第71回:注目の若手1年ぶりの優勝へ、気合いがみなぎっている白鵬昨年の夏場所以来、優勝から遠ざかっている横綱。その分、今場所にかける意気込みは強い。通算38回目の優勝へ向けて、横綱がその決意を語る。さらに今回は、横綱が注目している若手力…

第71回:注目の若手



1年ぶりの優勝へ、気合いがみなぎっている白鵬昨年の夏場所以来、優勝から遠ざかっている横綱。
その分、今場所にかける意気込みは強い。
通算38回目の優勝へ向けて、横綱がその決意を語る。
さらに今回は、横綱が注目している若手力士も紹介する――。

 大相撲夏場所(5月場所)が5月14日から東京・両国国技館で行なわれています。

 先の春場所(3月場所)では、足の負傷が悪化したことにより、途中休場を余儀なくされました。その後、リハビリを経て、春巡業の後半戦から巡業に帯同。昨今の大相撲人気もあって、春巡業は1カ月間にもわたって行なわれたため、その中で少しずつ自分の体を慣らすことができました。

 4月30日、千葉・幕張で春巡業を終えると、翌5月1日には夏場所の番付が発表されました。4横綱となって2場所目、東の横綱には春場所で優勝した稀勢の里が座り、西に鶴竜、東に日馬富士、そして西に私と続く番付です。

 番付発表後、5月3日には横綱審議委員会稽古総見が行なわれました。この日は一般の方々にも開放され、多くのファンのみなさんが国技館に詰めかけてくれました。

 注目の稀勢の里は連絡ミスなどもあって姿を見せませんでしたが、ファンのみなさんの前で力士たちの気合いは相当なものでした。誰もが精力的に稽古をこなしていたと思います。

 私は稀勢の里の弟弟子で、この夏場所で大関獲りを狙う関脇・高安に、あえて胸を出しました。普段から稽古熱心な高安は、体中砂まみれになりながらも、私の胸に何度も何度もぶつかってきました。高安の重い当たりを受けながら、私は相撲の実戦感覚が戻ってくるのを感じました。お互いにとって、かなり実のある稽古だったのではないかな、と思っています。

 横審のあとは、夏場所での対戦が予想される力士の所属する部屋を中心に、積極的に出稽古をこなしました。番数や、その質を含めて、ここ最近にはなかったほど、充実した稽古ができました。日を追うごとに体が張ってくるのが自分でもわかりましたから。

 ここまで追い込むのには、理由があります。

 私が37回目の優勝を果たしたのは、昨年の夏場所のこと。続く名古屋場所(7月場所)で足を痛めると、秋場所(9月場所)では横綱になって初めての休場を経験。以降、足の負傷の影響もあって、ずっと優勝から遠ざかっています。

 その間、日馬富士、鶴竜らが底力を見せて、年が明けて初場所(1月場所)では大関・稀勢の里が初優勝。横綱昇進を果たしました。そして、春場所から4横綱時代が到来しました。

 ひとり横綱時代、モチベーションを保つのが難しい状況の中、私は尊敬する横綱・大鵬関の優勝32回というのを目標に掲げ、そこに向かって懸命に戦ってきました。当初はとてつもない目標だと思っていたのですが、横綱として目の前の一番、一番に集中し、がむしゃらにやってきた結果、ついに大鵬関の記録に追いついて、追い越すことができました。

 ただ、それ以来、何か目標を失ってしまったような、そんな心境に陥ってしまったことは確かです。なんとか新たな目標を掲げてやってきましたが、最多優勝更新を遂げる前と後では、何かが違ったような気がします。

 そうした状態で不甲斐ない結果が続いたのもあるのかもしれませんが、横綱になって1年間も優勝から遠ざかってきたことはありません。この事実は、悔しさ以外の何物でもありません。

「白鵬もここにいるんだ!」「優勝することで自分の存在感を示さなければいけない」――そうした思いが、私の気持ちに火をつけたのだと思います。だからこそ、この場所前は自らを追い込み、ここ最近にはなかったほどの稽古を積んできました。

 迎えた夏場所、9日目を終えて私は9連勝。久しぶりに好調を維持できているので、この状態をなんとか保って1年ぶりの賜杯を手にしたいものです。

 一方、いい稽古をさせてもらった高安もここまで8勝1敗と好調。平成生まれ初の関取でもある高安の大関獲りはなるのか、夏場所での興味は膨らむばかりです。

 この夏場所、実は私が注目している若手力士がいます。今場所から新十両に昇進した、貴乃花部屋の貴源治(たかげんじ/20歳)です。

 貴源治は、双子の兄・貴公俊(たかよしとし)とともに、地方巡業で初っ切り(しょっきり)をしていたことでも知られています(※貴源治の十両昇進で、先の春巡業を最後にコンビは解消されることになった)。初っ切りとは、主に相撲の禁じ手などをユーモアたっぷりに演じる、巡業の定番メニューです。ふたりの息の合った初っ切りは、本当に見事なものです。

 それはそれとして、身長191cm、体重160kgという恵まれた体格の持ち主である貴源治。物怖じしない、強気な性格でもあり、「いずれ、この力士は大物になる!」と思って、ずっと気にして見ていました。

 注目し始めた当時は10代でしたら、「かわいい力士だなぁ」と微笑ましく、見守るスタンスでしたが、十両になった今、一層の奮起を期待したいですね。

 最大の魅力は、”やる気”を感じさせる相撲っぷり。部屋では、師匠の貴乃花親方の厳しい指導を受けていると聞いていますし、これから一段と力をつけていくことでしょう。新十両の今場所は思ったほどに星は伸びていないようですが、得意の突っ張りを磨いて、さらなる飛躍を果たすことを期待しています。

 もうひとり、紹介したい若手がいます。私と同じ宮城野部屋所属で、春場所に初土俵を踏んだ炎鵬(えんほう/22歳)です。そう、名前からもわかるとおり、炎鵬という四股名は私が考えたものです。白鵬の「鵬」の字を取り入れて、闘志が燃えさかるイメージがいいでしょう?

 その炎鵬は、幕内の遠藤と同じ金沢学院東高(現・金沢学院高)出身。卒業後、金沢学院大に進んだ彼は、世界相撲選手権軽量級で2度の優勝を飾っています。身長169cm、体重95kgと小柄ですが、相撲センスはピカイチです。

 小柄でセンス抜群の相撲を取ると言えば、横綱土俵入りで私の露払いを務めている、幕内の石浦がいます。石浦よりも体に柔軟性がある炎鵬。相撲界に慣れて、徐々に体重を増やしてトレーニングを積んでいけば、石浦とはまた違った”曲者力士”になり得ると思います。

 大学時代、入門時の付け出し制度に適用されるほどの国内ビックタイトルを手にしていないため、今場所は序ノ口からスタートになりましたが、優勝を狙える実力は十分にあります。

 ならば、今場所の狙いは、私との”ダブル優勝”でしょうか。それが実現できば、うれしい限りです。