筆跡鑑定会社「シードスターズ」の松本代表に聞く、スポーツメモラビリア市場から見た背番号17の価値・後編 米大リーグで5年…
筆跡鑑定会社「シードスターズ」の松本代表に聞く、スポーツメモラビリア市場から見た背番号17の価値・後編
米大リーグで5年目のシーズンを送るエンゼルス・大谷翔平投手は、野球の常識を覆す投打二刀流で地位を確立。国内外での盛り上がりが、直筆サインなどいわゆるスポーツメモラビリア市場での価格の高騰にも表れている。「THE ANSWER」では筆跡鑑定会社「シードスターズ」の松本昭憲代表にインタビュー。一般のファンに知られざるメモラビリア市場の大谷人気や、市場が抱えている問題点に迫った。前後編でお届けする後編は、サイン簡略化の背景と偽サイン問題への警鐘について。(取材・文=THE ANSWER編集部・和田 秀太郎)
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昨年、大谷のサインにデザインの変化が見られた。日本人選手はMLBに移籍すると横書きに変更するケースが多いが、これまでは「大谷翔平」の漢字を縦に崩したような日本ハム時代を継続。それが徐々に簡略化され、ついに横書きのサインを書くように。これが、熱心なファンの間でひそかに話題になっている。
松本代表は昨年7月、大谷がFanatics社(オフィシャルライセンス・スポーツアパレル企業)と契約したことが背景にあるのではないかと推測する。
「NBAのザイオン・ウィリアムソンやNFLのトム・ブレイディなど、スター選手しか契約しない会社との長期契約です。私の憶測ですが、サインのノルマがあると思うんです。回復が全てのキーとなる二刀流。決められた数のサインを書くというのは指先の疲労にも繋がります。サインの需要増加に伴って、簡易的な(サインを書く)時期になるとは思います」
アスリートが身体的、時間的な負担を鑑みて、サインを簡略化するケースは少なくないという。ただ、松本代表は「個人的には簡易化されたサインは味があると思っています」とも語る。簡略化されたサインの醍醐味は「その時の選手の都合や状況が反映されるもの」であり、相場では活躍時の方が1~2万円高い傾向にある。
増える偽サインの流通、購入を考えている人が気を付けるべきこと
光もあれば影もあるスポーツメモラビリア市場。大谷の人気に伴い、偽サインの流通も増えている。日本のオークションサイトでは3000~5000円のサインが出回っているが、その多くは「本物ではありません」と松本代表は断言した。
「発送地を(日本ハム時代からのファンを装うために)北海道に設定してアカウントを5個くらい作っている人もいます。アカウント停止されても、他のアカウントで出品できるように、という魂胆だと思います」
こうした負の一面を目の当たりにしている松本代表は「ボランティア感覚、利益度外視」で、オークションサイト等で出品されているサインの真偽を判定するサービスを展開している。
「ネット上で鑑定して『おそらく本物』『おそらく偽物』と判断させていただくサービスを1000円でやっています。『これを購入するんですけど、大丈夫そうですか?』という問い合わせが来ますが、8割くらい『購入されない方が良いと思います』という返答をさせていただいています。
サインを毎日見ている私からすれば『これを本物と迷ってしまうのか、見比べて違いますよね?』と思うほど。そういうサインでも欲しい方は購入してしまうんです。もしオークションで購入することを考えていれば、お声がけいただきたいです。そうすれば偽サインを市場から排除できると思っています」
子どもが大切に部屋に飾ってあるサインが、まさかの偽物というケースもある。純粋な気持ちを踏みにじる行為だが「詐欺師は善悪など考えていません」と松本代表は力説する。今後、購入を考えている人に向けては「MLB公式サイトやFanatics社などしっかりしたところから購入すべき。少なくとも大手鑑定会社の証明が付くものを購入すべきです。それ以外で購入することは危険だと思います」と助言した。
日本市場の広がりを予感させた「佐々木朗希の登場」
日本のスポーツメモラビリア市場が米国のように成長していない背景に関しては、「証明書が無いというのが日本の問題点」と話す松本代表。「シードスターズ」では新しい方法で真贋(しんがん)を証明する方法を生み出し、特許を取得したという。
「いままでは鑑定でしか(真贋を)証明する方法が無かったのですが、サイン会場の写真や映像を使って、証明書を発行する方法です。新たな証明書として浸透していけば嬉しいです」
日本市場の広がりを予感したあるエピソードも紹介してくれた。ロッテの佐々木朗希投手という新しいスターの誕生をきっかけに、カルビーのカード付きポテトチップス「プロ野球チップス」を買い求めるファンが増えたという。
「佐々木投手の登場によって、スーパーの棚から『プロ野球チップスが無くなる』という事態が起きたそうです。期待をされていると感じました。海外の方も先行投資という意味で購入されているようです」
投資の一環でサインや野球カードを購入する層もいる市場だが、松本代表が考える「なぜ人はお金を出すのか?」の答えはシンプルだ。
「本来は手元に残したいから買うものです。投資はそれに付随していくもの。記録、記憶を残したい。記念グッズを持っていることで、パワーをもらえるのではないか。そういった側面が投資以外として多いです」
手に入れたお気に入り選手のサインやグッズから活力を与えられ、生活が彩られるファンは確実に存在する。そのために存在するのがスポーツメモラビリア市場。大谷のような市場に大きなインパクトを残した存在をきっかけとして、日本国内の清浄化と成長を願いたい。(THE ANSWER編集部・和田 秀太郎 / Shutaro Wada)