現地7月12日(日本時間7月13日)からインドネシアの首都ジャカルタで行なわれるFIBAアジアカップ。トム・ホーバスH…
現地7月12日(日本時間7月13日)からインドネシアの首都ジャカルタで行なわれるFIBAアジアカップ。トム・ホーバスHC率いる日本男子バスケットボール代表チームに、"魂を宿す男"がついに加わる。
「アジアカップで日本代表に参加するため一旦日本へ帰ります」
日本時間の7月1日。NBAでプレーしてきた渡邊雄太は自らのツイッターでこのように記し、代表参加を表明した。6月の日本代表合宿中、ホーバスHCが渡邊のアジアカップ参加の可能性をほのめかしていたとはいえ、現時点で契約先チームが正式に決まっていない状態の彼の代表入りはファンを喜ばせた。

アジアカップ前の練習でダンクを叩き込む渡邊雄太
もちろん、日本代表にとっても朗報だ。
昨夏の東京オリンピックで日本女子代表を銀メダルに導いたホーバス氏がヘッドコーチとなりながら、日本男子代表はなかなか「主力中の主力」たる選手を招集できず、結果を出せていない。NBAを、そしてオリンピック出場などで世界を知る頼もしい男の参加は、待ち望まれたものだった。
「今回代表に合流することにしたのは、時間があれば今年の夏も代表選手として活動したいっていう気持ちが強かったからです」
アジアカップ直前のメディアとのインタビューで、東京オリンピック以来となる代表活動を決意した理由を、渡邊はそう語った。
「リーダーとして、また国際大会を今まで何度か経験している者として、今回のチームには若い選手が多く、彼らに今までの経験だったり自分が学んできたものを伝えていくということは、僕の大きな役割になってくるんじゃないかと思っています」
7月初旬、日本代表はオーストラリア・メルボルンでFIBAワールドカップ・アジア予選2試合を戦い、チャイニーズタイペイには勝利(89−49)したが、世界的ランク3位の強豪オーストラリアに98−52という大差で敗れた。オーストラリアには2月のアジア予選の試合でも敗戦を喫し、また中国とも昨年秋の同予選で連敗している。いずれの黒星も、力量に差を感じさせられたものとなった。
NBA選手も参加するのに...
一方で、敗れても仕方なしといった事情もあった。
日本は八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や馬場雄大(昨季はGリーグのテキサス・レジェンズとオーストラリアNBLメルボルン・ユナイテッドでプレー)、田中大貴(アルバルク東京)ら、東京オリンピックの主力だった選手たちの大半を招集できておらず、ベストな陣容で臨んでこられなかったからだ。
2023年ワールドカップの予選は世界中で行なわれており、近々のウインドウでは、スロベニアのルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)やフィンランドのラウリ・マルカネン(クリーブランド・キャバリアーズ)、アルゼンチンのファクンド・カンパッソ(デンバー・ナゲッツ)、チェコのトマシュ・サトランスキー(今夏ウィザーズからFCバルセロナに移籍)といったNBA選手たちが、長く厳しいシーズンのあとにもかかわらず、母国のユニフォームを着て戦っている。
2023年ワールドカップはフィリピン、日本、インドネシアの共催で、日本は開催国枠での出場が決まっている。そういう事情が主力を招集できていない状況を呼んでいるのだろうが、とはいえ他国との温度差を感じざるを得ない。
しかし、トロント・ラプターズなど過去4シーズンNBAでプレーしてきた渡邊の参加で、日本もようやく中核のエース格たる選手が1名、加わった形となった。
ホーバスHCは「ハングリーな選手がいなければカルチャーチェンジ(=勝つための飽くなき渇望をもたらすこと)はできない」と強調しつつ、渡邊の加入を歓迎した。
「(渡邊の参加は)オン・ザ・コートでも大きいですが、オフ・ザ・コートでの彼の気持ちもすばらしいです。ドンチッチも長いNBAのシーズンが終わって、プレーオフでもたくさんの試合に出て、でもシーズンが終わって1週間後にはもう『代表チームでやりたい』と言っていました。
あれにはすごいなと思いましたが、渡邊選手も考え方は一緒。今、彼もNBAの契約(を探す)とかいろいろありますが、日本のために戻ってきてくれた。いい練習をしていますし、感謝です」
渡邊を生かすプレーとは?
ホーバスHCによれば、渡邊はアジアカップでは本来のスモールフォワードではなく、パワーフォワードでの出場になるとのことだ。
日本を率いるホーバスHCは、オフェンスでは全5選手がスリーポイント(3P)ライン近辺に位置取る「ファイブアウト」を採用し、ディフェンスは速さとしつこさを生かした激しさを求め、サイズの小ささを補うスタイルを追求している。これは、206cmの長身ながらアメリカで3Pなどアウトサイドでのプレーを磨いてきた渡邊に合うものとなるのではないか。
小さくてもスピードを生かしてシュートをクリエイトするホーバスHCについて、渡邊も「そういうプレーはすごく好き」とし、「彼のバスケにアジャストするのに時間はかからない」と自信を見せる。
やや話が横道に逸れるが、アジアカップに臨む日本の12名のうち、渡邊、西田優大(シーホース三河)、富永啓生(ネブラスカ大)はいずれも左利きだ。左利き選手には相手が少し守りにくくなる優位性があると言われており、ホーバスHCも彼らが相手に「ダメージを与えられる」と期待を寄せる。
また、今年10月で28歳になる渡邊は豊富な経験を生かして、プレー面だけでなく精神的な支柱としてもチームを牽引する心づもりだ。
7月初旬のオーストラリア戦での大敗など結果の出ていない日本だが、経験の少ない若手も多い今の代表に多くを求めるのは酷だ。自身も若い頃は同じような苦い体験をしているとしながら、ベテランとなった今は自分が若い選手を導いてあげたいと、力強く語った。
「これからの選手が多いなかで、彼らを自分がリーダーとして引っ張っていくっていうのが役割だと思っています。今回『はじめまして』の選手が半分以上いて、そういった選手のこととかプレーを今、僕も学んでいる状態なのですが、アジアカップや今後の代表で、僕がリーダーになって経験や学んできたことをしっかり伝えていければと思っています」
アジアカップ最注目選手は?
出場各国が24名の予備登録メンバーを発表した6月下旬、アジアカップの公式サイトは同大会での注目選手トップ15を紹介しているが、渡邊はその1位に選ばれている。
アジアカップの1次ラウンド、世界ランク38位の日本はグループCに入り、カザフスタン(同68位)、シリア(同83位)、イラン(同23位)と対戦。4つのグループの上位チームが歩みを進める決勝トーナメントを目指す。
ただ、若い選手が多いからといって、アジアカップを「経験を積む場」にするつもりはないと言う。「僕は勝ちに行く」と、渡邊は強い口調で覚悟のほどを示した。
2019年ワールドカップ、東京オリンピックと共同キャプテンを務めた渡邊は、今大会ではその役割から外れる。だが、"アカツキファイブ"を圧倒的なリーダーシップで引っ張る姿勢は変わらないはずだ。