山梨県の富士スバルラインを舞台に6月12日、今年も富士山に挑むヒルクライムレース「Mt.富士ヒルクライム(通称=富士ヒル)」が開催された。富士五号目に向かうルートは3つあるが、スバルラインは、平均勾配5.2%、最高勾配でも7.8%と最も傾斜…

山梨県の富士スバルラインを舞台に6月12日、今年も富士山に挑むヒルクライムレース「Mt.富士ヒルクライム(通称=富士ヒル)」が開催された。
富士五号目に向かうルートは3つあるが、スバルラインは、平均勾配5.2%、最高勾配でも7.8%と最も傾斜が緩く、頑張ればママチャリでもクリアできるもの。最も厳しいあざみラインでは、平均で10%、最高勾配が22%にもなるため、ルートの性質は大きく異なる。ルートによって、富士山へのヒルクライムも違う性質のものとなる。
スバルラインは勾配がゆるい反面、走行距離は25kmと長いが、ビギナーでもチャレンジしやすく、例年の完走率も極めて高い。「日本最高峰の霊山富士山に挑む」という特別な思いもあり、サイクリストに限らず、多くの参加者を集めてきた。富士ヒルは今年が18回目の開催となる。



美しいコースを7400名が駆け上がった

今年は8200名あまりのエントリーを受けての開催となった。さらに新たな試みとして、ライブ配信が取り入れられた。レース前日にあたる11日には、多くの出展ブースが立ち並ぶ、恒例のサイクルエキスポが企画されたが、これまでステージ上で行われてきたトークに代わり、スタジオ内からトークセッションを生配信し、会場内の大型ビジョンで映し出すと同時に、スマホやタブレットでどこからでも視聴できる
よう配慮された。
そして、レース当日にはJCLやJBCFといった国内プロリーグの選手を招き、主催者選抜の参加者と同走するエキシビジョンレースも企画。もちろん、この模様もライブ配信された。



富士北麓公園陸上競技場で開催されたサイクルエキスポ



会場には多くの来場者が訪れ、終日にぎわいを見せた



生配信されたウェアのセレクトを指南する講座には草場啓吾選手(愛三工業レーシングチーム)が登場



チームプレゼンテーションには、ようやく来日が叶った台湾籍のブライトンレーシングチームも登場

さらには、エキシビジョンレースに出場するチームのプレゼンテーションもスタジオから配信された。台湾籍のチームを含め、参加8チーム中、5チームのプロ選手が来場。全日本チャンピオン(開催日時点で)の草場啓吾(愛三工業レーシングチーム)や、国際レース「ツアー・オブ・ジャパン」のあざみラインを用いる富士山ステージを今年も3位でフィニッシュしているトマ・ルバ(キナンレーシングチーム)ら、実力者も登場し、大いに盛り上がった。
この日は、朝9時の開場とともに多くの来場者が会場を訪れ、午後から雨になったにもかかわらず、終日多くの来場者でにぎわった。コロナ前の通常開催が戻ってきたかのような希望に満ちた1日となった。



名物「生信玄餅」も早々に完売に



参加者全員のフルネームが書かれたボードが掲出される。自分の名前を探す



マッサージ器具も体験OK!?



人気ブランドのバイクも並ぶ

※いよいよ、レーススタート!
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そして、迎えたレース当日。早朝5時過ぎには続々と参加者がスタート会場である富士北麓公園に集まってきた。雨はこの頃には小降りになっており、天気予報によれば、午後からは晴天が望めるとのこと。
この日、最初のスタートグループとなるエキシビションレース参加選手と主催者選抜の面々のスタートは午前6時半。開会式終了後、102人がスタートし、ライブ中継も開始された。



エキシビションレース参加選手と主催者選抜組から構成される第1グループがスタート

主催者選抜は、昨年度や国内の主要レースの成績から判断し、主催者が参加を認めた「日本のヒルクライムのツワモノ」たち。富士ヒルで勝つことを年間の目標に掲げ、狙いを定めて仕上げて来ている参加者も少なくない。機材を含め、ヒルクライムに特化して仕上げたクライマーたちと、ヒルクライムを含め、オールラウンドにトップクラスのレースで戦う選手たちとのこの舞台での戦いの行方に注目が集まった。
一般のカテゴリーでは、計測開始地点をそれぞれの自転車が越えた瞬間から、フィニッシュまでを計るが、このグループのみ、トップの選手が通過した瞬間から時計が動き始めるため、スタートからすでにレースが始まっている緊張感が漂う。



ディフェンディングチャンピオンである池田隆人(TEAM ZWC)らが積極的に動く

スタートし、パレード区間の終点である胎内交差点を越える。計測開始地点過後、レースが始まった。早々にアタックがかけられ始める。ヒルクライムレースではあるが、勾配が比較的緩く、距離も長いため、ロードレースのような展開も生まれやすい。昨年の優勝者である池田隆人(TEAM ZWC)や前年2位の加藤大貴(COW GUMMA)らは、冒頭から積極的に動き、今年の大会に向けての気概を見せた。
抜け出そうという動きが生まれても、吸収されていく。昨年上位の2名はハイペースを刻み、冒頭からかなりのスピードで展開し、ついて来られない選手を振り落としにかかる。



ペースが引き上げられ、長く伸びる集団。時間を追うごとにメンバーが減っていく

あっという間に、集団は20名ほどに絞り込まれた。なおもアタックがかかるが、吸収され、集団はペースが上り、長く一列に伸びていった。



厳しい展開にメンバーが次々ふるい落とされていく

二合目を通過すると、再び加藤がペースアップを図った。この動きは決定的で、先頭は池田、真鍋晃(EMU SPEED CLUB)、板子佑士、久保田翔太郎(EMU SPEED CLUB)の5名に絞られる。ここから久保田が脱落し、集団は4名に。



先頭集団はついに4名に絞られる

四合目を通過する頃、また大きな動きが生まれた。ここまで先頭に出ることが多かった真鍋が、さらなるペースアップを始めたのだ。ディフェンディングチャンピオンである池田が堪えきれず、こぼれてしまう。板子も遅れ、先頭は真鍋と加藤の2名に絞られていった。
ラスト7kmで、真鍋が仕掛けた。後に、2名でゴール勝負となったときに競り勝つ自信がなかった、と語ったが、向かい風の中で、独走という賭けに出た。「一人になってからがキツかった」と振り返るが、真鍋はこのまま終盤の独走を続け、57分7秒という好タイムでフィニ
ッシュ。初優勝を飾ることになった。



真鍋晃(EMU SPEED CLUB)が57分7秒で優勝

まだヒルクライムに本格参戦を始めて2年という真鍋だが、初挑戦した昨年の手応えがよく、今年は機材もウェアも補給もしっかりと狙い込み、トレーニングを積み、この大会に臨んだという。チャンピオンジャージを着て、初めて優勝の実感が沸いたと、笑顔で語った。

加藤は昨年大会に続き2位、池田は試走では55分台もマークしたというが、この日は悔しい3位に沈んだ。とはいえ、この激戦の中で、2年連続表彰台を確保するのは、非常に難しいことであり、努力の賜物だと言えよう。
注目された戦いの結果は、主催者選抜選手の上位9名が1時間を切り、国際レースでも活躍するプロライダーの最上位選手よりも速かった。照準をきっちり定め、準備し、狙い込んでくれば、プロをも打ち負かすハイレベルの戦いができる戦場があるということは、改めて、一般ライダーにとって、挑み甲斐のある価値のある参戦になると言えそうだ。
女子の主催者選抜は男子の2分後にスタートし、4名の集団で展開した。抜け出したテイヨウフウと追う佐野歩(Infinity Style)のスプリント勝負になり、佐野が先着。女王となった。



女子の主催者選抜は早々に4名の集団に



テイヨウフウとのスプリントに競り勝ち、女王の座を射止めたのは佐野歩(Infinity Style)だった



表彰式を終え、トラックに集まった入賞者たち。清々しい笑顔を見せた

※自分のタイミングでスタート!
登り切った先で、待ち受けているのは……!?
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トップグループは1時間でレースを終えるが、一般参加者は、あくまで自分の選んだペースでヒルクライムに挑む。参加者はグループ分けされて、それぞれ30分のスタート枠が与えられ、その枠内の好きなタイミングでスタートすることができる。



手を振りながらスタートしていく参加者



青空の下、空いているタイミングを狙い、悠々と走り出す。多くの参加者が笑顔でスタート

枠の冒頭で一斉にスタートする感覚を楽しむ参加者がいれば、少し待機し、空いたタイミングに出ていく参加者もいる。雨は完全に止み、午前8時ごろには青空が広がった。朝は雲に覆われていた富士山も、ほぼ全身を現した。陽の光に輝く美しい新緑のスバルラインに向け、笑顔の参加者が次々とスタートして行った。
この日、出走したのは7400名あまり。スタートにはおよそ3時間40分が用意され、ゴール後は速やかに下山をお願いし、密を作らない工夫がなされたため、参加者は快適に走ることができたことだろう。今年の完走率は99%と極めて高く、「挑みやすく、満足度の高いヒルクライム」との評価をさらに確実なものにした。



ゴール後、達成感いっぱいに五合目で過ごす時間も楽しい



五合目からの絶景を楽しむ。上りきったご褒美だ!

コロナ禍にありながらも、プロ選手の参加やコンテンツのライブ配信と、新たな試みを加え、魅力度を増しているMt.富士ヒルクライム。走り方講座やウェア講座など、安全に関する内容も会場におらずとも聴くことができ、コンテンツの配信を通じて、今年参加を見送った層の富士ヒルクライムへの関心をキープし、新たな層への興味を広める効果も期待できるだろう。室内トレーニングデバイスの「ズイフト」を用いて、手軽にレースへのトレーニングができる仕掛けもあり、自分に挑戦したい思いを抱く参加者の参戦をサポートする企画も好評だ。



絶景の中を走る参加者

富士山は近くで見ると、大きく、言葉にならないオーラに溢れており、多くの日本人が、この山に臨む感覚を特別なものと感じるようだ。まだ海外からの来訪が本格化されていない今年でも、日本に住む外国籍の参加者も多く見受けられた。今後は海外からの参加も増えていくのかもしれない。Mt.富士ヒルクライムは、来年以降もさらに多くの参加者を集める大会に発展を続けていくことだろう。

画像提供:Mt.富士ヒルクライム実行委員会