10月後半だ。決戦のときまで1年3カ月ほどしかない。果たして地方大学の中で大激戦を突破するチームは現れるのか。

 今年11月の全日本大学駅伝で、4年連続12度目の出場となる関学大・竹原純一監督はスポーツ紙の取材に対して、「今のメンバーで出るのは無理。箱根はもともと頭にないし、ハーフの練習もしていないしね」と答えている。駅伝ファンはご存じだと思うが、まず関東と地方では実力差が小さくない。

 昨年の全日本大学駅伝は関東勢が15位までを独占した。関東地区以外の最上位は16位の関学大で、15位の日体大(エース藤本珠輝を外した布陣)とは3分03秒差。14位の拓大(箱根駅伝予選会を次点で敗退)とは8分30秒という大差がついた。これがハーフマラソン上位10人の合計タイムで争われる箱根駅伝予選会になると、地方大学の戦いはもっと厳しくなる。

 今年の箱根駅伝に出場したあるチームの指揮官は、「全国に門戸を広げるのは面白い取り組みだと思うんですけど、第100回大会だけで終わってしまうと、関東以外のチームが入ってくるのは現実的に厳しいと思います。チームの作り方が違うし、年間通してのモチベーションも全然違いますから」と指摘する。

 別の箱根駅伝監督経験者も「1回だけのために強化ポイントを変えるのも難しいですし、ハーフマラソンを走れる選手を10人揃えるのがどれだけ大変なことか。1年間で簡単に走れるようになったら苦労しないですよ」と話すほどだ。

全国化の継続で強化に期待の2大学

 全日本大学駅伝は8区間106.8㎞。関東以外の全日本出場校は、この区間設定に合わせて強化していく。しかし、箱根駅伝予選会はハーフマラソン(21.0975㎞)で争われるため、距離への対応が難しくなる。加えて8人揃えればいい全日本大学駅伝とは異なり、箱根駅伝予選会は10~12人の選手が必要だ。

 昨年の箱根駅伝予選会で最下位通過となった、国士大の平均タイムは1時間4分34秒。地方大学はハーフマラソンを走る機会が少ないとはいえ、このタイム以上の自己ベストを持つ選手は上田颯汰(関学大4年)、守屋和希(関学大3年)、アニーダ・サレー(第一工大4年)の3人しかいない。単独チームで予選会を突破するのは至難の業だ。

 1年ちょっとの準備期間があるとはいえ、予選会に参戦したところで、20位前後が精一杯のような気がしている。地方大学にとって最大の目標は、毎年11月の第一日曜日に開催される全日本大学駅伝だ。その2~3週間前に行なわれる箱根駅伝予選会に、全日本出場校がどれくらい参戦するのだろうか。

 第100回大会で地方大学が箱根駅伝に出場するのは現実的ではないが、第101回大会以降も全国化が続くようだと、地方大学にもチャンスは出てくる。その中でも"箱根効果"で将来的に強くなる可能性を秘めているのが、広島経済大と摂南大だろう。

 なぜなら両校には、箱根駅伝とオリンピックを経験している指導者がいるからだ。

 広島経済大は、2008年北京五輪の男子マラソン日本代表・尾方剛が監督を務めている。尾形は山梨学院大2年時に箱根駅伝の優勝ゴールに飛び込むと、10区で区間賞も獲得。2005年ヘルシンキ世界陸上の男子マラソンでは銅メダルに輝いた。指導者としても広島経済大で全日本大学駅伝を何度も経験している。

 広島には世羅高、隣の岡山には倉敷高という近年の全国高校駅伝で優勝を経験している超強豪校もある。近隣の有力選手をスカウトできれば、箱根駅伝の出場に近づくことができるだろう。

早稲田の竹澤も指導者に

 一方の摂南大は、今季から北京五輪代表(5000m、10000m)の竹澤健介が専任講師として着任。陸上競技部のヘッドコーチに就任して、長距離強化を図っている。2020年11月には寝屋川キャンパスに全天候型400mトラックが完成。2023年4月には女子陸上競技部を発足して、女子駅伝も目指していく計画を立てている。
 
 竹澤は早大時代、箱根駅伝に4年連続で出場。2年時に"花の2区"で区間賞を獲得すると、3年時には大阪世界陸上、4年時には北京五輪に出場した。

 学生時代に「箱根から世界へ」を実現しており、人気もすこぶる高かった。竹澤の指導を受けたいと考えている高校生は少なくないだろう。関西圏には有力高校生ランナーも多く、竹澤の知名度と箱根駅伝の"魔力"があれば、全日本大学駅伝に一度も出場していない摂南大に好選手が集まってもおかしくない。

 また、駒大・大八木弘明監督、青学大・原晋監督など箱根駅伝を知り尽くしている名将が地方大学の指揮官になり、本気で箱根駅伝を目指すことになれば、学生長距離界の勢力図が大きく変わるかもしれない。

 一方で実業団のあるコーチは、「大学生をスカウトする立場からすると、別に箱根駅伝にこだわる必要はないかなと思っています。中長距離から上がってくる選手。たとえば高岡寿成なんかがいい例ですよね。関東とは別のアプローチで大学の4年間を強化することで将来につながることもありますから」と話している。

 現在、日本陸連の中長距離・マラソン強化委員を務める高岡寿成(カネボウ監督)は、龍谷大時代にスピードを磨き、4年時に(1992年)に5000mで日本記録を樹立。実業団に進んだ後に少しずつ距離を延ばし、2001年に10000m、2002年にマラソンで日本記録(いずれも当時)を打ち立てた。

 多様性が叫ばれる時代、箱根駅伝を目指すだけでなく、18~22歳の時期に適切なトレーニングをすることで将来につなげるような指導も必要なような気がしている。