ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 今夏の福島開催は3年ぶりの有観客開催となって、開幕週から大いに賑わっ…
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
今夏の福島開催は3年ぶりの有観客開催となって、開幕週から大いに賑わっていました。福島のファンは競馬熱が高いことで知られていますが、夏の福島のメインイベントであるGIII七夕賞(7月10日/福島・芝2000m)は一段と盛り上がりそうです。
夏の福島開催では1週目にGIIIラジオNIKKEI賞、2週目に七夕賞が行なわれますが、この2鞍はともに中距離のハンデ戦ということで、基本的にレースの質が似ていて、馬場状態(特に天気)さえ大きく変わらなければ、七夕賞はラジオNIKKEI賞の結果が参考になりやすいです。
そこで、まずは先週のラジオNIKKEI賞を振り返ってみましょう。
基本的に開幕したばかりの馬場状態がいい福島コースは、「いかに勝負どころでロスをなくすか」という点がカギ。それが、レースの明暗を分けることになります。実際、今年のラジオNIKKEI賞はそれがよくわかるレースになりました。
一番のポイントは、勝負どころとなる3~4コーナーにかけての進路取り。早めに仕掛けて外をぶん回す馬もいれば、インでじっと動かない馬もいます。そこは、騎手それぞれの判断によりますが、ここで大事なのは"いかに我慢できるか"です。
現に今年も、結果的には(勝負どころで)ラチ沿いを通ってきた縦列の馬(逃げ馬、イン2番手、イン3番手)がコーナーをロスなく回って、最後の直線でも伸びてきました。そして、これら3頭が上位3着までを独占。いずれも、小回りコースは「こう乗るのがベスト」というお手本のような騎乗でした。
片や、勝負どころで外に進路をとった馬は、そこで脚を使う分のエネルギーと距離のロスもあって、直線で伸びきれませんでした。1番人気に推されたボーンディスウェイは、まさしくそれに該当します。
開催序盤の、まだ馬場の傷みが少ない福島の中距離戦では、「距離ロスを減らすこと」「コーナーを最短で回ること」がとても重要なのです。
翻(ひるがえ)って、秋の福島では、芝の育成が悪く、馬場が傷みやすくなります。その場合には、「イン→イン」ではなく「アウト→アウト」といった感じで、距離ロスがあっても馬場の外を回して惰性をつけたほうが、有利になることがあります。
このように、福島コースというのは「馬場状態に合わせた乗り方ができるか」、鞍上の判断力が大きく問われるコースなのです。僕は現役の時、そんな福島コースが好きでした。
さて、話を戻しましょう。先週のラジオNIKKEI賞の結果と、こうした福島競馬場の特徴も加味して、七夕賞の行方を占っていきたいと思います。
上位人気が予想されるのは、ヒートオンビート(牡5歳)、アンティシペイト(牡5歳)、フォルコメン(せん6歳)あたりでしょうか。これらは皆、どちらかと言うと大味なタイプです。
ヒートオンビートはここ最近、長めの距離を走っていることで序盤の追走が課題になります。だとしても、中団より前にとりついて、なおかつ、人気を背負うからといって安全運転の騎乗(安易に外を回すこと)をしないことが求められますが、はたして......。
アンティシペイトは、前走のリステッド競走・福島民報杯(1着。4月17日/福島・芝2000m)では大外まくりがドンピシャにハマりましたが、それはハイペースの展開と時計のかかる馬場がかみ合った印象が強いです。今回、当時とは展開も馬場も大きく変わってくると思うので、同じ競馬が通用するかどうか......。
フォルコメンも、前走のGIIIダービー卿チャレンジトロフィー(2着。4月2日/中山・芝1600m)では鮮やかな追い込みを見せましたが、同レースはハイペースで前崩れの展開だったことで、最後方待機からの大外ぶん回しがハマッた形。今回望まれている騎乗とは真逆のパターンでの好走ゆえ、そこは懸念材料となります。
立ち回りの起用さが求められる福島・芝2000mという舞台を考えると、これら上位人気馬は決して信頼度が高いとは言えません。穴馬が台頭する余地はそれなりにあると見ています。
こうした状況にあって、一番注意したいのは"逃げ馬"です。昨年もこのレースは逃げ馬と番手の馬がワンツーフィニッシュを決めましたが、再びそのパターンになる可能性は十分にあるでしょう。

昨年は中山牝馬S(写真)、七夕賞と重賞で2度、2着と好走しているロザムール
そして今年も、逃げて主導権を奪いそうなのがロザムール(牝6歳)。昨年は7番人気で逃げて2着に粘り、波乱を演出しました。
このレースで2着となって以降、その後は5戦連続でふた桁着順が続いていますが、1ハロン長い距離のレースを使ったり、自分のリズムでハナをきれなかったりと、敗因ははっきりしています。
この馬は揉まれると力を発揮できなくなるので、格上の舞台に挑戦することで大敗するのは仕方がありません。ところが、メンバーレベルが落ちてラクな展開が望める舞台ではガラッと変わってくることがあるので、要注意です。これまでも、ふた桁着順のあとに巻き返した例が3度もありますしね。
また、鞍上の丸田恭介騎手は先週、土曜福島の11レース、日曜函館の11レースとメインレースを連勝して勢いに乗っています。彼はもともと小回りコースでの立ち回りには定評のあるジョッキーですし、現在のリズムのよさを存分に生かしての一発に期待したいです。
ということで今回は、このロザムールの逃げ残りを見込んで、同馬を「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。