イップスになりやすい選手の傾向 完璧主義、真面目、心配性 誰もが直面する可能性がある「イップス」。思うように投球や送球が…

イップスになりやすい選手の傾向 完璧主義、真面目、心配性

 誰もが直面する可能性がある「イップス」。思うように投球や送球ができなくなって野球を辞める選手がいる一方、克服する選手もいる。明確な治し方が分かっていない中、どんな解決策があるのか。現役時代にイップスを経験し、現在は100人を超える中学生の硬式野球チームを教えるある指導者の男性は、「アバウトな自信」と「動作の分解」をポイントに挙げている。

 思い通りのプレーができなくなるイップスは、極度の緊張や不安といった精神的な問題が原因と言われている。マウンドから捕手の届かないところへ投げてしまったり、内野から一塁への送球があらぬ方向にいってしまったりする。

 中学校の硬式野球チームで指導している男性は、現役時代にイップスを経験。指導するチームでも、症状に悩む選手を見てきた。失敗や指導者からの叱責がきっかけになるケースが多いが、イップスになる選手には共通点があるという。

「完璧主義、真面目、心配性の選手がなりやすい傾向があります。理想とする100点のプレーへのこだわりが強い選手が多いと感じています」

 この指導者自身も心配性で完璧主義な面があり「誰よりも練習していたという自負がありましたが、なかなか結果を出せずに焦っていました。自分に自信を持てませんでした」と現役時代を振り返る。

制球に自信がある元プロ野球選手から学んだ「アバウトな自信」

 指導者になってから制球やスローイングに自信のある元プロ野球選手らと話をする中で、イップスとは無縁の選手は予想以上に大雑把な考え方をしていると知った。そして、人の言動に左右されない確かな自信を持っていた。

「こうやって体を使えば、大体こんな結果になるとアバウトな考え方をしていました。完璧なプレーを求めるほど、イップスの沼にはまりやすいと感じました」

 こうした経験から、子どもたちへの指導方法を見直した。投手に対しては、コースか高さのどちらかを意識して投球練習をするようにアドバイスし、野手には相手がグラブを構えたところをピンポイントに狙うのではなく、胸元付近の捕りやすいところに送球するよう伝えている。

 選手にイップスの兆候がみられた際は、動作を分解して指導する。相手と正対した状態で上半身だけを使い、腕の振り方によって投げた球がどんな軌道を描いて、どこに向かうのかを確認するキャッチボール。球を持たずに正しい方向へ送球する下半身の動きのみの反復練習。どの動作に課題があるかを明確にすると同時に、それぞれの動きで80点を目指すようにすることで、完璧を捨てて自信を積み重ねる指導を心掛けた。

 選手たちは「大体これくらいで大丈夫」と自信を持つと、投球や送球への怖さがなくなっていく。中には、イップスを克服して強豪高校に進学し、1年生の夏からベンチ入りした選手もいるという。

 イップスは誰でも陥る可能性はあるが、未然に防げたり、軽いうちにすぐに治せたりする。100%の理想を追い求めない、「アバウトな自信」が対処法になるケースもある。(Full-Count編集部)