(写真左より)イズラエル・アデサニヤ、ジャレッド・キャノニア、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー、マックス・ホロウェイ/Getty Images 日本時間の7月3日(日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのT―モバイル・アリーナで『UF…

(写真左より)イズラエル・アデサニヤ、ジャレッド・キャノニア、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー、マックス・ホロウェイ/Getty Images

 日本時間の7月3日(日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのT―モバイル・アリーナで『UFC276』が開催される。

 メインイベントは、王者イズラエル・アデサニヤがジャレッド・キャノニアを迎え撃つミドル級王座5度目の防衛戦。さらに王者アレクサンダー・ヴォルカノフスキーと元王者マックス・ホロウェイの3度目の対戦となるフェザー級タイトルマッチも組まれている。ここではメインのミドル級タイトルマッチの見どころを“世界のTK”髙坂剛に語ってもらった。

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イズラエル・アデサニヤ/Getty Images

――『UFC276』のメインイベントは、ミドル級の“絶対王者”と言ってもいいアデサニヤに、ミドル級随一のKOパワーを誇るキャノニアが挑戦します。この一戦を髙坂さんはどう見ていますか?
「まず自分が感じているのは、アデサニヤがここにきてさらに成長してきているなっていうことなんですよ。前回のロバート・ウィテカーとの防衛戦の映像をじっくりと観てみたんですけど、3つの大きなポイントが見つかりました」

――どんなポイントがありましたか?
「一つはフェイントの数ですね。もともとアデサニヤはスタンドでフェイントを多用する選手ですけど、ウィテカー戦ではこれまで以上に頻繁に使っていたんですね。5ラウンド通して試合映像を観ると、あたかもそれが当たり前の動きのように見えてしまったりもするんですけど、よくよく見ると、とくに前半のラウンドでは下手したら3秒に一回くらいフェイントを入れてるんです」

――そんなに頻繁でしたか。
「それを5ラウンド通してやり続けていたので、相当相手にプレッシャーを与えることを念頭に入れて戦っていたんだろうな、と。また、そもそもアデサニヤはスタンドの距離設定が遠いじゃないですか。そこからどう距離を詰めるかというと、オーソドックスの構えから歩いてサウスに変えて詰めるパターンがあるんです」

――「歩いてサウス」とはどういうことですか?
「つまり、その場で前足と後ろ足をパッと入れ替えるのではなくて、歩くように後ろ足を前に出すように構えをサウスポーに変えて、またフェイントを入れたりしてプレッシャーをかけていたんですね。で、ここからが二つ目のポイントなんですけど、その場で足を入れ替えるスイッチと、歩くようにサウスポーに構えを変えるのは、相手にとっては大きな違いがあって、いわゆる“チェンジアップ”の効果を生むんです」

――野球の球種のチェンジアップのことですか?
「そうです。野球のチェンジアップは、ストレートの速いボールと同じ腕の振りで遅い球がくるからタイミングをずらされるじゃないですか。アデサニヤは速いスイッチと、歩くように構えを変えることを併用することによって、急に速く動いたりして、相手に反応させない形で打撃を入れるということを、これまた試合を通してやっていたんです」

――5分5ラウンドの間、いろんなフェイントを多用していた、と。
「そんなことなかなかできるものじゃないんですよ。だから5ラウンド目とか、アデサニヤはタックルでテイクダウンを取られているんです。ウィテカーが頑張ったのももちろんありますけど、さすがにアデサニヤも足が疲れたんじゃないかと思うんですね。それぐらいフェイントを仕掛けて、プレッシャーをかけ続けていましたから」

ジャレッド・キャノニア/Getty Images

――では、その2種類のスイッチを使ってタイミングをずらしてプレッシャーをかけていたのが、ポイントその2ですね。
「そして三つ目は、組技技術全般の向上ですね。昨年3月に1階級上のライトヘビー級王座に挑戦したとき、ヤン・ブラホヴィッチに寝技でトップコントロールされて自分の動きを封じられて負けてるので、おそらく相当取り組んできたんでしょうね。グラウンドの対応力がすごく上がっていて、手首をつかむリストコントロールで相手の攻めを防いで、スタンドに戻す動きがすごく良くなっていた。だからウィテカーもテイクダウン取れているんですけど、結局、攻め切れなかったんですよ」

――では話をまとめると、最新のアデサニヤからは、フェイントの多用と2種類のスイッチによるチェンジアップ効果、そしてグラウンド対応力の向上という三つの大きな成長が見られた、と。ただでさえ“ミドル級絶対王者”と呼ばれるほどの選手ですから、これは挑戦者たちにとっては、相当厄介なチャンピオンになっているということですね。
「いろんな面で相当高いレベルになっていますからね。それを考えると今回の挑戦者であるキャノニアという選手は、いい意味で“馬鹿正直”なんですよ。レギュラーボクサータイプの選手で、しっかり前手でジャブをついてワンツーや、近い距離でのアッパーなど、多彩ではないけれど忠実なボクシングをしっかりとやる」

――すごくオーソドックスだけれど、他の誰よりもパンチ力や爆発力があるわけですよね。
「それもあるし、自分が持っている技術はそんなに多くはないけれど、相手を倒すための道筋を最大限に生かす試合のやり方をしている印象があるんです。なぜ、それができるかといえば、身長の割にリーチが長いこともポイントかなと」

――キャノニアはもともとヘビー級だった選手ですけど、身長自体はミドル級の中でもそんなに大きくないですもんね。
「身長は180cmですからね。でもリーチは197cmもある。相手からするとジャブが急に伸びてくる感じがしてすごく嫌だと思うんですよ。その自分のリーチを活かした左右のストレートを軸に、しっかり前に出るプレッシャーとフィジカルの強さがあるので、それで勝ってきているな、と」

――だからこそ、ボクシングがちゃんとうまいウィテカーには封じ込まれた感じがありましたよね。
「そうですよね。基本的なところをちゃんとやろうとするから、相手からすると“たぶん次こうくるだろうな”というのが読めるというか。でも、変幻自在のアデサニヤが相手だと、逆にそれが活きる可能性がある。言ってしまえば、アデサニヤの動き自体を攻略しようにも、キャノニアの持っているボクシングテクニックからすると難しいと思うんですよ」

――ボクシングや打撃能力に定評があるウィテカーですら対応に追われたわけですもんね。
「だからもし自分がキャノニアのセコンドだったら、逆に“気にせずいつも通りやれ”と言いますね。そうしないと、さっき言ったアデサニヤのフェイントや、スピードの強弱をつけて惑わす動きに簡単に引っかかっちゃうと思うんですよ。引っかからないようにするためには、逆に細かい仕掛けや技術よりも、基本的な技術が生きる場合があるんです。変則な相手に変速で対応しようとすると、たいてい墓穴を掘りますからね」

――キャノニアからすると、自分の打撃を当てることだけ考えて、1発でも2発でも当たれば、あの破壊力ですからね。
「この階級屈指のパンチを持っているので、それを当ててアデサニヤを引かせることができれば面白くなる。また、これはアデサニヤの出方次第なんですけど、フェイントやスイッチをこれまで以上に多用したのは、相手がスタンドの技術力の高いウィテカーだったからだとも言えるんですよ」

――他の相手なら、そこまで頻繁に使う必要もないわけですもんね。
「だからその辺りの駆け引きも起こりそうな気がするんですよね。アデサニヤからすると、キャノニアが不用意に前に出てきたところでカウンターを入れたりしたいと思うんですけど。あまりフェイントを使ってキャノニアが前に出られなくなったら、世紀の凡戦になる危険性もありますからね(笑)」

――ヨエル・ロメロ戦の悪夢ふたたび(笑)。
「それはアデサニヤとしても避けたいでしょうから、キャノニアを誘うような動きをするかもしれない。そしてキャノニアの方は、そういったアデサニヤの仕掛けや罠に乗らずに、どれだけ自分の距離に入ってしっかりとワンツーや強い蹴りを入れられるか。そこにかかっていると思います」

――キャノニアはアンデウソン・シウバの脚をローキック1発で破壊したこともありましたからね。
「その自分の攻撃力を信じて前に出られるのか、そしてアデサニヤはどれだけ惑わせて、キャノニアのパワーを空転させられるか、その辺がポイントになるかと思いますね」

(聞き手・文/堀江ガンツ)

◆◆◆WOWOW『UFC -究極格闘技-』放送・配信スケジュール◆◆◆
『生中継!UFC‐究極格闘技‐ UFC276 in ラスベガス アデサニヤ、ミドル級5度目の防衛戦&ヴォルカノフスキーvsホロウェイ』

7/3(日)午前11:00[WOWOWライブ]※生中継
(WOWOWオンデマンドで同時配信)

7/5(火)午前10:00[WOWOWライブ]※リピート
(WOWOWオンデマンドで同時配信)

【対戦カード】
ミドル級タイトルマッチ/イズラエル・アデサニヤ vs ジャレッド・キャノニア
フェザー級タイトルマッチ/アレクサンダー・ヴォルカノフスキー vs マックス・ホロウェイ

【収録日・収録場所】
2022年7月2日<現地>/アメリカ・ネバダ州ラスベガス T―モバイル・アリーナ

【出演】
解説:髙坂剛、堀江ガンツ
実況:高柳謙一
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