アームレスリング世界一小寺弘士&山田よう子インタビュー 後編(前編:「全然違う」トレーニングで極めた世界の頂点>>)"緻密"な小寺と"野生"の山田。インタビュー前編では、同じアームレスリングの世界王者でもトレーニング方法や考え方は対極にある…
アームレスリング世界一
小寺弘士&山田よう子インタビュー 後編
(前編:「全然違う」トレーニングで極めた世界の頂点>>)
"緻密"な小寺と"野生"の山田。インタビュー前編では、同じアームレスリングの世界王者でもトレーニング方法や考え方は対極にあることを明かした。後編では、外国人選手との対決や過酷な減量、アームレスラーとしてのこれからについて聞いた。
アームレスリングの
「コツ」を説明する小寺(左)と山田
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外国人選手との戦い
――外国人選手は、同じ体重でもパワーが違いますか?
小寺 全然違います。組んだ瞬間......表現が合っているかはわかりませんが、"硬い"んですよね。骨も太いし、リストや腕が硬く感じるんです。そこが日本人とは違います。
――でも、そんな外国人選手を相手にも、おふたりは勝ってきたわけですからね。
小寺 1番下の階級というのはあると思いますよ。
山田 私は2019年の3月に、アメリカで開催された大会の無差別級で3位に入ってます。
小寺 僕は無差別級は無理ですね(笑)。
――山田さんは身長155cmですが、無差別級だと体格差も相当ありますよね?
山田 すごいですよ。無差別級に参加しようとした時は、大会関係者から「危ないから来るな」と言われました。それでも「私は行きます」と話をして参加させてもらったんですけど、現場に入ってからも「ここは選手が入るところですよ」と部外者扱いされました(笑)。
そのくらい、他の選手はみんな体が大きくて、体重も100kgくらいあったと思います。でも、挑戦した充実感はありました。それまでは、わりと簡単に勝ってこられたので。自慢じゃないですよ(笑)。自分の力の天井がわからない感じだったのが、無差別級でそれが理解できた感じです。
過酷な減量とリカバリー
――階級もある競技ですが、減量はどのくらいするのでしょうか?
山田 私はナチュラルウエイトですね。
小寺 僕は、えげつないほどやります。一度、80kgまで体重を増やして、そこから57kgまで減らしたこともありますよ。
山田 計量当日、同じ部屋にいた時に彼がお腹を壊して、倒れ込んで寝込んじゃったこともありますね。
小寺 その時はひどい脱水症状で、12時間ほど動けなくなりました。
――アームレスリングは前日計量ですか?
小寺 計量の翌日が左腕の試合で、2日後が右腕の試合です。だから僕は、左腕の試合は捨てるつもりで、最初から倒れる覚悟で計量に臨みました。2日後の右腕の試合に向けて、計量後のリカバリーでどれだけ体を大きくするかがポイントでした。同じくらいの体重だと勝つのが難しいですから。計量を56.5kgクリアして、結局は70.5kgまで戻りましたね。
――アームレスリングは一瞬の勝負だと思いますが、長くなる試合もありますか?
山田 私は記憶にないですね。だいたい一瞬で終わります。
小寺 僕は世界大会で1分40秒間戦ったことがあります。お互い、倒されそうになったら押し戻す、といったことを何回も繰り返して、最終的に自分が勝ちました。勝った瞬間はめちゃめちゃ嬉しかったんですけど、すぐに次の試合のこと考えないといけませんでした。
――1分40秒間となると、最後のほうはパワーが残っているんですか?
小寺 他の選手たちの長い試合を見ていてもそうですが、だいたいは開始から40秒以内で力がなくなります。そこからふたりとも一気に力がなくなって、残りの時間はほとんど力が出なくなる。おそらく、そのへんの中学生でも勝てるくらいでしょうね。あとは根性の戦いになります。
――トーナメントの序盤で長い時間戦うと、次の試合が厳しくなりますよね。
小寺 そうなんです。だから優勝しようと思ったら圧倒的な力の差で短い時間で勝っていくか、クジ運に恵まれてラクな相手を倒して上がっていくか、どちらかになると思います。力が拮抗した試合が序盤にあると難しいですね。
アームレスリング界のこれからと夢
――アームレスリングが強い国は?
山田 今は難しい情勢になっていますが、ロシア、ウクライナ、その周辺国も強いですね。
――大会の優勝賞金はどのくらいなんですか?
山田 大会の規模にもよりますけど10~20万円くらいです。収入はスポンサーさんからいただくものになりますが......アームレスリングはそんなにスポンサーさんがつかないですね。
小寺 ジムのトレーナーなどをやりながら、という方が多いですね。僕は、地元の和歌山で瓦屋の職人をやりながら、仕事終わりや休日にトレーニングをしていました。
――世界王者のふたりから見て、日本アームレスリング界の未来をどのように考えていますか?
山田 今、日本には団体が3つあるんですが、それを統一しよう、アームレスリングをメジャーにしようという気持ちでひとつにならないと厳しい。ただ、この世界に20数年いる私の感覚だと、今のままでは難しいと思います。
――世界の団体は?
山田 主にアマチュアが2団体で、別にプロの団体があります。アマチュアとプロとでは選手のレベルも違いますが、プロの無差別級になると、もう異常なレベルです。モンスター級の選手が揃っていて、本当に一瞬で勝負が決まります。
会場の雰囲気や演出も違いますね。特に、2019年12月に参加した世界最高峰の「ズロティトゥール」という大会にはまた行きたいです。海外のプロの大会は会場の盛り上がりもすごいですから、ぜひ一度、日本のみなさんにも見てもらいたいです。
――おふたりにとって、アームレスリングとは?
山田 女子で世界と戦えるのは、まだ私だけかなって思っているので、「日本代表として戦える場所」というか、「日本人は強いんだ」ということを私が証明できるところ。「日本人をナメんな!」みたいな感じで戦うのはすごく楽しいです。
小寺 日本人は最初から相手にされない感じですからね。僕も「ナメるな」という気持ちは強いです。
――これから実現したい夢はありますか?
小寺 カザフスタン、ウズベキスタンといった国などでは、小学校の体育の授業でアームレスリングが週2回くらいあるんです。日本でも、子どもの頃からアームレスリングをやる機会が増えたらいいなと思います。今はふたりともYouTubeチャンネルをやっていて、まだ反響があるとは言いがたいですが、これからもいろんな方面で競技を広めていきたいですね。
山田 私はアイドル、女優をしていた頃からすごい"いじめられっ子"だったんですが、自分を生かせることに出会って頑張ればここまでなれるということ。そして、私のような5人のママでも「夢は持っていいんだ」ということを伝えていきたいです。
アームレスリングだけではなくて、「team☆spirits」という30歳前後の女性が格闘技に打ち込む集団も作っていたんですが、コロナ禍が落ち着いてきたので活動を再開しようと思っています。メンバーは徐々に増えてきていて、シングルマザーや、力は強いけどその力をどこで使えばいいかわからないといった方なども多いです。格闘技でもアームレスリングでもいいですが、何かに力を注げる舞台を作ってあげたいと思っています。
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(取材協力:パーソナルトレーニングスタジオ Salus 目黒店)