ネイマール危機、再び(後編)前編を読む>> パリ・サンジェルマン(PSG )のアル・ケライフィ会長の発言をきっかけに、に…
ネイマール危機、再び(後編)
前編を読む>>
パリ・サンジェルマン(PSG )のアル・ケライフィ会長の発言をきっかけに、にわかに真実味を帯びていった今夏のネイマール移籍説。それにしても、もしネイマールが移籍するとしたらいったいどこへ行くのだろうか?
バルセロナはまずないだろう。これまでもネイマール復帰反対を唱えてきたバルセロナの最大のペーニャ(サポーターグループ)は、今回、移籍の噂が流れると再び声明を発表した。
「何があろうともバルセロナにネイマールが戻ることには断固反対する」
ネイマールがバルセロナに泥をかけるような形でパリに行ったことを、彼らは決して許さない。これまでバルセロナのサポーターが一番憎んでいた選手はフィーゴだったが、ネイマールはそれ以上だとも言われている。
サポーターだけではない。バルセロナのふたつの日刊紙『ムンド・デポルティーボ』と『スポルツ』も「バルセロナがネイマールを取り戻そうとするのは大きな間違いである」と書いている。

ブラジル代表と日本代表の一戦に出場したネイマール photo by Sano Miki
実際、ネイマールの莫大な移籍金を払えるチームはそうはいない。最大の候補はチェルシーだ。新オーナーはクリスティアーノ・ロナウドとネイマールのふたりをそろえるという一大プロジェクトの構想を持っていると言われている(このふたりが合うとは到底思えないが)。代表のチームメイト、チアゴ・シウバもネイマールを誘っている。しかし、チェルシーの監督はトーマス・トゥヘルだ。かつてパリでネイマールにてこずったことを、彼は忘れてはいないだろう。
もうひとつの可能性はニューカッスルだ。ニューカッスルは昨年の10月からバックにサウジアラビアのスポンサーがつき、一躍金持ちチームとなった。しかし、カタールとサウジアラビアは犬猿の仲だ。PSGがニューカッスルにネイマールを渡すことは非現実的だ。
「CR7(クリスティアーノ・ロナウド)が抜けた穴にネイマールを」と、マンチェスター・ユナイテッドが狙っているという噂があるが、明確な目的がない限り、ネイマールを獲得するのはリスクも金額も高すぎるだろう。
カギを握るメッシの意向
一時期、噂になっていた北米MLS(メジャーリーグサッカー)ということもないだろう。なぜなら今年の2月、ネイマールはブラジルでロナウドのポッドキャストの番組にゲスト出演したのだが、その時にこんなことを言った。
「アメリカで1年くらいプレーするのはいいかもね、少ししかプレーしなくていいし、年に3、4カ月のバカンスがあるから」
これを聞いたMLSのトップ、ドン・ガーバーは不快感を示した。
「いくら有名でもキャリアの終わりの選手はいらない。リタイアしにくる選手は不要だ。我々はきちんとプレーする選手、そしてチームとリーグをリスペクトする選手を望む」
おしゃべりのしすぎで、MLSでのネイマールのイメージは非常に悪くなってしまった。
では結局、ネイマールはどうするのか。
私は90%以上の確率でPSGに残ると思っている。そう思う何よりのカギはリオネル・メッシだ。PSGはメッシが移籍した1年前とはすっかり様変わりしてしまった。同じアルゼンチン人のマウリシオ・ポチェッティーノ監督は解任され、メッシの一番の友人だったアンヘル・ディ・マリアはチームを去り、SD(スポーツ・ディレクター)のレオナルドはおらず、GKケイロル・ナバスも移籍の可能性が高い。
代わりにやってきた新監督クリストフ・ガルティエはフランス人、アドバイザーについたルイス・カンポスはモナコでキリアン・エムバペを発掘した人物だ。チームは南米カラーが消え、確実にエムバペカラーに塗り替えられようとしている。
この変化は決してメッシにとって居心地がいいものではないだろう。チームは結果を出せず、友が次々と出ていき、エムバペがチームの王となり、フランス語はうまくしゃべれず、家族もパリになかなかなじまない。これでネイマールまでいなくなれば、メッシはパリでのモチベーションを失ってしまう可能性がある。
エムバペはネイマールのことなどどうでもいい。いや、チームの規律を乱す彼のことを快く思ってはいないだろう。だが、エムパベにとってメッシはまだ必要だ。PSGがチャンピオンズリーグ(CL)を制するにはメッシの力は不可欠だ。いいプレーができるように、メッシはパリで幸せでなければならない。そしてそのためにはネイマールが必要なのだ。
カタールW杯も残留の要因
また、メッシ自身もネイマールを引き留めようとしている。彼とネイマールはここ7年、毎年スペインのイビザ島で一緒にバカンスを過ごしていた。しかし今年は別々だった。それは決して彼らの仲が悪くなったからではない。むしろその逆だ。
メッシは、ネイマールがパリに残るための布石として、自分たちの仲がよすぎるのを世間に見せるのは得策ではないと考えた。そこでネイマールに「すべては俺が考える」と言い、今回は別なところで夏を過ごすよう指示したのだ。
ネイマールのPSGとの契約は、7月1日を過ぎると自動的に2027年まで延長されることになっていたが、どちらも物言いはせず、契約は更新された。新監督のガルティエも、本心はどうかはわからないにしろ、会見では「ネイマールに対しては明確なビジョンがある」と述べている。
もうひとつ、ネイマールがパリから動かない理由がW杯だ。キャリア最後となるかもしれないカタール大会。ネイマールは何が何でも頂点に立ちたいだろう。その4カ月前にチームを変わることは、決して得策ではない。ただし、大会後には何があるかはわからないが(私の個人的な考えでは、ネイマールもメッシもパリでキャリアを終えることはないと思う)......。
PSGの新シーズンは7月5日にスタートした。ネイマールも「Back to work」というコメントとともに練習に励む姿を見せているし(メッシがそれに「いいね」をつけている)、自身のSNSではバカンス中もすごく練習したとアピールしている。
ネイマールにとって、これが最後のチャンスだ。冒頭でも述べたように、30歳の彼にはもう時間がない。今、復活しなければ、彼は中途半端に有名な選手としてサッカーの歴史に名を残してしまう。
PSGで力のあるところを再び示し、メッシ、そしてエムバペと共闘してCLを手に入れること。カタールではW杯を手に入れること。彼に背を向けてしまった者たちの心を取り戻すのに残された道はそれしかない。
選手としての運命がかかったシーズンが始まるにあたって、さすがのネイマールも力が入らないわけがない。遠回りに苦言を呈したオーナーも、新監督も納得させなければならない。これからPSGは日本に行き3試合を戦う。日本の観客はラッキーかもしれない。勝負のシーズンに向けて、ついに本気モードのスイッチの入ったネイマールを見られる可能性があるからだ。